久保貞次郎先生の思い出
竹田鎮三郎「思い出のテワンテペック」
久保貞次郎の会 藤沼秀子
レオナルド・ダ・ヴィンチの言葉です。
「一切の生命の根源は、運動である。動的な生命現象を絵画表現の中に描き出すこと」

「思い出のテワンテペック」1975年 竹田鎮三郎
竹田先生の「思い出のテワンテペック」は、激しく動いています。しかも確かな熱を帯びて輝いています。
………今日は、ディア・デ・ムエルトス(死者の日)、待ちに待った「晴れ」の日です。
女たちは、毎日の心配事から解放されて、一年間貯めに溜めた、うっぷんやストレスをエネルギー源にして爆発します。
豊かな髪にお気に入りのリボンを三編みに編み込み、チクチクと刺繍し手仕事で、この日の為に用意した、マリーゴールド色の入ったドレスを身につけています。
さぁ、広場へ急ぎましょう。
踊りの輪の中心には、太陽と月の女神がピラミッドから駆けつけています。
女たちの熱気で、熱上昇気流が起こり、パペルピカード(カラフルな飾り紙)やサボテンまでもが宙を舞っています。
いよいよ空が割れて、錦糸のような光の帯が現れます。
それを合図に、(ちょっと見はカラベラ骸骨ですが)懐かしい父や母や、マエストロが美しい音楽を奏でに遠くの楽園から会いに来てくれます。
男たちは、ソンブレロを深く被り、女たちが作ってくれたテキーラを舐めながら優しく見守っています。
………
こんな物語を想像してみました。
竹田先生は、絵にはストーリーが必要だとおっしゃっています。
この絵は、私が跡見短大を卒業して7~8年後、どうしても大きな油絵が欲しいと久保先生にお願いして、購入しました。
100万円と、当時(今も)の私には初めての高額なお買い物でした。
私は、竹田先生の泥くさい生命力(失礼)や、ストレートな欲望の表現に大変惹かれていました。
40年近く前の事なので、詳細は忘れてしまいましたが、当時、故 清水たま子さん(久保先生の秘書をされていました。後に竹田先生の優秀な秘書となられる。絵本作家 代表作:ワニのお嫁さんとハチドリのお嫁さん)が盛んに勧めて下さったのを覚えています。
100万円と高額であったので、気の小さい私は、久保先生から購入したという文書を下さいとお願いしました。
今考えると、赤面な行動でしたが、当時は失礼だと思い付きもしませんでした。
久保先生は、直ぐに、素敵な和紙の便箋に、久保先生の律義な筆跡と、
何と実印(だと思われます)を押印した証明書を送って下さいました。
しかも、久保先生自ら、竹田先生の「大作」と記載して下さったのです。
嬉しくて嬉しくて、無くしてはならじとタンスの奥にしまい込みました。
今回、ストライプハウスギャラリー展示に向けて、タンスから出してみて思いがけない発見がありました。
表題が「インディオの女たち」1970年作
となっていたのです。

家にある絵を確認したところ
1975年
となっているではありませんか。
メキシコの地で、岡本太郎巨大壁画「明日の神話」制作を支えた関係で2015年岡本太郎美術館で開催された、
「竹田鎮三郎 メキシコに架けたアートの橋」
直前の2013年に開催された、青山のギャラリーでの、竹田先生叙勲記念の展覧会で頂いたパンフレットには
「Memoria de Tohuantepec 1975」
とあります。
久保先生の中のイメージで
「インディオの女たち」
と表題をつけて下さったと考えます。 本当にありがたい「副題」です。
制作年1970年→1975年
はミステリーなので、調べる楽しみにわくわくします。

