本を巡る旅 - その4

印刷機と活字に占領された脳を、マインツから電車で2時間ほど離れたフェルクリンゲンへのピクニックで丸一日休めた後、ストライキに翻弄されながらライプツィヒに向かいます。大市ではフランクフルトのライバルとして名を知られていたライプツィヒは、印刷業もフランクフルトより一足早く1476年には興っており、ペーター・シェーファーやコーベルガーなどの印刷業者や書籍商が商いをしています。ヴェネツィア、パリ、リヨンが群を抜いていたインキュナブラの時代の、しんがりに芽吹いた地といえましょうか。一つ目の目的地である印刷博物館は、マインツのグーテンベルグ博物館とうって変わり親子が一組いただけで、ほぼ貸切り状態の贅沢さでした。活字鋳造機、活字、新旧の印刷機どれもがいつでも使えるような状態で広いフロアに間近に見られるよう展示されており、各所では実演して貰うことが出来、自由に試し刷り出来るように準備されているものもあります。

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印刷博物館中庭

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モノタイプ鋳造機/活字収蔵室/フィルム箔押し機

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熱心に鋳造機の話を聞いていた父親の隣にいたお嬢さんが、日本語で私達にかいつまんで説明してくれました。

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マインツでは叶わなかった手引き印刷機体験

二つ目の目的地、国立図書館のエントランス展示もまた貸切りでした。
ファクシミリ版も混ざっていますが、写本から20世紀初頭までの本が1フロアに展示されており、マインツとクリングスポールのおさらいです。

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国立図書館 ライプツィヒ

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版と印刷されたページ/数少ない表紙の展示

5日間で4つの(当初の予定では5つ)博物館を欲張ったわけですが、
その地で数にのまれることも、それぞれが一冊に向き合って製本する時間のどこかに呼応する、よきことではないかと思います。
意図されて、あるいはただ開きやすさから選ばれたかもしれない見開きの頁から頁へ、数世紀の時間の中に目を身体ごと漂わせていると、予習した僅かばかりの事柄などはあっさりと消え去り、そのうち読めもしない頁に得体のしれない確信が湧いてきます。様々な手と時代を経て違う時を過ごしてきた本が、平然と熱を持ってそこに在る事に気がつき、またそれが変わらないであろうことは、3年経った今思い返してもどこか楽しい気分にさせます。
(文:羽田野麻吏
羽田野(大)のコピー


●作品紹介~羽田野麻吏制作
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羽田野麻吏 作品7
『LES JOUES EN FEU』
RAYMOND RADIGUET

口絵:Picasso
BERNARD GRASSET PARIS 1925年 1100部のうち263番

・総仔牛革装 綴じ付け製本
・仔牛革と蜥蜴革によるデコール
・仔牛革・蜥蜴革/スウェードの見返し
・タイトル箔押し 中村美奈子
・夫婦函
・2016年
・188×123×14mm
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●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。

本の名称
01各部名称(1)天
(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)


額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。

角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。

シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。

スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。

総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。

デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。

二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。

パーチメント
羊皮紙の英語表記。

パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。

半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。

夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。

ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。

両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。

様々な製本形態
両袖装両袖装


額縁装額縁装


角革装角革装


総革装総革装


ランゲット装ランゲット製本


●今日のお勧め作品は島州一です。
DSCF7405"working on safety"
1975年
シルクスクリーン
イメージサイズ:43.3×32.2cm
シートサイズ :56.8×38.2cm
Ed.100
サインあり

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◆frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。