佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第23回

個展「囲い込みとお節介」に関する覚書を連ねる

今月12月13日から22日までの当方の個展に向けて作業と準備をもっぱらしているところだが、ここで、改めて何をしているのか、少しだけ整理してみた。展示が始まってもいないので、今後更新する可能性も大いにあるが、その更新のための習作という形ということで。制作者がペラペラと言葉にするのを嫌う人もいるだろうが、とはいえまずは自分を迂闊に霧のなかに彷徨わせないようにすることがまず大事だろうと考えた。

表題「囲い込みとお節介」について。長文にすると枝葉がついてそれで何となく満足してしまうこともある(第18回投稿第19回投稿)ので、一言でそれぞれを表してみる。

・囲い込み=みんなのもの、あるいは他人のものを自分のものにしてしまうこと
・お節介=他人にとって良かれと思って、返ってやり過ぎた行為をしてしまうこと

こんな二つの思惑を交錯させた状況を、モノとモノのそれぞれの関係の中で作り出そうとしている。
また、木工工作、ドローイング、写真撮影という、異なる制作作業、メディア(媒体) の間でも、そして農村と都市という異なる場所の間の関係においても、そうした交錯する思惑を備えた連関、連鎖を試みている。
(異なる制作手段間の関係=木工、ドローイング、写真
 異なる場所間の関係=福島、東京、そしてインドを、人とモノが行き交う)

工作の過程はおおよそ以下のように。
1、ドローイングを描いて、作ろうとする“モノとモノの関係性”(造形的な重なり)を考える。
2、そのあと実際に手をうごかして木で立体(ハコとその足)を作る。そのとき、当然自然木を使っているし、材料にもいささかの限界があるので、制作する立体の造形はそんな与条件によって当初から若干変化する。
3、その木工物は写真機になっており、今度は立体として立ち上がった複数のハコ(それらも写真機)の同居する様子を撮影する。撮影した写真のフレームの中でまた”モノとモノの関係性”を考える。
4、撮影は、自分が今活動をしている場所の近傍とする。具体的には福島県大玉村=農村と、東京都北千住=都市(のはずれ)。自作の写真機の眼を通じて(または現像という作業を経て)、それらの風景は、画面の中にハコの造形にフレーミングされる形で収集される。
5、写真撮影は晴れた日中でおよそ20分の露光時間が必要となる。なので、動いている外部の環境はすべて写り込んでこない。止まっているモノたちと動いているモノたちの若干の残像だけが、画面に現れる(囲い込まれる)
6、撮影された写真はつまり、作ったハコたちのポートレイトであり、造形の重ね合わせの試行であり、都市あるいは農村の風景の原初的な記録である。
7、また1に戻る

上記の工作過程については、筆者(佐藤研吾)の空間に関する考えがいくらか反映されている。
筆者は空間を、複数の、それぞれ自律したモノ(立体)が同居した所にある、その隙間、余白の場所、と考える。それは、20世紀の建築家が志向したような箱(床壁天井)を作ることで内部を作ること=空間設計とはいくらか考え方が異なる、とも考える。

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工作過程の一コマ。ハコを用いた同時撮影の様子。
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木工物の位置付けとして、それらは彫刻(無用の長物)ではなく、また家具(建物に従属するもの)でもない。それらは「道具」であると考えている。(実際、写真機として使うことができる)
写真機は、上記の過程で示したように何種かの工作を連鎖させるための、異なるメディウムにリレーするためのものでもある。(なので、いわゆる道具本来の機能とは異なる機能が備わっている)
モノとして自立し、かつなにがしかの機能が意図されている。ゆえに道具と考えるわけだが、それら木工物の作り方については、日本の”民具”の納まり、作り方から学んでいる。

民具の納まりとは、つまり、誰もがわりあい簡単に作れる形であるということ。日本の高度に洗練された指物、木造建築の仕口とは異なるかたちで存在してきていた技術の体系である。(第22回投稿
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「囲い込むためのハコ2」の部分。

木工物は、すべてハコとその他の部品(足)とに分離でき、組み立てと分解が可能。それは車での輸送、移動と、暗室での作業性を想定したかたち。

木工の材料は全て、福島の製材所から入手している。素材は主にクリとナラで、材料自体は岩手で取れたもの。帯鋸で切られただけの材料を、自分の木工所でカンナをかけ、寸法で切って、仕口を加工、というように材料の整えも含めて行なっている。

工作作業は、福島の作者の拠点(歓藍社という藍染をおもにやっている活動グループの場所)の木工所か、東京・北千住の筆者のアトリエ(BUoYという筆者が改修設計した劇場の隣り)で行なっている。
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福島県大玉村にある、歓藍社の拠点ロコハウス の木工所。右に見えているのはベニヤに描いている原寸図。

加工は、ノコギリ、ノミ、カンナの手道具と、若干の電動工具(丸ノコ、電動カンナなど)で制作。大規模な機械作業はしていない。また、釘やビスはつかっていない。仕上げには、柿渋を塗布。

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写真は、全て作者による自家現像とプリント。針穴写真機であるからこそ、高度な機械を用いずに制作ができる。焼き込み時間などによって、最終的な仕上げの調整をおこなってもいる。

ドローイングはすべて鉛筆と色鉛筆による描画。多くが4裁サイズの画用紙で、作者がもっともよく使っている紙の大きさである。作者は出張、旅に出る際には必ず同サイズの画板と画用紙を持っていき、現地でスケッチをしている。
(これは師の石山修武さんから習ったことでもある)

という感じで、若干の自己分析を行なった。随時更新のつもりである。

展示ではご批評もぜひ頂ければと思っています。ぜひお越しください。
さとう けんご

佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。

◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。ときの忘れものでは12月13日(木)~12月22日(土)の会期で佐藤研吾さんの初めての個展を開催します。どうぞご期待ください。

●本日のお勧め作品は佐藤研吾です。
sato-23佐藤研吾 Kengo SATO
《集まることで分かる》
2018年
印画紙
23.5×23.5cm Signed
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜~土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。


ときの忘れものは「第306回企画◆佐藤研吾展―囲いこみとお節介 」を開催します。
会期:2018年12月13日[木]―12月22日[土] 11:00-19:00 ※会期中無休
306
インド、東京、福島という複数の拠点を往還しながら創作活動に取り組んでいる建築家・佐藤研吾の初個展を開催します。
本展では、自身でデザインし制作した家具としてのハコや、ピンホールカメラ(ハコ)とそれを使って撮影したハコの写真、またハコのドローイングなど、独自の世界観をご覧いただきます。
会期中、作家は毎日在廊予定です。
以下の日程で以下のゲストをお迎えし、ギャラリートークを開催します。
※要予約、参加費1,000円、複数回参加の方は二回目からは500円
12/13(木)13時~ ゲスト:中島晴矢さん(現代美術家)
12/14(金)18時~ ゲスト:岸井大輔さん(劇作家)
12/15(土)18時~ 佐藤研吾レクチャー
12/21(金)18時~ ゲスト:小国貴司さん(Books青いカバ店主)
12/22(土)18時~ 佐藤研吾レクチャー
予約はメールにてお申し込みください。 info@tokinowasuremono.com

●ときの忘れものは〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18~24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は通常は休廊ですが、次回企画「佐藤研吾展―囲いこみとお節介」(12月13日[木]―12月22日[土])開催中は無休で開廊しています。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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