又、絵の左面下方に、絵の具の
剥落があります。
剥落は、購入後、大分経って気が付きました。
ある時、来日していた竹田先生にお会いして、その旨お話すると、
「あー簡単ですよ。ちょちょと直します。持って来て下さい。」と、おっしゃって下さいました。
先生のお住まいの、メヒコのオァハカまで、大型の絵を持って行くのは、はぁ大変です。
1990年の上記画集でも、剥落が確認できるので、久保先生所蔵時からあったのではと、推測されます。
絵の勲章のようなものですね。
久保先生は、私のような一般人にも絵を持つ楽しみを教えて下さいました。
決して、Top Downは行わず、私たちに考えるチャンスを与えてくれる先生でした。
久保先生著作「版画コレクションの手引」日本リーダーズダイジェスト社1981年
を読み返していますと、如何に久保先生がアートの普及に尽力し、
「ヘンリー・ミラー曰く
惰眠を貪る大衆」にも、一筋の光を与えて下さった事が新たに思い興されます。
しかも、大変気長な根気を持って。
竹田先生の絵は、40年近く我が家にメキシコの風を送ってくれました。
オークションです。
次は、あなた様の番です。
(ふじぬま ひでこ)
軽井沢の久保先生別荘の前にて、久保先生と世話人4人 1991年
2022年10月ストライプハウスギャラリーにて、藤沼秀子さん。
「久保貞次郎先生の思い出」は本日と10月29日の二回、ブログに掲載します。
◆「クボテーって誰?——希代のパトロン久保貞次郎と芸術家たち」
会期:2022年10月15日[土]~10月29日[土] *日曜休館
会場:ストライプハウスギャラリー
STRIPED HOUSE GALLERY
〒106-0032 東京都港区六本木 5-10-33
Tel:03-3405-8108 / Fax:03-3403-6354
主催:久保貞次郎の会
連絡先:久保貞次郎の会 kubosadajironokai@gmail.com
出品:靉嘔、泉茂、磯辺行久、内間俊子、瑛九、エメット・ ウィリアム、小田 襄、大浦信行、オノサト・トシノブ、桂 ユキ、北川民次、木村利三郎、草間彌生、島 州一、竹田鎮三郎、野田哲也、ナム・ジュン・パイク、奈良原 一高、細江英公、ヘンリー・ミラー、吉原英雄、


*久保貞次郎の会について
2018年に久保貞次郎(1909年5月12日 - 1996年10月31日没)の業績を振り返り、後世に伝えるため、跡見短大の教え子が発起人となり、『久保貞次郎の会』 を設立し、活動を展開しています。
第1回久保貞次郎の会(2018年)
建築家井上祐一先生をナビゲータに栃木県真岡市の久保講堂や久保記念観光文化交流館(旧久保邸)を見学 し、参加者との交流を行い、靉嘔先生にもご参加頂きました。
第2回久保貞次郎の会(2019年)
フランク・ロイド・ライト設計の自由学園明日館を見学、細江英公先生と栗田秀法先生(名古屋大学大学院教授)の講演会を行いました。
因みに真岡の久保講堂(国登録有形文化財)や久保家の住宅(現存せず)はライトの高弟・遠藤新の設計です。
第3回「クボテーって誰?——希代のパトロン久保貞次郎と芸術家たち」(2022年)
2022年10月15日(土)~10月29日(土)、久保先生と縁の深かった六本木のストライプハウスギャラーにて展覧会を開催します。
出品作品(60点)はすべて会員たちが持ち寄ったものです。小コレクター運動を唱導し、オークションで楽しく作品をわかちあうよろこびを教えてくれた久保先生への敬意をこめて、全点を入札方式で頒布します。入札リストをご希望のかたは、メールにてお申込みください。
e-mail: kubosadajironokai@gmail.com
皆さまのご参加をお待ちしています。
教え子たちのエッセイ「久保貞次郎先生の思い出」を5回にわたり掲載します(第1回秀坂令子のエッセイは10月8日のブログに掲載しました。)
栃木県真岡市の久保先生の広大なお屋敷は久保記念観光文化交流館となっていますが、同館の長瀧光子先生が10月17日ブログに「真岡市ゆかりの美術評論家・久保貞次郎 久保記念観光文化交流館(旧久保邸)より」をご寄稿くださいました。久保先生の生涯と業績、記念館の活動について丁寧に解説していただきました。
竹田鎮三郎「思い出のテワンテペック」
久保貞次郎の会 藤沼秀子
レオナルド・ダ・ヴィンチの言葉です。
「一切の生命の根源は、運動である。動的な生命現象を絵画表現の中に描き出すこと」

