岡部徳三「ナムジュンパイクの版画制作始末記」

第3回
 彼は言葉を選ぶように、金大中(ノーベル平和賞の韓国元大統領)とKCIA(韓国情報部)とか朴正熙(時の大統領)など、断片的にしか聞こえないような話し方をした。いつもそうだが、わたしは彼が小声で喋るときの日本語を十分に聞き取れない。他の人はどうなんだろうか。およそ彼の言っていることを要約すると、韓国外交部は、外国から日本へ入国する政治、経済、文化の知識人をマークしているということらしい。金大中事件では、反目する元金大統領候補(当時)を日本で拉致して、本国に抑留中という社会背景を考えると、彼が怖れるのも無理はない。しかしです。それなら我々も隠密にやろうじやないですかと、しぶる彼からいま会いたい友人を何人かあげてもらったのである。
 おかしなもので、隠密にという言葉が身に浸みこむようになると、会場選びにも影響して、この店は明るすぎるとか、広すぎるとかで会場がなかなかきまらない。新しくスタッフに加わったビデオカメラマンの手塚君が、靖国通りと明治通りが交差する所に、半地下の紫煙がこもる古い店を見つけてきた。すくなくとも外国からの客を迎える場所としてはふさわしくないが、私たちはなぜか隠密にという、くすぐったいような感覚に煽られて、その店を予約したのであった。
 わたしはパーティを知らせるため電話を掛けまくった。相手は、誰もがびっくりしたようで「えっ、パイクさんだって?。いま日本にいる?それ本当?」から始まって、ところでいったいあなたはだれ?と詰問する人まで、さまざまな反応にこちらがびっくりしたものだ。パイクさんの歴史の一頁にいま立ち会っているのかと思うと。わたしまでが興奮するのであった。宴が無事に終わったのは言うまでもない。
おかべ とくぞう

・岡部徳三「ナムジュンパイクの版画制作始末記」第1回
・岡部徳三「ナムジュンパイクの版画制作始末記」第2回

パイク013パイク014
ナム・ジュン・パイク
「心」
1978年
シルクスクリーン各1版1色
刷り:岡部徳三・岡部版画工房
色紙 27.2x24.2cm
2枚貼合
Ed.75  サインあり

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パイク016
ナム・ジュン・パイク
「UNTITLED」
1978年
シルクスクリーン 5版5色
刷り:岡部徳三・岡部版画工房
各30.0x39.3cm
9枚セット
BFK紙
Ed.75  サインあり
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ナム・ジュン・パイク Nam June Paik 白南準(1932年7月20日 - 2006年1月29日)
1932年日本統治下の韓国京城(ソウル)に生まれる。1949年朝鮮戦争の戦禍を逃れて香港に移住、その後日本に渡り東京大学文学部美学美術史学科を卒業。西ドイツへ渡りミュンヘン大学で音楽史を学ぶ。ジョン・ケージと知り合い大きな影響を受ける。1961年フルクサス運動の創始者ジョージ・マチューナスと出会い、以後、フルクサス運動の中心的存在として活動。1963年テレビ画面を磁石で操作した世界初のビデオ・アート作品を発表。
1964年アメリカに移住。パフォーマンス「ロボット・オペラ」をシャーロット・モーマンと共演する。1977年ビデオ・アーティスト久保田成子と結婚する。1993年第45回ヴェネチア・ビエンナーレにドイツ館代表として参加、金獅子賞を受賞。1998年京都賞受賞。2000年ニューヨーク、グッゲンハイム美術館で回顧展開催。2006年マイアミの自宅で死去、享年73。

P01
秦野の岡部版画工房にて
パイク(右)と岡部徳三(左)

P02


岡部徳三(おかべ・とくぞう 1932~2006)
版画刷り師。東京都出身。1964年岡部版画工房を設立。日本のシルクスクリーン版画刷り師の草分けとして、靉嘔オノサト・トシノブ草間彌生横尾忠則をはじめ、多くの現代作家たちの作品を手がけた。ジョン・ケージナム・ジュン・パイクジョナス・メカスなど版画に縁の無かった作家達にも積極的にアプローチして彼らの版画誕生に寄与し、美学校のシルクスクリーン教室の講師としても石田了一はじめ多くの英才を育てた。

◆「今週の特集展示:白南準(ナム・ジュン・パイク)と文承根(ムン・スングン)
会期=2017年8月8日[火]―8月19日[土] 11:00-18:00 ※日・月・祝日休廊
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白南準(ナム・ジュン・パイク)文承根(ムン・スングン)の作品約10点をご覧いただきます。


●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~18時。日・月・祝日は休廊。

JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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