市川絢菜「戦後現代美術の動向/デモクラート、フルクサス、実験工房、もの派」第3回
『実験工房』
1951年から1958年にかけて活動していた実験工房は当時20代の青年芸術家によるグループです。実験工房では会場全体をひとつの構成物とし、造形、音楽、写真、文学、光の表現など、芸術の分野にとらわれず互いに協力しあい作品を制作しました。構成員はその都度異なり、活動はプロジェクト・チームのような形で行われました。当時、ミクスト・メディアに特化したグループ活動がほとんど存在しないなかでの活動でした。
1948年、モダン・アートに関わる作家たちの集まりである「日本アヴァンギャルド美術家クラブ」にて北代省三と山口勝弘、福島秀子は出会います。福島の家で美術と音楽それぞれの分野の作家たちが出会い、その後も交流を持つようになったのが実験工房の始まりです。そして、その名付け親でもある瀧口修造は、グループ活動の精神的な柱となります。瀧口はその活動について多くの文章を寄せており、その活動を大いに支えることとなります。
1951年、読売新聞社から依頼されたバレエ公演『生きる悦び』の上演をもって実験工房の活動はスタートしました。この公演では、照明も作品を支える大きな要素として取り入れており、当時では新しい試みでした。現代音楽の解説を行っていた秋山邦晴の影響もあり、1952年の『実験工房第2回発表会「現代音楽演奏会」』では海外の作曲家作品の初演を行うなど、現代音楽を積極的に紹介していたのも大きな特徴といえます。
また、映画、テレビ、オートスライドといった新しい素材、新しいメディアを積極的に取り込むことで、視聴覚の総合芸術を作り出すことに取り組みます。オートスライド・プロジェクターを開発した東京通信工業と関係を持ったことをきっかけに、1953年の『実験工房第5回発表会』では、オートスライドを用いた作品が4点発表されています。このような科学技術を取り入れる動きは革新的であり、リーダー的存在であった北代省三が理工学を学んでいたこととも関係しているでしょう。
実験工房は分野を問わず様々な依頼や企画にも協力していきました。このような外部と関わる仕事を経て、作家個人の活動もその後発展していくこととなりました。
メンバー:瀧口修造、大辻清司、北代省三、駒井哲郎、福島秀子、山口勝弘、佐藤慶次郎、鈴木博義、園田高弘、武満徹、福島和夫、湯浅譲二、秋山邦晴、今井直次、山崎英夫
実験工房写真①
《実験工房》の記念写真。
(第11回オマージュ瀧口修造 実験工房と瀧口修造(1991年7月8日―31日))
山崎英夫を除く全員がそろっている。1954年、ヨーロッパから帰朝した園田高弘の歓迎会のあと撮影されたものか。前列左から瀧口修造、園田高弘夫妻、福島秀子、武満徹、湯浅譲二、鈴木博義、佐藤慶次郎。後列左から北代省三、秋山邦晴、山口勝弘、駒井哲郎、福島和夫、今井直次。下の写真では上の写真を撮影した大辻清司(下の写真の後列左端)が下の写真を撮影した北代と入れ替わっている。
実験工房写真②
1951年-バレエ『生きる悦び』の舞台セット(模型)(美術:北代省三、山口勝弘、福島秀子)
(第11回オマージュ瀧口修造 実験工房と瀧口修造(1991年7月8日―31日) )
実験工房写真③
「実験工房第3回発表会」(2月―10日 タケミヤ画廊)案内状(装丁:北代省三)1952年
(メディアアートの先駆者 山口勝弘展 「実験工房」からテアトリーヌまで)
参考文献:
・第11回オマージュ瀧口修造 実験工房と瀧口修造(1991年7月8日―31日)
佐谷画廊 1991年
・メディアアートの先駆者 山口勝弘展 「実験工房」からテアトリーヌまで
美術館連絡協議会 2006年
・コレクション瀧口修造7 実験工房 アンデパンダン
みすず書房 1992年
(いちかわ あやな)
■市川絢菜 ICHIKAWA AYANA
1992年 香川生まれ
2015年 筑波大学 芸術専門学群 特別カリキュラム版画 卒業
2017年 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 芸術専攻 修了
現在 筑波大学 芸術系 特任研究員
・主な個展
2021年 『GROSSY objet』River Coffee & Gallery
2020年 『ICHIKAWAAYANA : LIKENESS』筑波大学 大学会館 アートスペース/our place LABORATORY
・市川絢菜「戦後現代美術の動向/デモクラート、フルクサス、実験工房、もの派」は9月より4回にわたり連載します。
2021年9月24日戦後現代美術の動向 第1回『デモクラート』
2021年10月30日戦後現代美術の動向 第2回『フルクサス』
2022年1月12日戦後現代美術の動向 第3回『実験工房』
2022年3月4日戦後現代美術の動向 第4回『もの派』
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています。WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
『実験工房』
