岡部徳三「ナムジュンパイクの版画制作始末記」
第4回
わたしたちスタッフは、少ない日程で最良の仕事を望んだ。打ち合わせをしたといってもイメージの交換をしただけだから仕事はむしろぶっつけ本番そのもの。渋谷にあったSONYのスタジオで、パイクさんとわれわれスタッフは、ジョン・ケージ、アレン・ギンズバーグ、マーシャル・マクルーハンなどといったビデオに登場する人たちの、シンセサイザーの画像をひたすら見た。誰かが締麗だという嘆息もらすと、テープを操作しているパイクさんの指が止まり、カメラの野村君が早いシャッターを押す。パイクさんはテープを操作しながら、マクルーハンをとうとうと喋りつつ、自分は朝が弱いから明日は午後からにしない?、とねじこむ。こうしてスタジオには二日通い、200枚位は撮っただろう。
その後も何度か昼食を一緒にとりながら打ち合わせは執拗に続いた。昼食は彼の糖尿病もあって大抵すし屋で過ごす。彼の版画に対する関心と糖尿病と金欠の話は日ごとに高まっていくようだった。
私は撮影したフィルムを製版所に持ち込み、なんとか安くならないかとかけあったが、勉強しましょうといわれた請求書の数字はなにも変わっていなかった。超ど級で差し迫った問題は、彼に対する契約料の支払いが差し迫っていることだ。契約は十種類の版画をつくること。一種類について1,000ドルを支払うという内容のもので、全部で10,000ドルになる。日本円で200万円渡すことになっていたから、当時は1ドル200円位のレートだったのだろう。当時こそ健全であった弊社の経営状態でも、銀行はなかなかうんと言わないのであった。
(おかべ とくぞう)
・岡部徳三「ナムジュンパイクの版画制作始末記」第1回
・岡部徳三「ナムジュンパイクの版画制作始末記」第2回
・岡部徳三「ナムジュンパイクの版画制作始末記」第3回

ナム・ジュン・パイク
「ハート」
1978年
シルクスクリーン1版1色
刷り:岡部徳三・岡部版画工房
21.3x51.5cm
MO紙
Ed.75 サインあり

ナム・ジュン・パイク
「TVニュース」
1984年
リトグラフ 1版1色
23.1x29.0cm
オフセットリーブ紙
台紙へ貼付
Ed.75 サインあり
出品No.6)
白南準(ナム・ジュン・パイク)
《ポスター》
ポスター
84.0×57.0cm
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
■ナム・ジュン・パイク Nam June Paik 白南準(1932年7月20日 - 2006年1月29日)
1932年日本統治下の韓国京城(ソウル)に生まれる。1949年朝鮮戦争の戦禍を逃れて香港に移住、その後日本に渡り東京大学文学部美学美術史学科を卒業。西ドイツへ渡りミュンヘン大学で音楽史を学ぶ。ジョン・ケージと知り合い大きな影響を受ける。1961年フルクサス運動の創始者ジョージ・マチューナスと出会い、以後、フルクサス運動の中心的存在として活動。1963年テレビ画面を磁石で操作した世界初のビデオ・アート作品を発表。
1964年アメリカに移住。パフォーマンス「ロボット・オペラ」をシャーロット・モーマンと共演する。1977年ビデオ・アーティスト久保田成子と結婚する。1993年第45回ヴェネチア・ビエンナーレにドイツ館代表として参加、金獅子賞を受賞。1998年京都賞受賞。2000年ニューヨーク、グッゲンハイム美術館で回顧展開催。2006年マイアミの自宅で死去、享年73。

渋谷のSONYのスタジオにて
モニターを見ながら機械を操作するパイク(中央)と岡部徳三(右)


■岡部徳三(おかべ・とくぞう 1932~2006)
版画刷り師。東京都出身。1964年岡部版画工房を設立。日本のシルクスクリーン版画刷り師の草分けとして、靉嘔、オノサト・トシノブ、草間彌生、横尾忠則をはじめ、多くの現代作家たちの作品を手がけた。ジョン・ケージやナム・ジュン・パイク、ジョナス・メカスなど版画に縁の無かった作家達にも積極的にアプローチして彼らの版画誕生に寄与し、美学校のシルクスクリーン教室の講師としても石田了一はじめ多くの英才を育てた。
◆「今週の特集展示:白南準(ナム・ジュン・パイク)と文承根(ムン・スングン)」
会期=2017年8月8日[火]―8月19日[土] 11:00-18:00 ※日・月・祝日休廊

白南準(ナム・ジュン・パイク)と文承根(ムン・スングン)の作品約10点をご覧いただきます。
●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
営業時間=火曜~土曜の平日11時~18時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

