Artists Recently 第7回/宇田義久


 私の住む岩手県盛岡市。盛岡駅の目の前には北上川が、その上流に目を移すと岩手山を望むことができます。街なかにもう一本流れる中津川は、秋には鮭が遡上し、冬になると白鳥が飛来します。盛岡は、街と自然が絶妙に入り交じった不思議な魅力のある所。四季折々、川辺を散策しながら物思いにふけるのが、私の楽しみのひとつです。

202102宇田義久‗写真1「北上川」

 しかし、丁度この文を書いている冬という季節は、東北の人間にとって、ひとつの試練の時です。特に今シーズンは寒波が厳しく、最低気温がマイナス10度以下、最高気温もマイナスの日が何日も続きました。
 古いビルの一室をアトリエにしているので、制作をするのもちょっとした勇気が必要となります。アトリエに到着し、暖房のファンヒーターを点火。ヒーターの室温表示を見ると「LO」?恐らくここは零下なのでしょう。1~2時間も暖房すれば10℃を超えますが、どんなに待っても15℃以上にならないので防寒着を着込んで作業を始めます。
 寒さで一向に乾かない絵の具を眺めながら、次の展開をのんびりイメージする。そんな冬ならではのスローな制作スタイルも、東北に育った私が身につけた、自然に逆らわない生き方のひとつかもしれません。

202102宇田義久‗写真2「2019年 石神の丘美術館 個展・岩手」

 ここ数年は、「水」をテーマにした作品を制作しています。笹舟を流した通学路沿いの小川。大人に近づくことを禁じられていた裏山の沼。真夏、必死にポンプを漕いで地下から汲み上げた冷たい井戸水。不思議と水の記憶はいつまでも色あせません。野生動物が水の在りかを忘れないように、きっと本能的なものなのでしょう。
 作品をご覧になった方が、よく水にまつわる思い出を話してくれます。作品に具体的なモデルはありませんが、過去の記憶や体験が、無意識のうちに画面の上に投影されているのかもしれません。
 雨となって地上に降った水が、川となって海へ帰り、また雲に姿を変えて再び戻ってくる、人間が生まれる前から延々と続いてきた大きな循環。水の壮大な旅に思いを馳せていると、いま不吉な疫病に世界中が激しく揺さぶられている事を、ほんの一瞬忘れさせてくれる気がします。

202102宇田義久‗写真3

 久しぶりに北上川を覗いてみると、冬になる前に比べて随分水量が減っていて、川底の黒い岩が幾つも顔を覗かせています。いま水は雪のまま山に蓄えられているところ、春の雪解けで一気に水量は元に戻るでしょう。しかし、それはまだもう少し先のこと、橋のたもとの日陰では、歩道の手すりに大きな氷柱がありました。
うだ よしひさ

■宇田義久 Yoshihisa UDA
1966年 福島県会津若松市生まれ 岩手県盛岡市在住
1992年 岩手大学特設美術科卒業
1991年 「磁気状況シリーズ」/ギャラリー彩園子(岩手・盛岡市/'95, '00, '08)
1993年 個展/ギャラリー彩園子(岩手・盛岡市/'94, '14, '16)
1996年 岩手県芸術選奨受賞・個展/盛岡クリスタル画廊(岩手・盛岡市/'99, '02)
2003年 VOCA展/上野の森美術館(東京・上野)・ホルベインスカラシップ
2004年 個展/諄子美術館(岩手・北上市/'06, '10)・個展/足利ギャラリー(福島・会津若松市)
2005年 N.E.blood21 Vol.17宇田義久展/リアス・アーク美術館(宮城・気仙沼市)
2007年 「奥の若手道」展 /リアス・アーク美術館ほか(宮城、北海道、山形)
2008年 石神の丘アートウォーク2008/石神の丘美術館(岩手・岩手町)
2009年 福島の新世代2009/福島県立美術館(福島・福島市)・多彩な表現の中で展/石井県令邸(岩手・盛岡市)・はじめる視点・博物館から覚醒するアーティストたち/福島県立博物館
2011年 センダイモリオカアート/宮城県立美術館・県民ギャラリー・「2011.3.11~展」/諄子美術館(岩手・北上市)
2012年 センダイモリオカアート/石井県令邸(岩手・盛岡市)
2013年 個展/turn around(宮城・仙台市)
2014年 BOX ART展/リアス・アーク美術館(宮城・気仙沼市)・国民文化祭秋田市/秋田県立美術館
2015年 個展/萬鉄五郎記念館 八丁土蔵ギャラリー(岩手・花巻市)・個展/MORIOKA第一画廊(岩手・盛岡市/'17)
2018年 宇田義久展/もりおか啄木・賢治青春館(岩手・盛岡市)
2020年 宇田義久展 Aqua/石神の丘美術館(岩手・岩手町)
2021年 Tricolore2021―根岸文子・宇田義久・釣光穂展/ときの忘れもの(東京)
*宇田さんは4月2日(金)~4月17日(土)に開催する「Tricolore2021―根岸文子・宇田義久・釣光穂展」に出品参加されます。どうぞご期待ください。

●作家の近況をお伝えするArtists Recentlyは毎月15日の更新です。

*画廊亭主敬白
お気遣い感謝申し上げます。
幸い岩手県は地震の揺れもさほど大きくなかったので、すでに通常の生活を送っております。
実家の福島も被害が無いようなので安心しているところです。
コロナ禍でも災害は待ってくれない、これが現実なのですね。
あすからまた冬の気候が戻ってくるようです。
雪が融けかかった盛岡も、また真っ白に戻るかもしれません。

(20210214/盛岡市・宇田義久さんからのメール)>

こちらもけっこう揺れました。
本や食器は落ちて、けっこう家のなかはぐちゃぐちゃです。
幸い、家族皆怪我などはございませんでした。
また大きい地震がくるとも言われていますので、どうかお気をつけてくださいませ。

(20210214/福島県大玉村・佐藤研吾さんからのメール)>
13日深夜の地震には驚きました。10年前の3.11の恐怖をまざまざと思い出しました。
皆さん、ご無事でしょうか。
コロナで逼塞しているのに加え、地震では泣きっ面にハチです。
福島、宮城、山形、岩手など、ご苦労されている皆様には心よりお見舞い申し上げます。

●ときの忘れものが青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転して3年が経ちました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。