杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」第87回
版築
寒暖の差が激しい日々が続いた五月のある日曜日、住まいのあるクール市でSwiss Lehmbauシンポジウムがありました。Lehmbauとは版築のこと、日本では昔から塀などに使われることがありましたが、スイスでは数年前から現代建築にも積極的に取り入れられています。
その背景には、この分野の第一人者であるMartin Rauch (マルティン ラオフ)さんが自宅や自社建築でその応用可能性、疑問視されていた耐久性を実証してきたこと。セメントベースではない材料を用いることで、その生成プロセスで発生するCO2を削減できないかというコンクリートの代替建材としての需要。土壁の持っていた吸湿作用による室内環境の見直し。ドイツでは版築工法の法規制が整ったことなど、多方面からの要因があります。
このシンポジウムの締めとして行われた見学ツアーに参加してきました。
スイスの公共建築では「木造、ソーラーパネル、版築」は三種の神器のように、建築家の提案するスタンダードになりつつあると言っても過言ではありません。というのも、それらが公共建築の設計コンペなどで求められている像と重なっているからです。
この三つの要素は外から見てわかる部分に使われるからこそ、前提に設計を進めてしまうと、案の印象が似たり寄ったりになってしまう可能性があります。トレンドであるからこそ、本当に必要なのか。はキチンと見極めてアイデアに取り入れていかなくてはいけません。


はじめに出かけたのは数世帯のアパートが入ったオーナー住居兼貸家です。外観は長方形断面のログハウスになっており、内部の床はLehmboden (版築の床)壁は石灰塗り壁となっていました。
床は運んできた粘土を半分の容積になるまで叩き、その上にワックスを流して仕上げています。土の色が濡れて濃くなったような色合いに仕上がっていて、方向によっては、光を鈍く反射します。

次に出かけたのは古い納屋を改修してゲストハウスにしたものです。
これもログハウスの要領でできていますが、もともと材と材の間隔をあけて風通しが良くなるように作られていた外壁の、そのギャップを粘土で埋めることで内部と外部を仕切っています。


最後に、コンクリート造の建物に対して、外装材として版築ユニットが用いられています。今まで版築は現場で型枠に流して叩きながら作られていましたが、プレファブ生産体制が整って現場に運ばれたユニットを取り付けて作られています。コンクリートの現場打ち、プレキャストのように、使い分けが生まれてくる。その場で手に入る材料で作ることのできた版築のそもそもの意味が、工場で作られたモノが現場に運ばれて設置される。ことで変わってくる。この先、僕たちの身の回りにどんなLehmbauが建ってくるのか楽しみです。
(すぎやま こういちろう)
■杉山幸一郎 SUGIYAMA Koichiro
日本大学、東京藝術大学大学院にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学に留学。2014年から2021年までアトリエピーターズントー。現在、スイス連邦工科大学チューリッヒ校で設計を教える傍ら、建築設計事務所atelier tsuを共同主宰。2022年1月ときの忘れものにて初個展「杉山幸一郎展スイスのかたち、日本のかたち」を開催、カタログを刊行。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。
・ 杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。
●ジョナス・メカスの映像作品27点を収録した8枚組のボックスセット「JONAS MEKAS : DIARIES, NOTES & SKETCHES VOL. 1-8 (Blu-Ray版/DVD版)」を販売しています。
映像フォーマット:Blu-Ray、リージョンフリー/DVD PAL、リージョンフリー
各作品の撮影形式:16mmフィルム、ビデオ
制作年:1963~2014年
合計再生時間:1,262分
価格等については、3月4日ブログをご参照ください。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊
版築
寒暖の差が激しい日々が続いた五月のある日曜日、住まいのあるクール市でSwiss Lehmbauシンポジウムがありました。Lehmbauとは版築のこと、日本では昔から塀などに使われることがありましたが、スイスでは数年前から現代建築にも積極的に取り入れられています。
その背景には、この分野の第一人者であるMartin Rauch (マルティン ラオフ)さんが自宅や自社建築でその応用可能性、疑問視されていた耐久性を実証してきたこと。セメントベースではない材料を用いることで、その生成プロセスで発生するCO2を削減できないかというコンクリートの代替建材としての需要。土壁の持っていた吸湿作用による室内環境の見直し。ドイツでは版築工法の法規制が整ったことなど、多方面からの要因があります。
このシンポジウムの締めとして行われた見学ツアーに参加してきました。
スイスの公共建築では「木造、ソーラーパネル、版築」は三種の神器のように、建築家の提案するスタンダードになりつつあると言っても過言ではありません。というのも、それらが公共建築の設計コンペなどで求められている像と重なっているからです。
この三つの要素は外から見てわかる部分に使われるからこそ、前提に設計を進めてしまうと、案の印象が似たり寄ったりになってしまう可能性があります。トレンドであるからこそ、本当に必要なのか。はキチンと見極めてアイデアに取り入れていかなくてはいけません。


はじめに出かけたのは数世帯のアパートが入ったオーナー住居兼貸家です。外観は長方形断面のログハウスになっており、内部の床はLehmboden (版築の床)壁は石灰塗り壁となっていました。
床は運んできた粘土を半分の容積になるまで叩き、その上にワックスを流して仕上げています。土の色が濡れて濃くなったような色合いに仕上がっていて、方向によっては、光を鈍く反射します。

次に出かけたのは古い納屋を改修してゲストハウスにしたものです。
これもログハウスの要領でできていますが、もともと材と材の間隔をあけて風通しが良くなるように作られていた外壁の、そのギャップを粘土で埋めることで内部と外部を仕切っています。


最後に、コンクリート造の建物に対して、外装材として版築ユニットが用いられています。今まで版築は現場で型枠に流して叩きながら作られていましたが、プレファブ生産体制が整って現場に運ばれたユニットを取り付けて作られています。コンクリートの現場打ち、プレキャストのように、使い分けが生まれてくる。その場で手に入る材料で作ることのできた版築のそもそもの意味が、工場で作られたモノが現場に運ばれて設置される。ことで変わってくる。この先、僕たちの身の回りにどんなLehmbauが建ってくるのか楽しみです。
(すぎやま こういちろう)
■杉山幸一郎 SUGIYAMA Koichiro
日本大学、東京藝術大学大学院にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学に留学。2014年から2021年までアトリエピーターズントー。現在、スイス連邦工科大学チューリッヒ校で設計を教える傍ら、建築設計事務所atelier tsuを共同主宰。2022年1月ときの忘れものにて初個展「杉山幸一郎展スイスのかたち、日本のかたち」を開催、カタログを刊行。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。
・ 杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。
●ジョナス・メカスの映像作品27点を収録した8枚組のボックスセット「JONAS MEKAS : DIARIES, NOTES & SKETCHES VOL. 1-8 (Blu-Ray版/DVD版)」を販売しています。
映像フォーマット:Blu-Ray、リージョンフリー/DVD PAL、リージョンフリー各作品の撮影形式:16mmフィルム、ビデオ
制作年:1963~2014年
合計再生時間:1,262分
価格等については、3月4日ブログをご参照ください。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊
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