大竹昭子のエッセイ「迷走写真館~一枚の写真に目を凝らす」第129回

これはどのような道なのだろうか。
地面は砂なのか、泥なのか。
足が深く食い込んでいて、白ければ雪と思っても不思議はない。
もう何人もの人が通ったようだ。
足跡の両側には轍もある。
タイヤの跡のようだが、自動車ではないような気がする。
荷車だろうか。
それにしては車輪の幅が広すぎるかもしれないが、
たしかなことは車の付いた乗り物もこの道を通行しているということだ。
そこを人が歩いている。
三本の大きな丸太を背負子に括り付け、右手に杖をもち、
ずぼっと入った足を引き抜いては前に進めるのを繰り返している。
道は長い。
彼方に山並が見えるが、建物は見あたらない。
畑すら作られていない荒れ野が広がっているだけで、
行く先にどういうものが待っているかも想像がつかない。
目的地はまだまだ遠そうである。
そういう場所を体重よりも重く嵩張る荷物をしょってひたすら歩くのはどんな気持だろう。
車輪のついた乗り物ならば速く行ける。
エンジンが付いていたらその何倍もの速度で行ける。
だが二本の足を前後に動かすだけならば恐ろしくのろい。
しかも足場がゆるいときている。
体重を片足に乗せすぎると上半身が傾く。
体の中心軸を意識して一歩ずつ進む修業のような歩行である。
陽は傾きつつある。
足下が暗くならないうちに、周囲に目がとどくうちに着かなくてはならない。
いまはまだ見えていない目的の場所に。
この丸太は建材にするには短い気がする。
きっと竃にくべるのだ。
今は重さしか感じられないこの丸太が燃焼して発する温度のために、
この木を森から持ち出し、運んでいくのが男の仕事である。
家に着いたら丸太を降ろす。まずそれをする。
その解放感だけがいまの願いである。
けれども背中から丸太がなくなった瞬間、心もとないほどの軽さに襲われる。
ついさっきまであったものがない。その喪失感に戸惑う。
だが、一瞬でそれが消えることも彼はわかっている。
感覚の極点から極点への瞬間移動。
何度も繰り返されてきた体感の旅路。
大竹昭子(おおたけ あきこ)
●作品情報
撮影者: 小島一郎
撮影地: 青森県つがる市車力
撮影年: 1957-58年
ゼラチン・シルバー・プリント
30.3×18.7cm
青森県立美術館蔵
●作家プロフィール
小島一郎
1924 - 1964
1963年『津軽 ―詩・文・写真集―』新潮社
2004年『hysteric eleven』ヒステリックグラマー
2009年『小島一郎写真集成』インスクリプト
2014年『津軽』IZU PHOTO MUSEUM
●書籍情報
小島一郎『Solitude Standing』
270 × 225 mm、80頁、2024年
発行:roshin books
39歳で急逝した小島が残したドラマティックな世界は、今を生きる私たちの心にいまだ響き続けます。roshin booksでは、そんな小島の作品の中に見つけた「孤高」という側面に注目し、青森県立美術館に保存されている未発表作品を1から見直した上で、新たにSolitude Standingとして編みました。(roshin booksウェブサイトより)
●本連載の最初期の部分が単行本になった『迷走写真館へようこそ』(赤々舎)が発売中です。
赤々舎 2023年
H188mm×128mm 168P
価格:1,980円(税込)
※ときの忘れものウェブサイトでも販売しています。
※ときの忘れものウェブサイトからご購入いただいた場合、梱包送料として250円をいただきます。
本書について著者・大竹昭子が語ったインターネットラジオ番組「本とこラジオ」第99回を以下でお聴きになれます。
◆本日は日曜ですが画廊は開廊しています。
「佐藤研吾展 くぐり間くぐり」が最終日を迎えました。
前二回の個展にも増して連日多くの若い人たちが押し寄せて(笑)います。
会期:2024年11月22日(金)~12月1日(日) ※会期中無休
佐藤研吾さんは15時~19時まで在廊していますので、どうぞご来場ください。
・出品作品の詳細は11月19日ブログに掲載しました。
・「architecturephoto」のサイトに展覧会レポートが掲載されています。

