スタッフSの海外ネットサーフィン No.30
「SOUNDSCAPES」
The National Gallery, London
読者の皆様こんにちわ。連日酷暑が続く中、いかがお過ごしでしょうか? 毎年この時期になると(避暑的な意味で)イギリスが恋しくなるスタッフSこと新澤です。とはいえ最近はあちらも猛暑続きのようで、フランス在住の妹曰くパリは連日40℃を超える日々だそうで、そうなるとエアコンがある分こちらの方がマシに違いないと自分に言い聞かせております。
過去の記事では大英博物館、テートモダン、V&Aにロイヤルアカデミーオブアーツ等を取り上げてきましたが、今回ご紹介するのはそれらに劣らぬロンドン美術館の大御所The National Galleryです。

Diego Delso [CC BY-SA 4.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0)], via Wikimedia Commons
ナショナル・ギャラリーは、ネルソン提督の像で知られる(?)イギリスのロンドン、トラファルガー広場に位置する美術館です。すぐ近くには南東部からのロンドンへの玄関口であるチャーリングクロス駅があり、自分も学生時代はよくギャラリーの裏手を横切ってはピカデリーサーカスやレスタースクエアに繰り出していました。話を戻しまして、1824年に設立されたこの国立美術館、13世紀半ばから1900年までの作品2,300点以上を所蔵しています。パリのルーブル美術館の35,000点には遠く及ばない数字ですが、個々の質は高く、2014年度の調べでは世界第3位の年間来場者数を誇ります。その数なんと642万人(ちなみに1位はルーブル美術館の926万人で、2位は大英博物館の669万人)。美術館のコレクションは大衆に広く公開されており、特別な企画展示をのぞいて入館は無料。ただし、維持管理費用の一部を寄付でまかなうため、寄付を募る箱が入り口ほか数カ所に設けられています。
ナショナル・ギャラリーのコレクションは、その基礎が王室や貴族のコレクションの由来ではないという点でヨーロッパでもあまり例のない美術館となっており、保険ブローカーで美術後援家だったジョン・ジュリアス・アンガースタインが収集していた38点の絵画がその原点。初期のコレクションは個人からの寄付によって、チャールズ・ロック・イーストレイクをはじめ、その当時の館長たちが購入したものが3分の2を占めています。その結果、他のヨーロッパ諸国の国立美術館と比べてコレクション数は多くはありませんが、西洋絵画が大きな革新を見せた「ジョットからセザンヌまで」美術史上重要な絵画が収蔵されています。常設展示されているコレクションが少ないとされた時もありましたが、現在ではそのようなことはありません。ちなみにこれでも展示スペースには代々難儀してきた歴史があり、1897年にはイギリス美術専用の分館ナショナル・ギャラリー・オブ・ブリティッシュ・アート(現テート・ブリテン)が派生していたりします。

そんな量より質なナショナル・ギャラリーで、7月8日から9月6日まで開催中なのが今回ご紹介する「SOUNDSCAPES」。入場料は寄付金込みで大人10ポンド、シニア9ポンド、学生・求職者・12-18歳は5ポンド。寄付金なしで大人9ポンド、シニア8ポンド、学生・求職者・12-18歳は4.5ポンド。求職者というカテゴリがあるのがちょっと珍しいですね。
古来より芸術と言えば美術と音楽が二大巨頭ですが、今回の企画はナショナル・ギャラリー所蔵の作品をテーマに、分野の異なる現代の音楽家達に作曲をしてもらおうというもの。聞いたこともない、というような企画ではありませんが、ナショナル・ギャラリー程の大御所が行うともなれば興味も沸くというものです。今回参加している作家と、テーマにした作品を以下にご紹介します:
ニコ・マーリー Nico Muhly
世界各地で様々なオーケストラ、オペラ、バレエの作曲に携わる。メトロポリタンオペラ、イングリッシュ・ナショナル・オペラ、ニューヨーク・シティ・バレエ団の楽曲等を担当。今回の企画で選んだ作品は作者不明の"The Wilton Diptych" (c.1395–9)。

スーザン・フィリップス Susan Philipsz OBE
ターナー賞受賞歴を持つ音作家。音と建築の関係を探求するインスタレーションで知られる。MoMAやシドニービエンナーレ等、世界各地の美術館、美術展に出展している。今回の企画で選んだ作品はハンス・ホルバインの"The Ambassadors" (1533)。