「思い出のテワンテペック」1975年 竹田鎮三郎
竹田先生の「思い出のテワンテペック」は、激しく動いています。しかも確かな熱を帯びて輝いています。
………今日は、ディア・デ・ムエルトス(死者の日)、待ちに待った「晴れ」の日です。
女たちは、毎日の心配事から解放されて、一年間貯めに溜めた、うっぷんやストレスをエネルギー源にして爆発します。
豊かな髪にお気に入りのリボンを三編みに編み込み、チクチクと刺繍し手仕事で、この日の為に用意した、マリーゴールド色の入ったドレスを身につけています。
さぁ、広場へ急ぎましょう。
踊りの輪の中心には、太陽と月の女神がピラミッドから駆けつけています。
女たちの熱気で、熱上昇気流が起こり、パペルピカード(カラフルな飾り紙)やサボテンまでもが宙を舞っています。
いよいよ空が割れて、錦糸のような光の帯が現れます。
それを合図に、(ちょっと見はカラベラ骸骨ですが)懐かしい父や母や、マエストロが美しい音楽を奏でに遠くの楽園から会いに来てくれます。
男たちは、ソンブレロを深く被り、女たちが作ってくれたテキーラを舐めながら優しく見守っています。
………
こんな物語を想像してみました。
竹田先生は、絵にはストーリーが必要だとおっしゃっています。
この絵は、私が跡見短大を卒業して7~8年後、どうしても大きな油絵が欲しいと久保先生にお願いして、購入しました。
100万円と、当時(今も)の私には初めての高額なお買い物でした。
私は、竹田先生の泥くさい生命力(失礼)や、ストレートな欲望の表現に大変惹かれていました。
40年近く前の事なので、詳細は忘れてしまいましたが、当時、故 清水たま子さん(久保先生の秘書をされていました。後に竹田先生の優秀な秘書となられる。絵本作家 代表作:ワニのお嫁さんとハチドリのお嫁さん)が盛んに勧めて下さったのを覚えています。
100万円と高額であったので、気の小さい私は、久保先生から購入したという文書を下さいとお願いしました。
今考えると、赤面な行動でしたが、当時は失礼だと思い付きもしませんでした。
久保先生は、直ぐに、素敵な和紙の便箋に、久保先生の律義な筆跡と、
何と実印(だと思われます)を押印した証明書を送って下さいました。
しかも、久保先生自ら、竹田先生の「大作」と記載して下さったのです。嬉しくて嬉しくて、無くしてはならじとタンスの奥にしまい込みました。
今回、ストライプハウスギャラリー展示に向けて、タンスから出してみて思いがけない発見がありました。
表題が「インディオの女たち」1970年作
となっていたのです。

家にある絵を確認したところ
1975年
となっているではありませんか。
メキシコの地で、岡本太郎巨大壁画「明日の神話」制作を支えた関係で2015年岡本太郎美術館で開催された、
「竹田鎮三郎 メキシコに架けたアートの橋」
直前の2013年に開催された、青山のギャラリーでの、竹田先生叙勲記念の展覧会で頂いたパンフレットには
「Memoria de Tohuantepec 1975」
とあります。
久保先生の中のイメージで
「インディオの女たち」
と表題をつけて下さったと考えます。 本当にありがたい「副題」です。
制作年1970年→1975年
はミステリーなので、調べる楽しみにわくわくします。

