本を巡る旅

1月半ばより始まりました個展もあと4日となりました。
ルリユール作品は初めて見たという方も多く、これを機にと嬉しくもあり、目にする機会の少なさが悩ましくもありです。

見られないなら在る所に見に行こうということで、製本教室の生徒さんと本を巡る旅に出かけ始めました。
まだ二度ですが、一度目はロンドンのブックフェアに合わせて湖水地方にアトリエ構えてらっしゃる製本家を訪ねました。海外のブックフェアでは、ルリユールされた古書も多く見られますし、美術館と違い手に取って間近に見せて貰うことが出来るのが魅力です。
もちろん本当の客ではないことは一目で判りますので、勇気を出して数点お願いするのが精一杯ですが。

zu-1オリンピアの会場にて、PAUL BONETの1938年の作品を手に


二度目はテクストの方をメインに、マインツとライプツィヒへ。
何れの旅も前半はfrgmの箔押し師中村と二人で、アイルランドでケルズの書と印刷博物館など、スイスで写本と紙の博物館などと欲張ったスケジュールを組み、後半に生徒さんと現地集合です。

前回の本を巡る旅、スイスの目的地はバーゼルの他、ザンクト・ガレンの修道院図書館とライヒェナウ島の聖ゲオルグ教会です。相当抑えられているとはいえ、傑作ぞろいだったアイルランド写本の装飾を当時継承したザンクト・ガレン。10万冊を誇るという蔵書の一部がぎっしり並んだ書棚の金網越しの本の背から往時を想像・・・・・・。公開されていた部屋は予想外に狭かったのですが、展示ケースにあった宝石などが埋め込まれたオルフェブルリと呼ばれる本は、これまでに見た中で最も端正なものでした。
オットー1世の元で権力を享受した修道院で豪華写本が作られた中で、指導的立場だったといわれるライヒェナウは、駅があまりに小さく、駅舎どころかホームらしき舗装部も目に入らず、なんと一駅乗り過ごすという大失敗。タクシー・バス・貸自転車も見当たらない中、何処かの施設の専用だったらしきバスに乗せて頂きました。運転手さんも鬼気迫る顔に負けたようです。修復保存されたオットー1世時代に描かれた壁画が日暮れの近い青空の中、穏やかに迎えてくれました。

zu-2St.Georg の壁画


解剖学書の歴史の中で最も美しいと思うウェサリウスの『人体の構造について』はバーゼルで印刷されたものですので、Anatomisches Museum にあるに違いないと見当つけていたのですが、開館曜日が滞在と合わず諦めていました。が、駅のインフォメーションで知って代わりに?行った薬事博物館の受付でその話をした途端、開いたままのレジを放って走るオジサン。ウェサリウスの名を出すまでは、落ち着いた紳士でしたのに。生誕500年を記念して新たに出版された本のパンフレットを取りに行って下さったのでした。重さ14キロの二巻本、1250ユーロは買えませんが、走って下さったのが嬉しい。

zu-3薬事博物館に並ぶ素敵な道具や模型とここにもあったウェサリウスの『人体の構造について』


zu-4


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百科全書の中の愛書狂についての項目では「愛書狂とは…書物を持ちたいという狂気に過ぎず…書物への愛は哲学と啓蒙精神によって導かれねば滑稽極まる情念の一つにすぎない」とあるそうですが、滑稽けっこう、なんと愛すべき情念でしょう。本好きに幸あれ、です。
(文:羽田野麻吏)
羽田野(大)のコピー


●作品紹介~羽田野麻吏制作
5-1


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『LE LEURRE OPTIQUE』
DONATELLA BISUTTI
VITA CARLOFEDELI 銅版画1葉
Editions Unes 1988年
限定40部の内29番

・2001年制作
・総仔牛革三重装 パッセカルトン
・仔牛革のモザイク
・仔牛革と豚スウェードの見返し
・天金
・タイトル箔押し:芦沢博美
・シュミーズ・スリップケース
・224×155×22mm

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●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。

本の名称
01各部名称(1)天
(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)


額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。

角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。

シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。

スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。

総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。

デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。

二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。

パーチメント
羊皮紙の英語表記。

パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。

半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。

夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。

ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。

両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。

様々な製本形態
両袖装両袖装


額縁装額縁装


角革装角革装


総革装総革装


ランゲット装ランゲット製本


●今日のお勧め作品は、ジョン・F・ケーニングです。
20160203_kaening_01ジョン・F・ケーニング
「作品」
1977年
油彩・コラージュ、キャンバス
Image size: 55.5x46.0cm(F12号)
サインあり


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◆frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。