ジェイミー・xx Jamie xx
英国のミュージック・アワードの最高峰であるマーキュリー・プライズを受賞したバンド「The xx」のメンバーにして、音楽プロデューサー、DJ。プロデューサーとしてギル・スコット・ヘーロンやアリシア・キーズとのコラボレーションを行ったこともあり、6月には初のソロアルバム、‘In Colour’をリリースしている。今回の企画で選んだ作品はテオ・フォン・レイセルベルヘの"Coastal Scene" (c.1892)。

ガブリエル・ヤレド Gabriel Yared
オスカー賞受賞経験のある映像作曲家。代表作は「ベティ・ブルー(1986)」、「イングリッシュ・ペイシェント(1996)」、「リプリー(1999)」や「コールド マウンテン(2003)」等。今回の企画で選んだ作品はポール・セザンヌの"Bathers (Les Grandes Baigneuses)" (c.1894–1905)。

クリス・ワトソン Chris Watson
世界屈指の野生動物と自然現象の録音技術者。動物学者デイビッド・アッテンボローがナレーションを努めた「Life」と「Frozen Planet」で英国アカデミー賞を受賞しており、他にも多数の映画、TV番組、ラジオに携わっている。一時期音楽産業から離れていたが、後に復帰。今回の企画で選んだ作品はアクセリ・ガッレン=カッレラの"Lake Keitele" (1905)。

ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー Janet Cardiff and George Bures Miller
世界的に知られたインスタレーションと音作家のコンビ。カナダのグリンドロッドを拠点に活動しており、インスタレーションにオーディオを組み込むことで視覚だけではなく聴覚にも訴える三次元空間を制作している。今回の企画で選んだ作品はアントネロ・ダ・メッシーナの"Saint Jerome in his Study" (c.1475)

調べてみると、どの作家もそれぞれの分野で名を成している方ばかり。
YouTubeのナショナル・ギャラリーのページでも各作家のインタビュー動画が掲載されています。お時間があれば是非ご覧になってみてください。
(しんざわ ゆう)
・ナショナル・ギャラリー公式ページ(英文)
・SOUNDSCAPES 紹介ページ(英文)
●今日のお勧め作品は、内間安瑆です。
内間安瑆
"Forest Weave (Bathers-two-cobalt)"
1982年
油彩、キャンバス
91.5x66.0cm
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆「スタッフSの海外ネットサーフィン」は毎月26日の更新です。
「SOUNDSCAPES」
The National Gallery, London
読者の皆様こんにちわ。連日酷暑が続く中、いかがお過ごしでしょうか? 毎年この時期になると(避暑的な意味で)イギリスが恋しくなるスタッフSこと新澤です。とはいえ最近はあちらも猛暑続きのようで、フランス在住の妹曰くパリは連日40℃を超える日々だそうで、そうなるとエアコンがある分こちらの方がマシに違いないと自分に言い聞かせております。
過去の記事では大英博物館、テートモダン、V&Aにロイヤルアカデミーオブアーツ等を取り上げてきましたが、今回ご紹介するのはそれらに劣らぬロンドン美術館の大御所The National Galleryです。

Diego Delso [CC BY-SA 4.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0)], via Wikimedia Commons
ナショナル・ギャラリーは、ネルソン提督の像で知られる(?)イギリスのロンドン、トラファルガー広場に位置する美術館です。すぐ近くには南東部からのロンドンへの玄関口であるチャーリングクロス駅があり、自分も学生時代はよくギャラリーの裏手を横切ってはピカデリーサーカスやレスタースクエアに繰り出していました。話を戻しまして、1824年に設立されたこの国立美術館、13世紀半ばから1900年までの作品2,300点以上を所蔵しています。パリのルーブル美術館の35,000点には遠く及ばない数字ですが、個々の質は高く、2014年度の調べでは世界第3位の年間来場者数を誇ります。その数なんと642万人(ちなみに1位はルーブル美術館の926万人で、2位は大英博物館の669万人)。美術館のコレクションは大衆に広く公開されており、特別な企画展示をのぞいて入館は無料。ただし、維持管理費用の一部を寄付でまかなうため、寄付を募る箱が入り口ほか数カ所に設けられています。
ナショナル・ギャラリーのコレクションは、その基礎が王室や貴族のコレクションの由来ではないという点でヨーロッパでもあまり例のない美術館となっており、保険ブローカーで美術後援家だったジョン・ジュリアス・アンガースタインが収集していた38点の絵画がその原点。初期のコレクションは個人からの寄付によって、チャールズ・ロック・イーストレイクをはじめ、その当時の館長たちが購入したものが3分の2を占めています。その結果、他のヨーロッパ諸国の国立美術館と比べてコレクション数は多くはありませんが、西洋絵画が大きな革新を見せた「ジョットからセザンヌまで」美術史上重要な絵画が収蔵されています。常設展示されているコレクションが少ないとされた時もありましたが、現在ではそのようなことはありません。ちなみにこれでも展示スペースには代々難儀してきた歴史があり、1897年にはイギリス美術専用の分館ナショナル・ギャラリー・オブ・ブリティッシュ・アート(現テート・ブリテン)が派生していたりします。

