追悼・大宮政郎展

平澤 広(萬鉄五郎記念美術館 館長)

逸早く開催した追悼展
 「追悼・大宮政郎展」がオープンしました。初日から多くの来館者があり、大宮さんの県内での影響力にあらためて感慨深いものがありました。
 最初期から最晩年の未発表の《降神》シリーズまで、約650点にのぼる作品が所狭しと掛けられ、当館としてもこれほどの数の作品を飾った経験はなどなく、どうなることかと心配されたが、大宮さんの70年に及ぶエネルギーを伝えるためには、どうしてもこの数になってしまいました。私としては来場される一人一人に、彼が残した大量の作品群に漲る創作活動のエネルギーを少しでも体感していただければと計画したものでした。
追悼大宮政郎展 萬鉄五郎記念美術館
 来館者のなかには、「第1展示室を観ただけで目が回りそうで、今日は帰ります。また絶対来ます。」とか、「鬼気迫るものがあって、怖くなりました。」などなど。関東から来た学芸員諸氏は「岩手の日通は、展示上手いねー」とか、色々な反響があって仕掛け人としてはうれしい限りで、昨日も盛岡のギャラリーで会った方から「だいぶ評判良いようですね。そのうち必ず行きます。」と声を掛けられました。
 昨年11月に突然亡くなられた大宮政郎さん。92歳とはいえ、その1ヶ月前には当館の企画展の初日にみえられ、小一時間ひとしきり陽気に話され、岩手の郷土料理「ひっつみ汁」に舌鼓を打ちながら「久しぶりに美味しものを食べたよ。目が見えなくても、まだまだ3年ぐらいはやれそうだよ。」と快活に語り、持参した最新作の《降神(おりがみ)》シリーズとそのカタログのレイアウト案まで見せてくれました。
 近年は失明同然で、話し相手の顔すら見分けのつかない状態でしたが、手探りながら制作意欲は衰えを知らず、手足を版がわりにして描いた「天駆ける鬼」シリーズや使い古しのポスターを感覚的に折った半立体作品を目指したという新作《降神》シリーズと、毎日作らずにはいられないという作家魂は健在でした。これまで彼は、「芸術は発明だ‼」と持論を展開し、平面、立体に関わらず、どこにもない独自の造形考を提示、実践し続けた稀代の表現者でした。

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大宮政郎の足跡
 戦後いち早く盛岡に開校した県立美術工芸学校に学び、深沢省三、紅子の薫陶(くんとう)を受け、グラフィックデザイナー兼、美術家として活動を開始します。デザイナーとしても岩手のデザイン界に新風を巻き起こした若手の旗手であり、彼の元から巣立っていったデザイナーも少なくありません。美術家としても、60年代には盛岡大通りの「CAFEモンタン」に集い、最先端の芸術を目指す詩人や画家、音楽家と交わり、盛岡の前衛美術グループ「集団N39」の立ち上げを先導し、全国的にみても質の高い美術集団として岩手の美術ここにありとセンセーションを巻き起こしました。
 シリーズ作品をたどると、60年代のプラスチックで固めたオブジェ《サイボーグプラン》に始まり、人が目まぐるしく動く高度経済成長時代の世相を反映した《人動説》シリーズや発明的な写真テクニックを駆使した《スリムフォト》シリーズ。さらには、綿に刷り込んだ《綿版画》シリーズ。さらには移りゆき消えてしまう形象を造形化した《発掘された朝日と夕日》や《煙》と《光》シリーズというように、柔軟な思考で奇想天外のアイディアを実現させ、アートの可能性を常に問い続けてきました。一般人な発想の死角を衝くというか、ものごとを縦横無尽に見つめることのできる多視点の持ち主だったように思えます。
 先の大震災以降は、ある種のパッションが炸裂したかのような内なるエネルギーを画面いっぱいに表現した迫力あるドローイングを矢継ぎ早に発表し、老いることの知らない永遠の青年画家さながらの生き様を見せてくれていました。
 一方、的確な論評は県内では人気を呼び、自作の講評を求める美術作家も少なくありませんでした。晩年は将来性のある後輩アーティストを叱咤激励し、的確なアドバイスを与え今日まで岩手の美術界をけん引してきた稀有な美術家でした。
 亡くなる2週間ほど前には、「新作の《降神》で個展が開けるかなぁ?」と、相談の電話があったほどで、展示プランとして作品を貼り付ける台紙となる色紙の試作紙を取り寄せていたほどでした。最後の最後まで現役作家という自負を抱えながらその生涯を終えました。まさしく「北異のマグマ・大宮政郎」を貫き通したブレない姿は神々しくもあり、神が降り、仏となって黄泉の世界へいってしまいました。
 本展は、最新作《降神》で個展プランを温めていた大宮さんの計画を試みるとともに、彼の生涯の創造的な造形活動の軌跡をたどったこれまでで最大規模の大宮政郎展であり、北の大地・岩手にこのような異才の芸術家が存在していたことを世に問う展覧会でもあります。

ひらさわ ひろし

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追悼 大宮政郎展
会期:3月10日(土曜)~4月23日(日曜)
会期:萬鉄五郎記念美術館
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大宮政郎展 出品目録1

大宮政郎展 出品目録2

大宮政郎展 出品目録3

大宮政郎展 出品目録4

大宮政郎展 出品目録5

大宮政郎展 出品目録6

大宮政郎展 出品目録7

大宮政郎展 出品目録8

大宮政郎2013年7月4日
ときの忘れもの(青山時代)を訪れた
大宮政郎先生と奥様

●本日のお勧めは大宮政郎です。
omiya_01_hokui大宮政郎
《北異の無有空感》
2013年
鉛筆、色鉛筆、紙
109.8x151.5cm
サインあり

倉俣史朗の限定本『倉俣史朗 カイエ Shiro Kuramata Cahier 1-2 』を刊行しました。


限定部数:365部(各冊番号入り)
監修:倉俣美恵子、植田実
執筆:倉俣史朗、植田実、堀江敏幸
アートディレクション&デザイン:岡本一宣デザイン事務所
体裁:25.7×25.7cm、64頁、和英併記、スケッチブック・ノートブックは日本語のみ
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詳細は3月24日ブログをご参照ください。
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