活字について(2) 製本用活字

前回は活版印刷用活字についてお話ししました。今回は製本の活字についてご説明いたします。

ルリユールに用いる活字は、革の上に押すために何度も熱して使用するため、鉛よりも硬くて丈夫な真鍮で作られています。そして、木製の柄のついた活字ホルダーに文字を組んで使用します。

画像a活字ホルダー


真鍮は鉛より材料費がかかり、硬さもあるので、手彫りで仕上げられます。そのような理由もあるため、活版印刷用活字と比べると極端に種類が少なくなります。以下、代表的なものをご紹介します。

Elzévir(エルゼヴィール):クラシックなものから現代のものまで幅広く用いられます。
出どころに関する諸説がありますが、オランダの印刷工エルゼビールが本文印刷に使用していた活字が元になって作られたというのが有力です。どちらかというと、
普通製本に使用されます。

画像bエルゼヴィール


Didot(ディド):主にロマンチック期のものに用いられるます。印刷工兼書籍商ディドが一般化したものですが、グランジャンの書体が元だと言われています。スタイリッシュな雰囲気があり、ファッション関係の書物にも適しています。

画像cディド


Egyptien(エジプシャン):あまり使用頻度は高くありませんが、セリフが本体の線の太さと同じ書体です。日本語で言うなら、ゴシック体でしょうか。

画像dエジプシャン


Bâton(バトン):サンセリフ書体。19世紀以降に使い始められたもので、現代のものにふさわしく、古典書物にはあまりそぐいません。

画像eバトン


それでは、日本語の書物のタイトルの場合はどうでしょうか。
日本語はアルファベットと異なり漢字も膨大な数になりますし、真鍮の日本語活字は私が知る限り存在しないので、活版用鉛活字を使わざるをえません。
日本語は漢字に加え、ひらがなとカタカナがあります。縦書き本文ではあまり違和感がないことですが、背に漢字・ひらがな・カタカナが混ざり合って一行だけポツンとあると、それぞれの特徴が顕著に出てきます。ほぼ正方形に収まる漢字、柔らかくどちらかと言うと縦長なひらがな、そして、カタカナはカクカクとして同じ号数でも全体的に小さめになっています。アルファベットでも縦書きですと、EやLなどに生じる問題ですが、漢字・ひらがな・カタカナの三つをまとめてすわりのいいように見た目にもしっくりさせる微調整が必要になります。この作業は定規で測るという問題ではなく、自分の目だけが頼りになりますので、とても気を使いますが、同時に文字から感じる「あれこれ」とした日本語の豊かさも再発見したりします。

活字は、ただ単に文字を浮かび上がらせるだけの「物体」ではなく、人間の知を顕してくれる「媒体」であり、書物文化の種なのではないでしょうか。
(文・中村美奈子)
中村(大)のコピー


●作品紹介~中村美奈子制作
nakamura4
『Mythical Monsters』
Charles Gould

1886年
W.H.ALLEN &CO. LONDON
 
・山羊背バンド半革装 パッセ・カルトン
・金箔装飾背表紙
・糊染め紙見返し
・天金 
・タイトル・表紙箔押し:中村美奈子
・スリップケース
・2012年(製本:frgm)
・246×153×32mm
半革装の背に装飾を施しました。大柄なマーブルを引き締めるようにチェーン模様を何種類か組み合わせています。

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●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。

本の名称
01各部名称(1)天
(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)


額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。

角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。

シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。

スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。

総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。

デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。

二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。

パーチメント
羊皮紙の英語表記。

パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。

半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。

夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。

ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。

両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。

様々な製本形態
両袖装両袖装


額縁装額縁装


角革装角革装


総革装総革装


ランゲット装ランゲット製本


◆ときの忘れものでは、frgmの皆さんによる展覧会「ルリユール 書物への偏愛」を今秋11月に開催します
  会期:2016年11月1日(火)~11月12日(土)

◆frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。