小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」第11回
突然ですが、サボテンはお好きですか? サボテンを飼ったことがありますか? サボテンって植物なので正しくは「育てる」だと思うのですが、なんとなく「飼う」の方がしっくりくる気がするのは僕だけですか? いや、もはや「飼う」ですらなくて、サボテンと共に「暮らす」、ともに「歩む」でしょうか?
かくいう私は、サボテンを二度ほど枯らしたことがあります。サボテンって意外に難しくて、水をあげすぎてもダメで、もちろんあげないのもダメなんです。気付くと、サボテンの表面の張りが失われて、クタクタになってしまいます。
そんな気難しいサボテンを生涯愛し、まさに共に歩んだ作家、龍膽寺雄。昭和初期に佐藤春夫、谷崎潤一郎などに絶賛され文壇にデビューしたモダニズムの作家です。とある作品をきっかけに当時の文壇とは距離を置き、その小説もなかなか読まれなくなってしまいます。
戦後、龍膽寺先生が生活の糧としたのは、趣味であったサボテン。自身で栽培するのはもちろんですが、研究者として、またサボテン(龍膽寺先生の本では「シャボテン」)栽培の伝道師として、多くの本を遺しています。

今回、当店に入荷したのはこの2冊。
『流行の多肉植物』のほうは、育て方や品種の説明など、どちらかと言えば実用的な側面が強い一冊です。しかし、序文はさすが。
「人生は砂漠だ、とよくいわれる。本当に人生は砂漠だろうか。」から始まり、砂漠化する地球と「ドライな若者」像を重ね合わせ、その砂漠化する地球の前衛で戦っている多肉植物こそ「人生の砂漠にあって、(中略)オアシスを求め」た時に我々を癒す存在と言う。
かなりギリギリの飛ばした文章は、さすがとしか言いようがないです。
二冊目は、龍膽寺先生のシャボテン愛に満ちた文章により一層触れられます。
「地球はまだ当分、かわく一方と考えられている。シャボテンが得意顔をしているはずである。」なんていう文章は、先生の愛情を感じて微笑ましいですが、「火星にはえているシャボテン」という文章は、この本の白眉であり、愛情が狂気的でもあるすさまじい文章。火星=砂漠=シャボテン(!)という発想の下、その雨季と乾季の地球との違いを心配し、こう締めくくられます。
「なにしろ早く火星から植物をとってきて、奇異な姿のその宇宙植物を、私たちのシャボテン温室の中で栽培して、ながめたいものである。いずれにしろ、火星の植物を地球へ持ってきて、じょうずに育てられるのは、私たちのほかにはないだろうから。」
先生に伝えたい。「火星への有人飛行は、2030年代の計画だそうです! 火星のシャボテンに会えるのも、もうすぐかもしれません!」
(おくに たかし)
■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。
●今日のお勧め作品は、蛯名優子です。
蛯名優子
"01. e-12"
2001年
水彩、紙
61.0×79.0cm
サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」は毎月5日の更新です。
●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18~24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

突然ですが、サボテンはお好きですか? サボテンを飼ったことがありますか? サボテンって植物なので正しくは「育てる」だと思うのですが、なんとなく「飼う」の方がしっくりくる気がするのは僕だけですか? いや、もはや「飼う」ですらなくて、サボテンと共に「暮らす」、ともに「歩む」でしょうか?
かくいう私は、サボテンを二度ほど枯らしたことがあります。サボテンって意外に難しくて、水をあげすぎてもダメで、もちろんあげないのもダメなんです。気付くと、サボテンの表面の張りが失われて、クタクタになってしまいます。
そんな気難しいサボテンを生涯愛し、まさに共に歩んだ作家、龍膽寺雄。昭和初期に佐藤春夫、谷崎潤一郎などに絶賛され文壇にデビューしたモダニズムの作家です。とある作品をきっかけに当時の文壇とは距離を置き、その小説もなかなか読まれなくなってしまいます。
戦後、龍膽寺先生が生活の糧としたのは、趣味であったサボテン。自身で栽培するのはもちろんですが、研究者として、またサボテン(龍膽寺先生の本では「シャボテン」)栽培の伝道師として、多くの本を遺しています。

今回、当店に入荷したのはこの2冊。
『流行の多肉植物』のほうは、育て方や品種の説明など、どちらかと言えば実用的な側面が強い一冊です。しかし、序文はさすが。
「人生は砂漠だ、とよくいわれる。本当に人生は砂漠だろうか。」から始まり、砂漠化する地球と「ドライな若者」像を重ね合わせ、その砂漠化する地球の前衛で戦っている多肉植物こそ「人生の砂漠にあって、(中略)オアシスを求め」た時に我々を癒す存在と言う。
かなりギリギリの飛ばした文章は、さすがとしか言いようがないです。
二冊目は、龍膽寺先生のシャボテン愛に満ちた文章により一層触れられます。
「地球はまだ当分、かわく一方と考えられている。シャボテンが得意顔をしているはずである。」なんていう文章は、先生の愛情を感じて微笑ましいですが、「火星にはえているシャボテン」という文章は、この本の白眉であり、愛情が狂気的でもあるすさまじい文章。火星=砂漠=シャボテン(!)という発想の下、その雨季と乾季の地球との違いを心配し、こう締めくくられます。
「なにしろ早く火星から植物をとってきて、奇異な姿のその宇宙植物を、私たちのシャボテン温室の中で栽培して、ながめたいものである。いずれにしろ、火星の植物を地球へ持ってきて、じょうずに育てられるのは、私たちのほかにはないだろうから。」
先生に伝えたい。「火星への有人飛行は、2030年代の計画だそうです! 火星のシャボテンに会えるのも、もうすぐかもしれません!」
(おくに たかし)
■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。
●今日のお勧め作品は、蛯名優子です。
蛯名優子"01. e-12"
2001年
水彩、紙
61.0×79.0cm
サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」は毎月5日の更新です。
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阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18~24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

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