第4回
わたしたちスタッフは、少ない日程で最良の仕事を望んだ。打ち合わせをしたといってもイメージの交換をしただけだから仕事はむしろぶっつけ本番そのもの。渋谷にあったSONYのスタジオで、パイクさんとわれわれスタッフは、ジョン・ケージ、アレン・ギンズバーグ、マーシャル・マクルーハンなどといったビデオに登場する人たちの、シンセサイザーの画像をひたすら見た。誰かが締麗だという嘆息もらすと、テープを操作しているパイクさんの指が止まり、カメラの野村君が早いシャッターを押す。パイクさんはテープを操作しながら、マクルーハンをとうとうと喋りつつ、自分は朝が弱いから明日は午後からにしない?、とねじこむ。こうしてスタジオには二日通い、200枚位は撮っただろう。
その後も何度か昼食を一緒にとりながら打ち合わせは執拗に続いた。昼食は彼の糖尿病もあって大抵すし屋で過ごす。彼の版画に対する関心と糖尿病と金欠の話は日ごとに高まっていくようだった。
私は撮影したフィルムを製版所に持ち込み、なんとか安くならないかとかけあったが、勉強しましょうといわれた請求書の数字はなにも変わっていなかった。超ど級で差し迫った問題は、彼に対する契約料の支払いが差し迫っていることだ。契約は十種類の版画をつくること。一種類について1,000ドルを支払うという内容のもので、全部で10,000ドルになる。日本円で200万円渡すことになっていたから、当時は1ドル200円位のレートだったのだろう。当時こそ健全であった弊社の経営状態でも、銀行はなかなかうんと言わないのであった。
(おかべ とくぞう)
・岡部徳三「ナムジュンパイクの版画制作始末記」第1回
・岡部徳三「ナムジュンパイクの版画制作始末記」第2回
・岡部徳三「ナムジュンパイクの版画制作始末記」第3回

ナム・ジュン・パイク
「ハート」
1978年
シルクスクリーン1版1色
刷り:岡部徳三・岡部版画工房
21.3x51.5cm
MO紙
Ed.75 サインあり

ナム・ジュン・パイク
「TVニュース」
1984年
リトグラフ 1版1色
23.1x29.0cm
オフセットリーブ紙
台紙へ貼付
Ed.75 サインあり
出品No.6)白南準(ナム・ジュン・パイク)
《ポスター》
ポスター
84.0×57.0cm
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
■ナム・ジュン・パイク Nam June Paik 白南準(1932年7月20日 - 2006年1月29日)
1932年日本統治下の韓国京城(ソウル)に生まれる。1949年朝鮮戦争の戦禍を逃れて香港に移住、その後日本に渡り東京大学文学部美学美術史学科を卒業。西ドイツへ渡りミュンヘン大学で音楽史を学ぶ。ジョン・ケージと知り合い大きな影響を受ける。1961年フルクサス運動の創始者ジョージ・マチューナスと出会い、以後、フルクサス運動の中心的存在として活動。1963年テレビ画面を磁石で操作した世界初のビデオ・アート作品を発表。
1964年アメリカに移住。パフォーマンス「ロボット・オペラ」をシャーロット・モーマンと共演する。1977年ビデオ・アーティスト久保田成子と結婚する。1993年第45回ヴェネチア・ビエンナーレにドイツ館代表として参加、金獅子賞を受賞。1998年京都賞受賞。2000年ニューヨーク、グッゲンハイム美術館で回顧展開催。2006年マイアミの自宅で死去、享年73。

渋谷のSONYのスタジオにて
モニターを見ながら機械を操作するパイク(中央)と岡部徳三(右)


■岡部徳三(おかべ・とくぞう 1932~2006)
版画刷り師。東京都出身。1964年岡部版画工房を設立。日本のシルクスクリーン版画刷り師の草分けとして、靉嘔、オノサト・トシノブ、草間彌生、横尾忠則をはじめ、多くの現代作家たちの作品を手がけた。ジョン・ケージやナム・ジュン・パイク、ジョナス・メカスなど版画に縁の無かった作家達にも積極的にアプローチして彼らの版画誕生に寄与し、美学校のシルクスクリーン教室の講師としても石田了一はじめ多くの英才を育てた。
◆「今週の特集展示:白南準(ナム・ジュン・パイク)と文承根(ムン・スングン)」
会期=2017年8月8日[火]―8月19日[土] 11:00-18:00 ※日・月・祝日休廊

白南準(ナム・ジュン・パイク)と文承根(ムン・スングン)の作品約10点をご覧いただきます。
●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
営業時間=火曜~土曜の平日11時~18時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

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