ときの忘れものギャラリーで展示をさせていただいたのは2010年のことです。
君島、若宮、渡辺展DMあれからもう干支が一周!時の過ぎる早さに驚愕しつつ、当時と変わらず私は現在も山梨の富士吉田市で、家業である織物業の傍ら制作をしています。7年前に父が他界してからは織物の仕事が生活の中心になり、更にこのコロナ禍でこの業界も大きな影響を受けたことで仕事の事を考える毎日になりました。ここ数年は制作よりも、生地を売るために何か出来ないか?が、優先でした。陶芸の展示でお世話になったギャラリーで生地売りを開催させていただいたり、マスク不足の際に部屋の隅で埃をかぶったミシンを出したのがきっかけで、会社で織った生地で洋服作りを始めたりしました。以前から生地売りのために洋服などのサンプルがあるといいな…と思いながらも中々実現できなかったので、家に籠る時間が増えたことで始められた副産物的な出来事をありがたく思いました。また、それが想像以上に楽しく、奥深く、没頭できる作業だったことはとても意外な発見でした。もちろん洋服はまだ販売レベルではありませんが、陶芸と違う素材や作業工程はまた別のモチベーションを私に与えてくれる大切な活動になりそうです。

話は少し逸れましたが陶芸の(作家活動はとても活発とはいえませんが)作品は細々と発表を続けています。
3月4日~19日に甲府の三彩洞ギャラリーで開催した展示は、「売らなくても(売れなくても?)いいからインスタレーションの展示を!」という、オーナーの無茶ぶりと、私のインスタレーションへの小さな憧れで、いつもと違った雰囲気になりました。自由な、ある意味贅沢な機会でしたが展示前日まで随分悩まされました。最終的にインスタレーション風のディスプレイになったというのと、最初からインスタレーションの展示というのは私にとっては全く別の事だったので。
究極には何をしてもいいという状況。では陶芸でなくてもいいのか…?とまで考えてしまいましたが馴染みの素材から100%離れる勇気もなく、でも異素材への興味もあり、糸を一緒に使うことに挑戦しました。糸を選んだ理由としては、やはり毎日(土よりも!)触る身近な素材であり、使えなくなってしまう残糸を何かに使えないか…と思っていたことです。そして何より仕事の合間に作業が出来たら一石二鳥だ!とも。

ここ数年の変化や世界情勢で、情緒的にはその影響からは離れられない日々が続いています。何か不確かなものに包まれる不安と、変わらぬ毎日を続けられる幸せ、その矛盾した、動揺にも似た気持ちを今までこんなに意識したことはありませんでした。
心を落ち着かせるように、お守りを作るような気持ちで…小さな作業を積み重ね何か表現できればと思いました。

コロナ禍が少しずつ収まって、以前の日常が戻りつつありますが、今は全く別の世界にいるような不思議な感覚もあります。

のんびりと近況を書いている間に庭の枝垂れ桜が咲き始め、あっという間に散っていきました。たった10日間のお披露目のために誰も見ていなくても、どんな日もじっとそこで立っている姿に、今回の展示の時期が重なったこともあり、あらためて次に向かう勇気、元気をもらいました。

わたなべ たかこ

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2020年 展示風景

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同じ場所で生地の販売

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三彩洞ギャラリーでのインスタレーション 「Wishes」

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庭の枝垂れ桜

●本日のお勧め作品は渡辺貴子です。
渡辺貴子渡辺貴子 Takako WATANABE
"untitled"(12)
2010年
ひもづくり
H38.0×W12.0×D11.0cm