「ドリュール装飾の変遷 2」

ドリュール装飾の変遷、第二回は18世紀後半から始めます。

[19世紀]
1789年に起きたのフランス革命は社会情勢だけでなく、ルリユール界にも変化をもたらしました。
パトロンであり、愛書家でもあった王侯貴族たちは弾圧され、「贅沢は敵だ!」の風潮により、これまでのような装飾を施すことは不可能になってしまいました。
高価なモロッコ革を節約するために、本を保護するための主要な部分(背や角)のみに革を使い、残った部分にはマーブル紙などを貼る「半革装」という新しいスタイルが誕生します。
主に見返しに使われてきたマーブル紙が日の目をみるようになっていきます。

ルリユールのデコールを常にリードしてきたフランス人も、シンプルでボタニカル要素の強いイギリスのテイストを導入するようになります。丸みがなくほぼ平たい背や、細長いシボをつけられた革も流行りました。

zu-1a19世紀の製本


zu-1b19世紀製本のモチーフ


[20世紀]
時は流れ、産業革命が起き、ルリユールも「みんなのもの」になっていきます。
折しも装飾美術は、アールヌーボー、アールデコが一世を風靡します。

zu-2aG. Crettéによるアールヌーボー製本


zu-2bP . Legrainによるアールデコ製本


それ以降は現代にいたるまで、もはやルリユールの装飾表現は、ドリュールによるデコールに限定されたものではなくなり、本文であるテクストの内容からイメージされたデザインになります。
ベルエポック時代には、画家が挿絵を入れた部数限定のいわゆる「画家本」が流行し、ルリユールも再び盛り上がりをみせました。


「本が好き」という言葉には、読むこと、見ること、集めること、つくること等、十人十色の意味があると思います。
これまで、私自身の「本が好き」には、本を読むことが好き、という意味しかありませんでした。
それが一変したのは、ルリユールやドリュールに出会ってからです。
「ルリユールは本ありきの仕事であり、何があろうとも、本の存在(かたち)を尊重しなければならない」という製本学校の先生の教えは、とても衝撃的でした。本をどのように美しく丈夫に保護していくかを学ぶことにより、本がただの「テクストが載った紙の媒体」から、「愛すべき個人の分身」という存在にパラダイムシフトしたことも大きな出来事でした。

人生80年と言われる昨今、人間が長生きするようになったとは言え、芸術が残す痕跡に比べれば短いものです。
Art is long, Life is shortというように美術や芸術そして技術は、私たちの死後も時空を越えて何か大切なものを引き継いでいってくれます。私たちは、先輩達が居なくなった現在でも、彼らが苦労し試行錯誤しながら作り上げ残していってくれたものを見ることにより、技術を学び美しさを感じ取ることができるのです。
そんなことに感謝し、できるだけ先輩たちに近づけるように、本を大切に素敵にしていきたいと思いながら、日々制作をしております。

ルリユール・ドリュールの歴史は今回で終了です。
以降、次回羽田野麻吏からはメンバー各人のルリユール徒然日記をお送りいたします。

(文・中村美奈子)
中村(大)のコピー


※画像出典
Pascal ALIVON, STYLES ET MODELES, Artnoville Edition 1990
A. Duncan and G. de Bartha, Art Nouveau and Art Deco Bookbinding, Thames and Hudson1989
P. Culot, P. Loze, A. de Coster and P. Aron, Bibliotheca Wittockiana, Crédit Communal 1996

●作品紹介~羽田野麻吏制作
Hatano2-1


Hatano2-2


Hatano2-3
『A DEMEURER AINSI AU BORD D'UN SOIR』
JOËL VERNET
銅版6葉 MARIE ALLOY
Universitaires de France  
限定30部の内25番 サイン入り

・2001年
・256x213x20mm
・総牛革二重装 折表紙仕立て
・牛革にリソグラフ 蛇革・銅板・染め紙の嵌め込み
・スウェード/染め和紙の見返し 天小口色染め
・夫婦函
・タイトル箔押し:芦沢博美(函タイトル箔押し:中村美奈子)
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。

本の名称
01各部名称(1)天
(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)


額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。

角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。

シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。

スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。

総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。

デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。

二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。

パーチメント
羊皮紙の英語表記。

パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。

半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。

夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。

ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。

両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。

様々な製本形態
両袖装両袖装


額縁装額縁装


角革装角革装


総革装総革装


ランゲット装ランゲット製本


◆frgmの皆さんによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。