佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第85回

平面的な群れ

今、針穴写真機の制作の最中である。

今回はハコの作り方や、架台(足)の作り方について、以前の制作とは違ういくつか新しい試みを行ってはいるけれども、おそらく周りの人からしたらその辺りのことはほぼ誤差の範囲でしかないだろうとは思う。けれども作者としては新たな展開であることは確かなので、スリルが続いている。他人に気づかれない程度の変化と展開の試みは、自分自身の生身な感覚や価値観と向き合うことにもつながるようで、実はやっていてとても心地が良い。同じようで反復的だと他人から思われてしまう制作作業の中で、必ず生まれている大小さまざまな大きさのズレは、自分(制作者)自身の意図したものでもあれば、予期せぬ結果(同じにしようとしていたのに全然別のものになってしまった)でもあった。同じであることと違っていることのそうしたバランスが適度に保たれることで、おそらくはそれらの制作物らが何らかの群、1つの群れとして眺め通すことができるのだろう、とも思っている。

そして、作業をしていて改めて思うのだが、写真の現像作業でもまたそんな同じことと違うことの両方を見いだせる。写真とはいわゆる近代の複製技術の代表的メディアだが、現像過程の露光や感光の具合によって、結局は一期一会かのように違ったものが出来上がる。

ピンホールカメラの場合、写真を最終的にプリントするには、暗室にて現像した印画紙の下に別の未感光の印画紙を敷いて上から光を当てる。すると現像されている印画紙の図像がネガポジを反転させて下の印画紙に写る。一度の撮影に対して、現像は一回しかできないのだが、プリント作業は現像した印画紙を使って何回も繰り返すことができる。感光時間(だいたい2秒から5秒の間)を調整したり、あるいは紙の中でも光が当たる強弱を若干変え、何枚もプリントを試みる。とにかく同じ作業を繰り返す。そうしてたくさんのプリントした印画紙の中から具合が良い写真を選び出す。当然、その選別作業から溢れ出てしまったプリント写真もたくさんあるわけだ。なんだか薄い写真や、濃く出すぎて真っ暗になってしまった写真、そしてプリント中に思わず別の光や影が映り込んでしまったものなど。写真作品としてそれらの中から一枚を選び出さなければいけないのだが、現実に対しての写実さを求めているわけではないので、実はそれら写真の中で決定的な優劣があるわけではない。結局あるのはそれぞれの少しの違いだけなのである。そして少しだけ違っている写真たちを何枚も暗室の脇の物干し場で干す。実は私はいま、その光景にとても興味を持っていかれている。少しだけ違っているモノたちが一群となっている場、あるいは風景。

 以前から抱いていた群れへの興味が、立体や実体空間だけでなく、写真という平面表現にちゃんと展開されてきた。(ようやく、取り組めるようになってきた、のかもしれない)さて、ではどのようにそれを展示として表すことができるだろうか。そんなことをいま考えている。平面展示を増やす可能性も有り得るが、いまのところ、一旦は簡易な本として印刷して留めておくかもしれない。さらに、そんな群としての印刷写真の印象(平面的な群れへの興味)を立体(写真機)作りにどう展開ができるか、考えながら手を動かしている。

1
(鉄の架台制作の様子)

2
(複数の鉄の架台制作の様子)

3
(写真機のハコ制作の様子)

(さとう けんご)

佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2022年3月ときの忘れもので二回目となる個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を開催。

・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。

●本日のお勧め作品は佐藤研吾です。
sato-64《中身を知るためのドローイング1》  
2023年
画用紙、柿渋、鉄媒染
15×20×15cm
サインあり
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●ときの忘れもの雪景色
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瑛九アトリエからやってきた敷石には雪が積もりました。
マユミの実は枝から落ちることなく咲いています。


庭
北川太郎作品には、ちょこなんとした雪の帽子が。

●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
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建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
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