●パリのポンピドゥーセンターでブルトンのシュルレアリスム宣言100年を記念して「シュルレアリスム展」が開催されています(~2025年1月13日まで)。
ときの忘れものは同展に協力し瀧口修造のデカルコマニーを貸し出し、出展しています。展覧会の様子はパリ在住の中原千里さんのレポート(全3回の予定)をお読みください。
カタログ『SURREALISME』を特別頒布しています。
(仏語版売り切れ、英語版のみ)
サイズ:32.8×22.8×3.5cm、344頁 22,000円(税込み)+送料1,500円

こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
*画廊亭主敬白
あっという間に一年が過ぎ去り、もう今日は12月。
師走というけれど、師でなくとも社長もスタッフも、そして老兵の亭主も走り回る一か月になりそうです。夜中にふと目覚めて積み残した案件のあれこれが浮かんでくるとさあタイヘン、寝不足になりますね。
12月1日は少女や鳥や樹木を題材とした詩的な作品で知られる南桂子先生(1911年2月12日 - 2004年12月1日)の命日です。
亭主の独断と偏見によればご主人の浜口陽三先生よりはるかにいいと絶賛のコレクションです。

南桂子「かもめ」
銅版 1978年
イメージサイズ: 30.0×28.5cm
シートサイズ:56.5×38.0cm
Ed.100 Signed
*レゾネNo.235
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
故郷富山県で「没後20年 詩と出会う旅 南桂子の世界展」が開催されます。
会期:2024年12月7日(土)~2025年2月11日(火)
会場:高志の国文学館
〒930-0095 富山市舟橋南町2-22
高志の国文学館は1978年に建築された旧富山県知事公館の建物とその庭などを改修・増築し、富山県にゆかりのある作家、映画監督、漫画家や作品を紹介する文学館として2012年に開館しました。設計したのはシーラカンスアンドアソシエイツ。
「JIA優秀建築賞」「日本建築学会作品選奨」「BCS賞」など数々の建築賞を受賞、その建築空間は高く評価されています。
版画ファンはもちろん、建築好きにも必見の展覧会です。お近くの方、ぜひお出かけください。
●12月7日(土)は臨時休廊いたします。
●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。

〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

これはどのような道なのだろうか。
地面は砂なのか、泥なのか。
足が深く食い込んでいて、白ければ雪と思っても不思議はない。
もう何人もの人が通ったようだ。
足跡の両側には轍もある。
タイヤの跡のようだが、自動車ではないような気がする。
荷車だろうか。
それにしては車輪の幅が広すぎるかもしれないが、
たしかなことは車の付いた乗り物もこの道を通行しているということだ。
そこを人が歩いている。
三本の大きな丸太を背負子に括り付け、右手に杖をもち、
ずぼっと入った足を引き抜いては前に進めるのを繰り返している。
道は長い。
彼方に山並が見えるが、建物は見あたらない。
畑すら作られていない荒れ野が広がっているだけで、
行く先にどういうものが待っているかも想像がつかない。
目的地はまだまだ遠そうである。
そういう場所を体重よりも重く嵩張る荷物をしょってひたすら歩くのはどんな気持だろう。
車輪のついた乗り物ならば速く行ける。
エンジンが付いていたらその何倍もの速度で行ける。
だが二本の足を前後に動かすだけならば恐ろしくのろい。
しかも足場がゆるいときている。
体重を片足に乗せすぎると上半身が傾く。
体の中心軸を意識して一歩ずつ進む修業のような歩行である。
陽は傾きつつある。
足下が暗くならないうちに、周囲に目がとどくうちに着かなくてはならない。
いまはまだ見えていない目的の場所に。
この丸太は建材にするには短い気がする。
きっと竃にくべるのだ。
今は重さしか感じられないこの丸太が燃焼して発する温度のために、
この木を森から持ち出し、運んでいくのが男の仕事である。
家に着いたら丸太を降ろす。まずそれをする。
その解放感だけがいまの願いである。
けれども背中から丸太がなくなった瞬間、心もとないほどの軽さに襲われる。
ついさっきまであったものがない。その喪失感に戸惑う。
だが、一瞬でそれが消えることも彼はわかっている。
感覚の極点から極点への瞬間移動。
何度も繰り返されてきた体感の旅路。
大竹昭子(おおたけ あきこ)
●作品情報
撮影者: 小島一郎
撮影地: 青森県つがる市車力
撮影年: 1957-58年
ゼラチン・シルバー・プリント
30.3×18.7cm
青森県立美術館蔵
●作家プロフィール
小島一郎
1924 - 1964
1963年『津軽 ―詩・文・写真集―』新潮社
2004年『hysteric eleven』ヒステリックグラマー
2009年『小島一郎写真集成』インスクリプト
2014年『津軽』IZU PHOTO MUSEUM
●書籍情報
小島一郎『Solitude Standing』270 × 225 mm、80頁、2024年
発行:roshin books
39歳で急逝した小島が残したドラマティックな世界は、今を生きる私たちの心にいまだ響き続けます。roshin booksでは、そんな小島の作品の中に見つけた「孤高」という側面に注目し、青森県立美術館に保存されている未発表作品を1から見直した上で、新たにSolitude Standingとして編みました。(roshin booksウェブサイトより)
●本連載の最初期の部分が単行本になった『迷走写真館へようこそ』(赤々舎)が発売中です。
赤々舎 2023年H188mm×128mm 168P
価格:1,980円(税込)
※ときの忘れものウェブサイトでも販売しています。
※ときの忘れものウェブサイトからご購入いただいた場合、梱包送料として250円をいただきます。
本書について著者・大竹昭子が語ったインターネットラジオ番組「本とこラジオ」第99回を以下でお聴きになれます。
◆本日は日曜ですが画廊は開廊しています。
「佐藤研吾展 くぐり間くぐり」が最終日を迎えました。
前二回の個展にも増して連日多くの若い人たちが押し寄せて(笑)います。
会期:2024年11月22日(金)~12月1日(日) ※会期中無休
佐藤研吾さんは15時~19時まで在廊していますので、どうぞご来場ください。
・出品作品の詳細は11月19日ブログに掲載しました。
・「architecturephoto」のサイトに展覧会レポートが掲載されています。

