ヴィンテージ・プリントについて(再録)
原茂
ヴィンテージ・プリントの貴重性ということですが、これについては、たとえば、希少性、資料性、芸術性といったいくつかの視点から考えることができるかと思います。
希少性ということでいえば、現在巨匠と言われている写真家たちが活躍した時代は、写真を美術品として販売することは一般的ではなく、版画のように枚数を決めてプリントするということはありませんでした。ですからヴィンテージ・プリントとは最初期の数枚(印刷原稿用、展示用、プレゼント用、保管用等)ということになります。希少性が高く高価で取引されることになります。
その後、写真が美術品として取り扱われるようになると、同じ「プリント」として、版画の販売方法が参考にされるようになります。限定部数(エディション)を決めて、それ以上はプリントしないという形(厳密にはネガにハサミを入れる)を取って、希少性を担保するわけです(もっとも、今日でも限定部数を定めない写真家もいます)。この場合には、そのエディションされたものがヴィンテージといっていいわけですが、それ以外にはプリントが存在しないわけなので、改めてヴィンテージ・プリントとは言わない場合が多いようです。あくまでも、他に多くのプリント(作家が後にプリントしたモダン・プリント、作家以外のプリンターがプリントしたモダン・プリント、作家の死後著作権者の許可を得てプリントされたエステート・プリント等)がある中で、作家が撮影したと同時ないしは極めて近い期間にプリントされ、撮影時の作家の意図が最も良く反映されたプリントを、ヴィンテージ・プリントと呼ぶのが一般的かと思います。
写真は撮った当時のプリントが最高かどうかということについては、資料性と芸術性に関わる問題かと思います。巨匠アンセル・アダムスは、ネガを楽譜、プリントを演奏に例えましたが、芸術性ということであれば、作家が同じネガから若いときにプリントしたものと円熟してからプリントしたもののどちらが優れているかを一概に決めることは難しいでしょう(グールドのゴールドベルク変奏曲の1955年モノラル録音と1981年デジタル録音を比べるようなものでしょうか)。けれども、資料性ということから言えば、やはり、「撮影時の意図」を最も表現しているものとして、ヴィンテージ・プリントの方がモダンプリントよりも優れているということになるでしょう。また、経済的合理性や環境問題の面でフィルムや印画紙の種類や質が年々落ちているために、モダンプ・リントではヴィンテージ・プリントのような「黒の締まり」や「豊富な階調」が出ていないということがあるようです。結果的に、現在のところ、作家自身によるプリントであっても、価格的には(芸術的ということではありません)ヴィンテージ・プリントを超えるようなモダン・プリントというのはまだないように思います。
価格ということであれば、当然絵柄の問題は大きくなります。人気のない(芸術性に欠けると言うことでは全くありません)作品のヴィンテージ・プリントよりも、人気のある(代表作である、写真集に載っている等)作品のモダンプリントの方が高額で取引されることは少なくないと思います。
拙速を尊ぶということで、素人に毛の生えたような人間が思いつくまま、とりとめないことを書いてしまいました。思い違いやあからさまな間違いなどあるかと思います。先輩方のご叱責ご訂正をお願いする次第です。
(2008年06月16日|ブログ コレクターの声より再録)
細江英公 "Casa Mila 『ガウディの宇宙』59"
1977-78
Printed in 1986
ヴィンテージ・ゼラチンシルバープリント(パネル張り)
イメージサイズ:40.0x59.8cm
サインあり
細江英公 "Bellesguard"
1978
Printed in 1986
ヴィンテージ・ゼラチンシルバープリント(パネル張り)
イメージサイズ:82.0x55.0cm
サインあり
◆ガウディ生誕170年 細江英公写真展
2022年6月21日(火)~7月9日(土) 11:00-19:00 *日・月・祝日休廊

今年はスペインの建築家アントニ・ガウディ(1852-1926)の生誕170年記念の年です。写真家・細江英公(b. 1933)は1964年にバルセロナでガウディ建築と衝撃的な出会いをします。その13年後、1977年から数度に亘って「サグラダファミリア」「グエル公園」「カサバトリョ」などガウディ建築の撮影を行ない、〈ガウディへの讃歌〉を発表しました。細江英公のエッセイ<「ガウディ」の肉体と霊性>に詳しくその経緯が書かれています。40年以上も前に撮影・プリントされたヴィンテージプリントを20点ご覧いただきます。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊
原茂
