岡本太郎さんがこれほど再評価というか、若い人のブームになるとは思いもよりませんでした。
1974~1985年まで亭主は渋谷に本拠を構え種々の展覧会やイベントを行なっていたのですが、青山に住む岡本さんは気軽に訪れてくれました。当時はテレビで「芸術は爆発だ!」と叫び、コマーシャルにも登場、ある種人気者でしたが、逆にそれが禍して美術界では少々・・・・
それが今では様変わり。
著書は次々に復刊され、代表作「太陽の塔」は修復後の公開も予定されていて、ドキュメンタリー映画の監督には映像の世界で注目を浴びている関根光才さんが選ばれた。
草間さんの文化勲章といい、太郎さんのブームといい、30年前には想像だにしなかったことが現実となる。長生きはするもんですね。

ときどき岡本太郎の版画が入ってきます。以前にも版画について触れたことがあります。
昔と違って直ぐ売れるのでありがたいのですが、作品の実物に記載されているのはサインと限定番号くらいで、その他の情報(制作年、タイトルなど)については記入されておらずわからないことが多い。

:これはいつ頃の作品ですか。
亭主:さあ・・・・・
:ワタヌキさんでもわからないんですか(と呆れ顔)。

てな情けないやり取りになります。
いや決してサボっているわけじゃあありません。

某月某日、亭主は川崎市岡本太郎美術館の学芸に電話いたしました。
亭主:不勉強で申し訳ないんですが、岡本太郎さんの版画ってどのくらいあるんでしょうか。そちらではレゾネに類する資料をお持ちでしょうか。

電話口の若い(きっと美しい)女性:申し訳ないのですがうちでもわかりません。レゾネ的なものもありません。以前、雑誌『版画芸術』152号が岡本太郎特集(全版画作品)を組んでおり、それに掲載されているのがほとんどだと思いますけれど・・・・

う~む、本家本元でもわからんらしい。困った・・・・
下にご紹介するのは、新発掘といっていいか、亭主が知る範囲では上掲の『版画芸術』誌にも、他の版画文献にも掲載されていません。

岡本太郎_作品岡本太郎
(作品)
シルクスクリーン、手彩色
イメージサイズ:26.4×34.5cm
シートサイズ:24.5×29.0cm
E.A.
サインあり


作品を精査すると、緑色の画面はシルクスクリーンで刷られていますが、赤をはじめとする躍動感のある部分はすべて油彩による手彩色です。
これを版画というべきか、一点一点岡本さんが絵筆を振るったに違いないので、同じものはない。「ミクストメディアmixed-media」によるユニーク作品とでも表記した方がいいかも知れません。

旧蔵者は<1950年代から前衛美術運動に参加、幅広い分野で半世紀にわたり活躍したS氏>です。
S氏と岡本太郎との接点は「夜の会」あたりでしょうか。

夜の会」とは、
終戦後まもない時期に活発に展開された、文学と美術のジャンルにまたがる前衛芸術の研究会。1948年6月、発起人の花田清輝と岡本太郎を中心に、椎名鱗三、埴谷雄高、野間宏、佐々木基一、安部公房、関根弘らが会員・オブザーバーとして参加して発足。東中野の喫茶店「モナミ」を会場に、「リアリズム序説」「対極主義」「反時代精神」「創造のモメント」といった研究発表を軸に、アヴァンギャルド芸術をめぐる熱い討論が交わされた。このうち、当時共産党に近い立場だった花田等は同年9月に「アヴァンギャルド芸術研究会」を形成し、また翌年5月には新しい芸術運動体「世紀の会」が起こるなど、「夜の会」を起点とした多くの芸術運動が分岐していく。この運動に関わって後に頭角を現わした作家としては、作家の池田龍雄、桂川寛、安部真知、勅使河原宏、田中正光等がおり、またこの会の一員であった批評家の針生一郎や瀬木慎一等は、後年の諸著作で「夜の会」を回顧している。(執筆者:暮沢剛巳、artscapeの現代美術用語辞典より)

ときの忘れものでは、亡くなられたS氏の旧蔵作品及び資料の整理を続けていますが、2014年11月にその一部を「戦後の前衛美術'50~'70 S氏コレクションより」として公開しましたが、それだけでは終わらず、昨年末にも第2回目のSaleを開催しました。

さらに第3回目となる今回は、1950年代に丸木位里・俊夫妻が描いた「原爆の図」を携えて全国を巡回した反骨の評論家Y氏の旧蔵作品も加わります。
S氏が1931年生まれ(2011年没)、Y氏は1929年生まれ(2016年没)ですからほぼ同時代、ともに美術評論で活躍され、詩人でもありました。しかし、遺された作品群(コレクション)はまったく傾向が異なります。
今回初公開するY氏旧蔵作品(河原温、桜井孝身、中村宏、池田龍雄、古沢岩美、多賀新、猪瀬辰男、入野忠芳、etc.,)は濃いです、エロスに満ちています。
圧巻は河原温の「印刷絵画」でしょう。

