杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」第60回

メンタリング


このブログを書いているのは2月下旬だというのに、20°を超える暖かな日々が続きました。まだ雪の降る日もやってくるであろうに、小さな草花は暖かな日差しを春の訪れだと勘違いをしたかのように、咲き始めました。スイスはまだまだスキーシーズン真っ只中。とはいえ僕は、今年はスキーに出かける機会もなく冬を過ごしてしまいそうです。


今回はスイスの建築士制度について少し綴ってみようと思います。

日本で建築士と言えば1級、2級建築士、木造建築士が思い浮かびます。それらは一定の受験資格を持った人が試験をパスすることで免許がおります。

一方スイスでは、日本のそれに対応する資格制度はありません。大学を卒業することで肩書きのようなものがつき、氏名表記の後ろに大学名、例えばスイス連邦工科大学であれば、ETHと付け加えてあるのをよく目にします。資格の代わりにその人がどこで教育を受けたのか、目印になっているというわけです。

資格制度がないということは、裏を返せば誰でも新築の申請ができ、設計工事監理ができるということになります。ただ、多くの人は自分で建てるわけにもいかないので、建築家を選んで設計を依頼したり、Holzbau (木造工務店)に頼んで建ててもらったりすることになります。

出身大学の他に氏名と一緒に目にするのは、SIAやBSAといったアルファベットです。SIAは Schweizerischer Ingenieur- und Architektenvereinの略、スイスエンジニア建築家協会です。このSIAが建築のガイドラインや実質的な法規を定めています。

設計のガイドラインはSIAの他にも、建築が建つその場所の各自治体が定めたり、その他の専門機関(消防関係、バリアフリー関係など)が定めたり。。と設計をしていくうちにいくつかの資料を集めて、それらを比べて寸法を決めていかなければならないことがあります。
例えば、小学校の階段の踏面や蹴上げ、廊下の最小幅などを調べると、それぞれの機関がガイドラインとして求めていることに違いが出ています。


BSA、独立して建築設計活動をしている人のみ所属できるのが、Bund Schweizer Architektenです。スイス建築家連合と訳してみます。BSAメンバーには、独立して設計活動をしていて、実現された建築も評価されたうえで、加わることができます。
SIAが会社員でもなれるのに対して、BSAは自分で設計事務所を主宰している必要があります。

僕は3年くらい前からSIAのメンバーになったものの、毎月届くTEC21というマガジン(第28回の記事を参照)に目を通し、定期メールでイベント情報などを見るくらい。特別に何かに参加したことはありませんでした。


そんな中、ふと先日届いたメールにメンタリングプログラムの応募要項がありました。
昨年も同様のメールが来て、やってみようかなと思った時には応募締め切りになってしまっていたので、今年は応募だけでもしてみようと、早速登録しました。

メンター、メンティーという言葉はスイスに来てからよく耳にするようになりました。
SIAのメンタリングプログラムの内容はまだ詳しくはわかりませんが、簡単に言えば、経験を積んだ建築家と若手建築家の交流のきっかけを作り、互いに知識、情報交換をして設計活動をサポートしていこうという企画になっているようです。

今、見ているものとは全く違った視点で物事を見直すきっかけになるかもしれないし、全然期待はずれになるかもしれない。
同じ建築に従事している建築家でも、全く違った方向をむいて設計活動をしている人から、別の新しい視点を得ることができるかもしれない。

どういう風に進んでいくのかは、後日またアップしていこうと思っています。
すぎやま こういちろう

杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
00be12af-s日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ピーターメルクリ スタジオ)に留学。大学院修了後、建築家として活動する。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントー アンド パートナーにて研修、2015年から同アトリエ勤務。
2016年から同アトリエのワークショップチーフ、2017年からプロジェクトリーダー。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。”建築と社会の関係を視覚化する”メディア、アーキテクチャーフォトにて隔月13日に連載エッセイを綴っています。興味が湧いた方は合わせてご覧になってください。

・杉山幸一郎さんの連載エッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。

*画廊亭主敬白
きょうは、瑛九(えいきゅう、1911- 1960)の命日。当館では2016年「瑛九1935-1937 闇の中で「レアル」をさがす」展を開催しました。
次会期 #MOMATコレクション展 では、《れいめい》1957年、《地球の外に》1957年、《白い丸》1958年 を展示予定です。(画像は《れいめい》1957年です。)

20210310/東京国立近代美術館広報さんの【公式】twitterより>
近美がわが瑛九の命日を称えてくださるとは(感涙)。広報さんに感謝! 
明日11日の「中村哲医師とペシャワール会を支援する頒布会」に瑛九作品を出品しますので、どうぞお楽しみに。

塩見允枝子のエッセイ「フルクサスの回想」第4回を掲載しました。合わせて連載記念の特別頒布会を開催しています。
AAA_0173塩見允枝子先生には11月から2021年4月までの6回にわたりエッセイをご執筆いただきます。2月28日には第4回目の特別頒布会を開催しました。お気軽にお問い合わせください。

●東京・天王洲アイルの寺田倉庫 WHAT で「謳う建築」展が5月30日(日)まで開催され、佐藤研吾が出品しています。

●ときの忘れものが青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転して3年が経ちました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。