1951年から1958年にかけて活動していた実験工房は当時20代の青年芸術家によるグループです。実験工房では会場全体をひとつの構成物とし、造形、音楽、写真、文学、光の表現など、芸術の分野にとらわれず互いに協力しあい作品を制作しました。構成員はその都度異なり、活動はプロジェクト・チームのような形で行われました。当時、ミクスト・メディアに特化したグループ活動がほとんど存在しないなかでの活動でした。
1948年、モダン・アートに関わる作家たちの集まりである「日本アヴァンギャルド美術家クラブ」にて北代省三と山口勝弘、福島秀子は出会います。福島の家で美術と音楽それぞれの分野の作家たちが出会い、その後も交流を持つようになったのが実験工房の始まりです。そして、その名付け親でもある瀧口修造は、グループ活動の精神的な柱となります。瀧口はその活動について多くの文章を寄せており、その活動を大いに支えることとなります。
1951年、読売新聞社から依頼されたバレエ公演『生きる悦び』の上演をもって実験工房の活動はスタートしました。この公演では、照明も作品を支える大きな要素として取り入れており、当時では新しい試みでした。現代音楽の解説を行っていた秋山邦晴の影響もあり、1952年の『実験工房第2回発表会「現代音楽演奏会」』では海外の作曲家作品の初演を行うなど、現代音楽を積極的に紹介していたのも大きな特徴といえます。
また、映画、テレビ、オートスライドといった新しい素材、新しいメディアを積極的に取り込むことで、視聴覚の総合芸術を作り出すことに取り組みます。オートスライド・プロジェクターを開発した東京通信工業と関係を持ったことをきっかけに、1953年の『実験工房第5回発表会』では、オートスライドを用いた作品が4点発表されています。このような科学技術を取り入れる動きは革新的であり、リーダー的存在であった北代省三が理工学を学んでいたこととも関係しているでしょう。
実験工房は分野を問わず様々な依頼や企画にも協力していきました。このような外部と関わる仕事を経て、作家個人の活動もその後発展していくこととなりました。
メンバー:瀧口修造、大辻清司、北代省三、駒井哲郎、福島秀子、山口勝弘、佐藤慶次郎、鈴木博義、園田高弘、武満徹、福島和夫、湯浅譲二、秋山邦晴、今井直次、山崎英夫
実験工房写真①
《実験工房》の記念写真。(第11回オマージュ瀧口修造 実験工房と瀧口修造(1991年7月8日―31日))
山崎英夫を除く全員がそろっている。1954年、ヨーロッパから帰朝した園田高弘の歓迎会のあと撮影されたものか。前列左から瀧口修造、園田高弘夫妻、福島秀子、武満徹、湯浅譲二、鈴木博義、佐藤慶次郎。後列左から北代省三、秋山邦晴、山口勝弘、駒井哲郎、福島和夫、今井直次。下の写真では上の写真を撮影した大辻清司(下の写真の後列左端)が下の写真を撮影した北代と入れ替わっている。
実験工房写真②
1951年-バレエ『生きる悦び』の舞台セット(模型)(美術:北代省三、山口勝弘、福島秀子)(第11回オマージュ瀧口修造 実験工房と瀧口修造(1991年7月8日―31日) )
実験工房写真③
「実験工房第3回発表会」(2月―10日 タケミヤ画廊)案内状(装丁:北代省三)1952年(メディアアートの先駆者 山口勝弘展 「実験工房」からテアトリーヌまで)
参考文献:
・第11回オマージュ瀧口修造 実験工房と瀧口修造(1991年7月8日―31日)
佐谷画廊 1991年
・メディアアートの先駆者 山口勝弘展 「実験工房」からテアトリーヌまで
美術館連絡協議会 2006年
・コレクション瀧口修造7 実験工房 アンデパンダン
みすず書房 1992年
(いちかわ あやな)
■市川絢菜 ICHIKAWA AYANA
1992年 香川生まれ
2015年 筑波大学 芸術専門学群 特別カリキュラム版画 卒業
2017年 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 芸術専攻 修了
現在 筑波大学 芸術系 特任研究員
・主な個展
2021年 『GROSSY objet』River Coffee & Gallery
2020年 『ICHIKAWAAYANA : LIKENESS』筑波大学 大学会館 アートスペース/our place LABORATORY
・市川絢菜「戦後現代美術の動向/デモクラート、フルクサス、実験工房、もの派」は9月より4回にわたり連載します。
2021年9月24日戦後現代美術の動向 第1回『デモクラート』
2021年10月30日戦後現代美術の動向 第2回『フルクサス』
2022年1月12日戦後現代美術の動向 第3回『実験工房』
2022年3月4日戦後現代美術の動向 第4回『もの派』
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています。WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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