●パリのポンピドゥーセンターでブルトンのシュルレアリスム宣言100年を記念して「シュルレアリスム展」が開催されています(~2025年1月13日まで)。
ときの忘れものは同展に協力し瀧口修造のデカルコマニーを貸し出し、出展しています。展覧会の様子はパリ在住の中原千里さんのレポート(全3回の予定)をお読みください。
カタログ『SURREALISME』を特別頒布しています。
(仏語版売り切れ、英語版のみ)
サイズ:32.8×22.8×3.5cm、344頁 22,000円(税込み)+送料1,500円

こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
*画廊亭主敬白
あっという間に一年が過ぎ去り、もう今日は12月。
師走というけれど、師でなくとも社長もスタッフも、そして老兵の亭主も走り回る一か月になりそうです。夜中にふと目覚めて積み残した案件のあれこれが浮かんでくるとさあタイヘン、寝不足になりますね。
12月1日は少女や鳥や樹木を題材とした詩的な作品で知られる南桂子先生(1911年2月12日 - 2004年12月1日)の命日です。
亭主の独断と偏見によればご主人の浜口陽三先生よりはるかにいいと絶賛のコレクションです。

南桂子「かもめ」
銅版 1978年
イメージサイズ: 30.0×28.5cm
シートサイズ:56.5×38.0cm
Ed.100 Signed
*レゾネNo.235
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
故郷富山県で「没後20年 詩と出会う旅 南桂子の世界展」が開催されます。
会期:2024年12月7日(土)~2025年2月11日(火)
会場:高志の国文学館
〒930-0095 富山市舟橋南町2-22
高志の国文学館は1978年に建築された旧富山県知事公館の建物とその庭などを改修・増築し、富山県にゆかりのある作家、映画監督、漫画家や作品を紹介する文学館として2012年に開館しました。設計したのはシーラカンスアンドアソシエイツ。
「JIA優秀建築賞」「日本建築学会作品選奨」「BCS賞」など数々の建築賞を受賞、その建築空間は高く評価されています。
版画ファンはもちろん、建築好きにも必見の展覧会です。お近くの方、ぜひお出かけください。
●12月7日(土)は臨時休廊いたします。
●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。

〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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