森本悟郎のエッセイ その後
第35回 合田佐和子 (2) 二つの回顧展
前に「赤瀬川原平とライカ同盟」で触れた「ライカ同盟写真展[博多来襲]」のオープニング・レセプションを了えた翌日、福岡空港から高梨豊さん赤瀬川原平さんは東京に帰り、ぼくと秋山祐徳太子さんは高知に向かった。合田さんの生まれ故郷にある、高知県立美術館の「森村泰昌と合田佐和子」展(2001.2.11~3.25)初日に駆けつけるためだ。
合田さんの展覧会はいくつも見ていたが、このような規模の回顧展は初めてだった。すでに合田展開催を決めていたぼくは、同展がどのような作品を選び、どのようなくくりで配列するのか、ということに関心をもっていた。その意味では2人展とはいうものの会場を分け、個展を二つ並べたような構成はありがたかった。その合田会場は最初期のものから最新作までの作品が、ほぼ時系列とスタイルによってグルーピングされていた。これは美術館展示の常套的配列であるが、合田佐和子という美術家がいかに生まれ、どのような表現を展開してきたかを端的に伝えるにはすぐれた方法である。
200点近い作品を一堂に展示できるのはさすがに美術館ならではで、C・スクエアの「種村季弘[奇想の展覧会]実物大」(1999)で展示した作品に再会したり、それまで見たことのなかった、高校時代の『セルフ・ポートレート』(1955)や武蔵野美術学校(現武蔵野美術大学)時代の金属・ガラス・陶器・木などを組み合わせたオブジェなどが見られたのも楽しい体験だった。難をいえば絵画とオブジェに偏していて、ポスター・ブックワーク・写真といった合田さんのもう一つの世界が欠落していた。これは展示スペースをシェアしなければならない、2人展という制約がもたらした結果だったのだろう。
「森村泰昌と合田佐和子」展図録ボックス
「森村泰昌と合田佐和子」展図録合田版表紙
「合田佐和子 影像 ―絵画・オブジェ・写真―」展図録表紙
では、小規模なわがC・スクエアではどんな合田佐和子展ができるのだろうか、と高知以後ずっと考えていた。
(もりもと ごろう)
■森本悟郎 Goro MORIMOTO
1948年名古屋市生まれ。1971年武蔵野美術大学造形学部美術学科卒業。1972年同専攻科修了。小学校から大学までの教職を経て、1994年から2014年3月末日まで中京大学アートギャラリーC・スクエアキュレーター。展評、作品解説、作家論など多数。現在、表現研究と作品展示の場を準備中。
●今日のお勧め作品はクリストです。
クリスト
《The Museum of Modern Art Wrapped (Project for New York)(Schellmann 37),》
1971年
オフセットリトグラフ
シートサイズ:71.2×55.5cm
Ed.100
Signed
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◆森本悟郎のエッセイ「その後」は毎月28日の更新です。
第35回 合田佐和子 (2) 二つの回顧展
前に「赤瀬川原平とライカ同盟」で触れた「ライカ同盟写真展[博多来襲]」のオープニング・レセプションを了えた翌日、福岡空港から高梨豊さん赤瀬川原平さんは東京に帰り、ぼくと秋山祐徳太子さんは高知に向かった。合田さんの生まれ故郷にある、高知県立美術館の「森村泰昌と合田佐和子」展(2001.2.11~3.25)初日に駆けつけるためだ。
合田さんの展覧会はいくつも見ていたが、このような規模の回顧展は初めてだった。すでに合田展開催を決めていたぼくは、同展がどのような作品を選び、どのようなくくりで配列するのか、ということに関心をもっていた。その意味では2人展とはいうものの会場を分け、個展を二つ並べたような構成はありがたかった。その合田会場は最初期のものから最新作までの作品が、ほぼ時系列とスタイルによってグルーピングされていた。これは美術館展示の常套的配列であるが、合田佐和子という美術家がいかに生まれ、どのような表現を展開してきたかを端的に伝えるにはすぐれた方法である。
200点近い作品を一堂に展示できるのはさすがに美術館ならではで、C・スクエアの「種村季弘[奇想の展覧会]実物大」(1999)で展示した作品に再会したり、それまで見たことのなかった、高校時代の『セルフ・ポートレート』(1955)や武蔵野美術学校(現武蔵野美術大学)時代の金属・ガラス・陶器・木などを組み合わせたオブジェなどが見られたのも楽しい体験だった。難をいえば絵画とオブジェに偏していて、ポスター・ブックワーク・写真といった合田さんのもう一つの世界が欠落していた。これは展示スペースをシェアしなければならない、2人展という制約がもたらした結果だったのだろう。
「森村泰昌と合田佐和子」展図録ボックス
「森村泰昌と合田佐和子」展図録合田版表紙*
東京渋谷の松濤美術館で開かれた回顧展、「合田佐和子 影像 ―絵画・オブジェ・写真―」展(2003.10.14~11.24)は高知展より一層多彩な作品によって、作家の多才を際だたせようとするものだった(ちなみに合田さんは武蔵美時代渋谷区在住だったという)。白井晟一設計の個性的なこの建物の特性を活かして、2階の展示室に初期作品を、地下展示室に近作を配していた。それは単に時系列で作品展開を見せようというのでなく、モノクローム写真をもとに描き始めた初期のやや暗い作品と、エジプト移住敢行(1985~86)以後の、画面から光を発するような明るい作品とを対照させることで、誰の目にも合田作品の変貌ぶりを際だたせようという試みだった。それは中庭に射す光によって地下展示室の方が2階展示室よりも明るく感じるという、館の構造を知悉している企画者ならではの発想から生まれたものだろう。
「合田佐和子 影像 ―絵画・オブジェ・写真―」展図録表紙*
美術館では個展によって作家の個性と全体像を浮かび上がらせることができる。では、小規模なわがC・スクエアではどんな合田佐和子展ができるのだろうか、と高知以後ずっと考えていた。
(もりもと ごろう)
■森本悟郎 Goro MORIMOTO
1948年名古屋市生まれ。1971年武蔵野美術大学造形学部美術学科卒業。1972年同専攻科修了。小学校から大学までの教職を経て、1994年から2014年3月末日まで中京大学アートギャラリーC・スクエアキュレーター。展評、作品解説、作家論など多数。現在、表現研究と作品展示の場を準備中。
●今日のお勧め作品はクリストです。
クリスト《The Museum of Modern Art Wrapped (Project for New York)(Schellmann 37),》
1971年
オフセットリトグラフ
シートサイズ:71.2×55.5cm
Ed.100
Signed
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◆森本悟郎のエッセイ「その後」は毎月28日の更新です。
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