上掲のS氏旧蔵の岡本太郎作品も出品します。

■岡本太郎 Taro OKAMOTO(1911-1996) 神奈川県生まれ。1930年から1940年までをフランスで過ごす。 1948年花田清輝らと「夜の会」を結成し前衛美術運動を始め、同年9月に「アヴァンギャルド芸術研究会」を結成。抽象美術運動やシュルレアリスム運動と 直接関わる。戦後、絵画や立体を精力的に制作するだけでなく、旺盛な執筆活動も行なった。1969年壁画《明日の神話》完成(メキシコ)。1970年万国博にて《太陽の塔》を制作する。

戦後の前衛美術‘50-70 Part III S氏 & Y氏コレクション(入札)」
会期:2016年12月3日[土]―12月10日[土] *日曜、月曜、祝日休廊
入札締切り:12月10日[土] 17時必着

2016121950年代から「夜の会」など前衛美術運動に参加、国際的な視野にたって活躍したS氏と、同じく50年代から丸木位里・俊夫妻の「原爆の図」を携えて全国を巡回した反骨の評論家Y氏の旧蔵作品を入札方式で頒布します。
好評だったPart I及びPart IIに続き、1950~70年代の前衛の時代を駆け抜けた作家たちの希少なコレクションです。
*下記の画像はクリックすると拡大しますが容量の関係で鮮明ではありません。より鮮明な作品画像は下記のURLにてご覧ください(クリックすると拡大します)。
http://www.tokinowasuremono.com/tenrankag/izen/tk1612/284/284_list.jpg
201612戦後の前衛~_5000

リストはHPには公開しません
入札リスト(最低価格入り)をご希望の方は、こちらから、必ず「件名(入札リスト希望)」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してお申込みください。希望者には郵送でもお送りします。
出品予定
赤瀬川原平「零円札」、荒木経惟『センチメンタルな旅』、池田龍雄、伊坂義夫、石内都『YOKOSUKA STORY』、猪瀬辰男、入野忠芳、岩崎巴人、岡本太郎、オノ・ヨーコ Yoko ONO『Grapefruit』、小山田チカエ、河原温「印刷絵画」、絹谷幸二、久保俊寛、桑原盛行、小松省三、近藤竜男、斎藤義重、桜井孝身、篠原有司男、白髪一雄、勝呂忠、スズキシンイチ、ヌリート・マソン・関根、多賀新、高山良策、田口雅巳、谷川晃一、田淵安一、たべけんぞう、利根山光人、土橋醇、豊島弘尚、中村宏、古沢岩美、三浦久美子、水谷勇夫、緑川俊一、南桂子+浜口陽三、元永定正、横尾忠則、ヨシダ・ヨシエ、吉仲太造、吉原治良、依田邦子、K Noriko(K・ノリコ)、Eugene BRANDS(ユージーン・ブランズ)、Beatriz SANCHEZ(ベアトリス・サンチェス)、Gerard Schneider(ゲラルド・シュネーデル)、Salvador y Domenech DALI (サルヴァドール・ダリ)、Mark TOBEY(マーク・トビー)、Roberto CRIPPA(ロベルト・クリッパ)、Pierre ALECHINSKY(ピエール・アレシンスキー)、Jean TINGUELY(ジャン・ティンゲリー)、
具体』機関誌4号・8号、
五人組写真集 REVOLUTION』季刊第1号(1972年 池田昇一、伊藤久、鈴木完侍、彦坂尚嘉、矢野直一)、
色彩と空間展」南画廊ポスター1966年(磯崎新、山口勝弘、アン・トルーイット、サム・フランシス、三木富雄、田中信太郎、湯原和夫、五東衛(清水九兵衛)、東野芳明)、
現代美術フェスティバル」ポスター1970年(荒川修作、岡本信次郎、馬場彬、三木富雄、元永定正、山口勝弘、吉仲太造、村上善男、伊藤隆道、野田哲也、高松次郎、柵山龍司、池田満寿夫、若尾和呂、瀬木愼一)

本日の瑛九情報!
ご紹介した岡本太郎さんは1911年(明治44年)生まれ、そうなんです、瑛九と同い年。
画家の香月泰男さん、伊藤清永さん、熊田千佳慕さん、彫刻家の淀井敏夫さんと西常雄さん、写真家の藤本四八さん、美術評論家の植村鷹千代さん、1960年代を象徴するアイビールックの生みの親・VANの石津謙介さん(晩年青山の酒場でご一緒しました)、最近NHKの朝ドラで話題になったらしい(亭主の家にはテレビがない)『暮しの手帖』の花森安治 さん、物理学者の武谷三男さん、み~んな同級生です。
世界を見ればシュルレアリスムの作家ロベルト=マッタ (Roberto Matta Echaurren)、六本木ヒルズの巨大な彫刻でお馴染みのルイーズ=ブルジョワ (Louise Bourgeois)も同年、皆さん長生きしたけれど、若死にした瑛九も同時代人だったことがわかります。
瑛九 1935-1937 闇の中で「レアル」をさがす>展が東京国立近代美術館で始まりました(11月22日~2017年2月12日)。ときの忘れものでは会期終了まで瑛九情報を毎日発信します。