ヴィンテージ・プリントの貴重性ということですが、これについては、たとえば、希少性、資料性、芸術性といったいくつかの視点から考えることができるかと思います。
希少性ということでいえば、現在巨匠と言われている写真家たちが活躍した時代は、写真を美術品として販売することは一般的ではなく、版画のように枚数を決めてプリントするということはありませんでした。ですからヴィンテージ・プリントとは最初期の数枚(印刷原稿用、展示用、プレゼント用、保管用等)ということになります。希少性が高く高価で取引されることになります。
その後、写真が美術品として取り扱われるようになると、同じ「プリント」として、版画の販売方法が参考にされるようになります。限定部数(エディション)を決めて、それ以上はプリントしないという形(厳密にはネガにハサミを入れる)を取って、希少性を担保するわけです(もっとも、今日でも限定部数を定めない写真家もいます)。この場合には、そのエディションされたものがヴィンテージといっていいわけですが、それ以外にはプリントが存在しないわけなので、改めてヴィンテージ・プリントとは言わない場合が多いようです。あくまでも、他に多くのプリント(作家が後にプリントしたモダン・プリント、作家以外のプリンターがプリントしたモダン・プリント、作家の死後著作権者の許可を得てプリントされたエステート・プリント等)がある中で、作家が撮影したと同時ないしは極めて近い期間にプリントされ、撮影時の作家の意図が最も良く反映されたプリントを、ヴィンテージ・プリントと呼ぶのが一般的かと思います。
写真は撮った当時のプリントが最高かどうかということについては、資料性と芸術性に関わる問題かと思います。巨匠アンセル・アダムスは、ネガを楽譜、プリントを演奏に例えましたが、芸術性ということであれば、作家が同じネガから若いときにプリントしたものと円熟してからプリントしたもののどちらが優れているかを一概に決めることは難しいでしょう(グールドのゴールドベルク変奏曲の1955年モノラル録音と1981年デジタル録音を比べるようなものでしょうか)。けれども、資料性ということから言えば、やはり、「撮影時の意図」を最も表現しているものとして、ヴィンテージ・プリントの方がモダンプリントよりも優れているということになるでしょう。また、経済的合理性や環境問題の面でフィルムや印画紙の種類や質が年々落ちているために、モダンプ・リントではヴィンテージ・プリントのような「黒の締まり」や「豊富な階調」が出ていないということがあるようです。結果的に、現在のところ、作家自身によるプリントであっても、価格的には(芸術的ということではありません)ヴィンテージ・プリントを超えるようなモダン・プリントというのはまだないように思います。
価格ということであれば、当然絵柄の問題は大きくなります。人気のない(芸術性に欠けると言うことでは全くありません)作品のヴィンテージ・プリントよりも、人気のある(代表作である、写真集に載っている等)作品のモダンプリントの方が高額で取引されることは少なくないと思います。
拙速を尊ぶということで、素人に毛の生えたような人間が思いつくまま、とりとめないことを書いてしまいました。思い違いやあからさまな間違いなどあるかと思います。先輩方のご叱責ご訂正をお願いする次第です。
(2008年06月16日|ブログ コレクターの声より再録)
細江英公 "Casa Mila 『ガウディの宇宙』59"1977-78
Printed in 1986
ヴィンテージ・ゼラチンシルバープリント(パネル張り)
イメージサイズ:40.0x59.8cm
サインあり
細江英公 "Bellesguard"1978
Printed in 1986
ヴィンテージ・ゼラチンシルバープリント(パネル張り)
イメージサイズ:82.0x55.0cm
サインあり
◆ガウディ生誕170年 細江英公写真展
2022年6月21日(火)~7月9日(土) 11:00-19:00 *日・月・祝日休廊

今年はスペインの建築家アントニ・ガウディ(1852-1926)の生誕170年記念の年です。写真家・細江英公(b. 1933)は1964年にバルセロナでガウディ建築と衝撃的な出会いをします。その13年後、1977年から数度に亘って「サグラダファミリア」「グエル公園」「カサバトリョ」などガウディ建築の撮影を行ない、〈ガウディへの讃歌〉を発表しました。細江英公のエッセイ<「ガウディ」の肉体と霊性>に詳しくその経緯が書かれています。40年以上も前に撮影・プリントされたヴィンテージプリントを20点ご覧いただきます。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊
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