又、絵の左面下方に、絵の具の
剥落があります。
剥落は、購入後、大分経って気が付きました。
ある時、来日していた竹田先生にお会いして、その旨お話すると、
「あー簡単ですよ。ちょちょと直します。持って来て下さい。」と、おっしゃって下さいました。
先生のお住まいの、メヒコのオァハカまで、大型の絵を持って行くのは、はぁ大変です。
1990年の上記画集でも、剥落が確認できるので、久保先生所蔵時からあったのではと、推測されます。
絵の勲章のようなものですね。
久保先生は、私のような一般人にも絵を持つ楽しみを教えて下さいました。
決して、Top Downは行わず、私たちに考えるチャンスを与えてくれる先生でした。
久保先生著作「版画コレクションの手引」日本リーダーズダイジェスト社1981年
を読み返していますと、如何に久保先生がアートの普及に尽力し、
「ヘンリー・ミラー曰く
惰眠を貪る大衆」にも、一筋の光を与えて下さった事が新たに思い興されます。
しかも、大変気長な根気を持って。
竹田先生の絵は、40年近く我が家にメキシコの風を送ってくれました。
オークションです。
次は、あなた様の番です。
(ふじぬま ひでこ)
軽井沢の久保先生別荘の前にて、久保先生と世話人4人 1991年
2022年10月ストライプハウスギャラリーにて、藤沼秀子さん。「久保貞次郎先生の思い出」は本日と10月29日の二回、ブログに掲載します。
◆「クボテーって誰?——希代のパトロン久保貞次郎と芸術家たち」
会期:2022年10月15日[土]~10月29日[土] *日曜休館
会場:ストライプハウスギャラリー
STRIPED HOUSE GALLERY
〒106-0032 東京都港区六本木 5-10-33
Tel:03-3405-8108 / Fax:03-3403-6354
主催:久保貞次郎の会
連絡先:久保貞次郎の会 kubosadajironokai@gmail.com
出品:靉嘔、泉茂、磯辺行久、内間俊子、瑛九、エメット・ ウィリアム、小田 襄、大浦信行、オノサト・トシノブ、桂 ユキ、北川民次、木村利三郎、草間彌生、島 州一、竹田鎮三郎、野田哲也、ナム・ジュン・パイク、奈良原 一高、細江英公、ヘンリー・ミラー、吉原英雄、


*久保貞次郎の会について
2018年に久保貞次郎(1909年5月12日 - 1996年10月31日没)の業績を振り返り、後世に伝えるため、跡見短大の教え子が発起人となり、『久保貞次郎の会』 を設立し、活動を展開しています。
第1回久保貞次郎の会(2018年)
建築家井上祐一先生をナビゲータに栃木県真岡市の久保講堂や久保記念観光文化交流館(旧久保邸)を見学 し、参加者との交流を行い、靉嘔先生にもご参加頂きました。 第2回久保貞次郎の会(2019年)
フランク・ロイド・ライト設計の自由学園明日館を見学、細江英公先生と栗田秀法先生(名古屋大学大学院教授)の講演会を行いました。因みに真岡の久保講堂(国登録有形文化財)や久保家の住宅(現存せず)はライトの高弟・遠藤新の設計です。
第3回「クボテーって誰?——希代のパトロン久保貞次郎と芸術家たち」(2022年)
2022年10月15日(土)~10月29日(土)、久保先生と縁の深かった六本木のストライプハウスギャラーにて展覧会を開催します。出品作品(60点)はすべて会員たちが持ち寄ったものです。小コレクター運動を唱導し、オークションで楽しく作品をわかちあうよろこびを教えてくれた久保先生への敬意をこめて、全点を入札方式で頒布します。入札リストをご希望のかたは、メールにてお申込みください。
e-mail: kubosadajironokai@gmail.com
皆さまのご参加をお待ちしています。
教え子たちのエッセイ「久保貞次郎先生の思い出」を5回にわたり掲載します(第1回秀坂令子のエッセイは10月8日のブログに掲載しました。)
栃木県真岡市の久保先生の広大なお屋敷は久保記念観光文化交流館となっていますが、同館の長瀧光子先生が10月17日ブログに「真岡市ゆかりの美術評論家・久保貞次郎 久保記念観光文化交流館(旧久保邸)より」をご寄稿くださいました。久保先生の生涯と業績、記念館の活動について丁寧に解説していただきました。
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