ただいま開催中の「第31回 瑛九展」は油彩点描(10号)の代表作も出品していますが、展示の主眼は銅版画とリトグラフです。出品の概要(全点ではありません)は10月4日ブログに書きましたが、本日はもう少し書き足しましょう。
瑛九は銅版画を約350点、リトグラフ(石版画)を約160点制作しました。
材料も機械も紙も粗末なものしか無かった1950年代、浦和の自宅にプレス機を備え、銅版もリトグラフもほとんど自分で刷っています(作家自刷り)。
銅版画の自刷りは極めて少なく、現時点で全点を所蔵している美術館や個人は無いと思われます。
リトグラフ(石版画)に関しては、山形県酒田の本間美術館が瑛九生前に140点をまとめて購入し、その後も追加購入し、リトグラフのほぼすべて(145点)を収蔵しています。

瑛九の自刷り銅版画
48歳で逝った短い生涯の中で1950年代に集中して制作したのが銅版画です。
1951年から1958年までの僅か足掛け8年の間に銅版画を約350点制作しました。
銅版画の詩人と謡われた日本を代表する銅版画家・駒井哲郎が15歳から56歳で亡くなるまで40数年かけて制作したのが約600点です。それに比べても驚きべき制作点数です。並行して1956年からはリトグラフにも本格的に取り組み、僅か数年間に約160点を同時に制作したのですから、晩年の数年間の約510点にも及ぶ制作は瑛九の版画への熱中ぶりがわかります。

アトリエに遺されていた瑛九の銅版画の原版は、いま宮崎県立美術館に収蔵、保管されています。
先日、同館の小林美紀先生にお願いして、同館所蔵の銅版画の原版をカウントしていただきました(小林先生に感謝!)。
原版の枚数は277枚               
 *その他に作者不明のものが7枚あり。
作品点数は349点(作品として成立しているもの)
 つまり、277枚の原版のうち、複数は裏表両面に描画されています。
 *その他に、未腐食2点や、裏面に作品とはわからないものがある6点ほどあり。
亭主が以前から推定していた約350点という数字はそう間違ってはいないようです。

10月4日のブログには11点の銅版自刷り作品を紹介しましたが、さらに3点を追加でご紹介します。
いずれも超稀少作品です。

57_牧哥_trm瑛九《牧哥》または《愛のよろこび》
1953年
エッチング(自刷り)
イメージサイズ:23.5×18.2cm
シートサイズ:31.5×23.4cm
自刷り:限定25部 
画面右下にサインと年記あり
裏面にタイトル「牧哥」と記載あり
*杉田都編・私家版レゾネ「瑛九銅版写真集」には、加筆前の画像が「愛のよろこび」1953、限定25と記載あり、おそらく残っていた加筆前の作品を撮影したものと思われる。実際に限定25部とされるものは加筆後の作品と推定される。
*南天子版「瑛九原作銅版画集総目録」には第4集所収「愛のよろこび」1954と記載


58_にわとり_trm瑛九《にわとり》または《鳥の精》
1952年
エッチング(自刷り)
イメージサイズ:11.4×9.0cm
シートサイズ:19.0×18.0cm
自刷り:限定8部 
画面右下にサインあり
*杉田都編・私家版レゾネ「瑛九銅版写真集」No.31「鳥の精」1952、限定8と記載あり、
*林グラフィックプレス版「瑛九・銅版画」カタログではNo.171「鳥の精」1952、E.A.8と記載あり



59_不安な街_trm瑛九《不安な街》または《庭園》
1953年
エッチング(自刷り)
イメージサイズ:23.5×18.0cm
シートサイズ:31.5×23.3cm
自刷り:限定25部 
画面右下にサインと年記あり
裏面にタイトル「不安な街」と記載あり
*杉田都編・私家版レゾネ「瑛九銅版写真集」No.87「庭園」1953、限定25と記載あり
*南天子版「瑛九原作銅版画集総目録」には第2集所収「庭園」1953と記載


瑛九の銅版画の総目録(カタログ・レゾネ)は残念ながらありません。
亭主が作品データを特定するために使用しているものは以下の3つです。
1)杉田都編・私家版レゾネ「瑛九銅版写真集」
  瑛九没後、夫人の杉田都さんによって作成された写真アルバムで229点が収録されています。
2)南天子版「瑛九原作銅版画集総目録」
  久保貞次郎らによって企図された最初の後刷り版画集(全5巻、50点収録)のカタログです。
3)林グラフィックプレス版「瑛九・銅版画」カタログ
  南天子版の後刷り50点や、他の小規模の後刷り作品を除く278点を林グラフィックプレスが後刷りしました。その後刷りのカタログです。

一番重要なのは、杉田都編・私家版レゾネ「瑛九銅版写真集」です。
南天子版「瑛九原作銅版画集総目録」も、林グラフィックプレス版「瑛九・銅版画」カタログも基本的には「瑛九銅版写真集」に依拠しています。
私家版で数冊しかない貴重なものなので、一般の方は存在すら知らないでしょう。
宮崎県立美術館のご厚意で、同館所蔵の杉田都編・私家版レゾネ「瑛九銅版写真集」の画像を送っていただきましたので、ご覧ください。
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*画廊亭主敬白
瑛九展がおかげさまで好評です。瑛九となると他が見えなくなる亭主ではありますが、いろいろ皆さんにお知らせしなかればならない事柄が目白押し。
近日中にブログでご案内しますが、今年から来年にかけてジョナス・メカスさんの生誕100年記念イベントがたくさんあり、先ずは、井上春生監督によるジョナス・メカス×吉増剛造のドキュメンタリー映画『眩暈 VERTIGO』の試写会が始まっています。ときの忘れもの枠でご招待あり、ぜひ応募してください。

第31回 瑛九展
会期=2022年10月7日(金)~10月22日(土)※日・月・祝日休廊
出品作品の詳細と展示風景は10月4日ブログをご覧ください。
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明日から「クボテーって誰? 希代のパトロン久保貞次郎と芸術家たち
会期:10月15日[土]~10月29日[土] *日曜休廊
会場:ストライプハウスギャラリー STRIPED HOUSE GALLERY
  〒106-0032 東京都港区六本木 5-10-33
  Tel:03-3405-8108 / Fax:03-3403-6354
主催:久保貞次郎の会
久保貞次郎の会_案内状_表面1280

久保貞次郎の会_案内状_宛名面1280