そんな量より質なナショナル・ギャラリーで、7月8日から9月6日まで開催中なのが今回ご紹介する「SOUNDSCAPES」。入場料は寄付金込みで大人10ポンド、シニア9ポンド、学生・求職者・12-18歳は5ポンド。寄付金なしで大人9ポンド、シニア8ポンド、学生・求職者・12-18歳は4.5ポンド。求職者というカテゴリがあるのがちょっと珍しいですね。
古来より芸術と言えば美術と音楽が二大巨頭ですが、今回の企画はナショナル・ギャラリー所蔵の作品をテーマに、分野の異なる現代の音楽家達に作曲をしてもらおうというもの。聞いたこともない、というような企画ではありませんが、ナショナル・ギャラリー程の大御所が行うともなれば興味も沸くというものです。今回参加している作家と、テーマにした作品を以下にご紹介します:
ニコ・マーリー Nico Muhly世界各地で様々なオーケストラ、オペラ、バレエの作曲に携わる。メトロポリタンオペラ、イングリッシュ・ナショナル・オペラ、ニューヨーク・シティ・バレエ団の楽曲等を担当。今回の企画で選んだ作品は作者不明の"The Wilton Diptych" (c.1395–9)。

スーザン・フィリップス Susan Philipsz OBEターナー賞受賞歴を持つ音作家。音と建築の関係を探求するインスタレーションで知られる。MoMAやシドニービエンナーレ等、世界各地の美術館、美術展に出展している。今回の企画で選んだ作品はハンス・ホルバインの"The Ambassadors" (1533)。

ジェイミー・xx Jamie xx英国のミュージック・アワードの最高峰であるマーキュリー・プライズを受賞したバンド「The xx」のメンバーにして、音楽プロデューサー、DJ。プロデューサーとしてギル・スコット・ヘーロンやアリシア・キーズとのコラボレーションを行ったこともあり、6月には初のソロアルバム、‘In Colour’をリリースしている。今回の企画で選んだ作品はテオ・フォン・レイセルベルヘの"Coastal Scene" (c.1892)。

ガブリエル・ヤレド Gabriel Yaredオスカー賞受賞経験のある映像作曲家。代表作は「ベティ・ブルー(1986)」、「イングリッシュ・ペイシェント(1996)」、「リプリー(1999)」や「コールド マウンテン(2003)」等。今回の企画で選んだ作品はポール・セザンヌの"Bathers (Les Grandes Baigneuses)" (c.1894–1905)。

クリス・ワトソン Chris Watson世界屈指の野生動物と自然現象の録音技術者。動物学者デイビッド・アッテンボローがナレーションを努めた「Life」と「Frozen Planet」で英国アカデミー賞を受賞しており、他にも多数の映画、TV番組、ラジオに携わっている。一時期音楽産業から離れていたが、後に復帰。今回の企画で選んだ作品はアクセリ・ガッレン=カッレラの"Lake Keitele" (1905)。

ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー Janet Cardiff and George Bures Miller世界的に知られたインスタレーションと音作家のコンビ。カナダのグリンドロッドを拠点に活動しており、インスタレーションにオーディオを組み込むことで視覚だけではなく聴覚にも訴える三次元空間を制作している。今回の企画で選んだ作品はアントネロ・ダ・メッシーナの"Saint Jerome in his Study" (c.1475)

調べてみると、どの作家もそれぞれの分野で名を成している方ばかり。
YouTubeのナショナル・ギャラリーのページでも各作家のインタビュー動画が掲載されています。お時間があれば是非ご覧になってみてください。
(しんざわ ゆう)
・ナショナル・ギャラリー公式ページ(英文)
・SOUNDSCAPES 紹介ページ(英文)
●今日のお勧め作品は、内間安瑆です。
"Forest Weave (Bathers-two-cobalt)"
1982年
油彩、キャンバス
91.5x66.0cm
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