小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」第66回

〇月〇日

なんどか伺っていた逗子での買取がいよいよ最終日を迎えた。高台の素晴らしいロケーションの家。本も、もちろんたくさんあったし、特にうちのお店のお客さんに喜ばれそうな翻訳文学、日本文学も多かった。ご依頼いただいた方のご両親それぞれの本で、ジャンルも多岐に渡っていたが、画集の品揃えも素晴らしかった。

結局一番高いのは、お預かりして市場に出品した版画だったというのは、本が安くなった悲しさではあるが、なんにせよ大量の買取は古本屋の寿命を確実に延ばす。家一軒の買取は年中いつでも大歓迎です。

IMG_2925

〇月〇日

文学全集の話題がTwitter(この表記で「x」とふりがなを振ってください。みなさんの心の中で)のタイムライン上を少しだけ賑わす。

秋草俊一郎さんの「世界文学がなぜかつてあんなに読まれたのか」という問題提起にさまざまな人が反応したものだ。

文学全集が一家にひと揃いあった幸福な(本屋にとって)時代。それはかつて確かにあった。今はそれが次々に売りに出される不幸な(古本屋にとって)時代である。

しかもかつてあった文学全集は、河出中公筑摩集英社小学館などなど、各社がそれぞれの編集で作っていたのが驚きなのだ。もちろん訳者も違うし、本当に驚くべきことは、一回でた文学全集が、新版で出し直されるなんてことも当たり前にあったことだ。

その全てが読まれていたのか?というのは「そんなわけあるか」と思うのだが、少なくとも当時の人々にとって「読むべきラインナップ」として、ゲーテであり、ドストエフスキーであり、シュティフターであり、が考えられていたというのが驚きなのだ。ある一定の年齢より上の人たち(70代くらいだろうか)と話すと、私なんぞは教養が追いつかないと感じてしまうことが多いのだが、これはこのような「これが定番だよ」という目印があった時代、もしくはあった家と、私のようにそれが皆無だった時代(いや、時代のせいにしてはいけないけど、ある種の文化資本の違いはあるだろう)とのギャップにあるのではないか?とも思う。まぁ、ただただ「面白い」と思うものしか読まなかった自分が悪いとも言えるし、悪くもないとも言える。

ちなみに古本屋的視点でいうと、今は、もしあなたが全集を家に揃えたいという人ならば、これほど幸福な時代はないだろう。古本屋を通さずとも、文学全集を買うことはできる。古本屋に「いつか文学全集入ったら教えて。買うから。」といえば、いい全集(というのは古本的に高い全集という意味です)に拘らなければ、拍子抜けするほど簡単に手に入るだろう。しかもかなり安く。

もしかしたら、そう遠くない将来、文学全集が高くなる未来もやってくるかもしれない、と思っているので、もし買うなら今ですよ、と言っておきたい。ご注文承ります。

〇月〇日

家の近所の本屋が店を閉じる。(またか)
これでいよいよ本屋はわざわざ行くところになった。
ちいさな本屋でさえ、わざわざ行くところに。いっそのこと本の訪問販売でもしようかなぁ…。
ピンポーン「すみません、本を持ってきたんですけど、少し見てみませんか?」
怪しさしかないだろう。
でも、いいかもな。寝れば嫌なことはだいたい忘れるし。うん。

(おくに たかし)

●小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」隔月、奇数月5日の更新です。次回は2024年1月5日です。どうぞお楽しみに。

小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。

●本日のお勧め作品は宮脇愛子です。
miyawaki_egg_A「Golden Egg(A)」
1982年 ブロンズ
H4.5×21×12cm
限定 50部
本体に刻サイン、共箱(箱にペンサイン)
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください



◆埼玉県立近代美術館で「イン・ビトウィーン」展が始まりました(会期:2023.10.14 [土] - 2024.1.28 [日]、出品作家:早瀬龍江、ジョナス・メカス林芳史、潘逸舟)。

●ときの忘れものはジョナス・メカスの映像作品27点を収録した8枚組のボックスセット「JONAS MEKAS : DIARIES, NOTES & SKETCHES VOL. 1-8 (Blu-Ray版/DVD版)」を販売しています。
同ボックスは今年度の『ボローニャ復元映画祭(Il Cinema Ritrovato)』で「ベストボックスセット賞」を受賞しました。
映像フォーマット:Blu-Ray、リージョンフリー/DVD PAL、リージョンフリー
各作品の撮影形式:16mmフィルム、ビデオ
制作年:1963~2014年
合計再生時間:1,262分
価格:
Blu-Ray版:18,000円(税込)
DVD版:15,000円(税込)

商品の詳細は3月4日ブログをご参照ください。
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから

●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com 
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
photo (2)