「松澤宥 概念芸術以前 2」
(企画 長沼宏昌 協力 一般財団法人 松澤宥プサイの部屋)
「美学校の記憶 成田秀彦」1月29日~2月3日

会期:2019年1月29日(火)~2月3日(日) 12:00~19:00(2/3は~16:00)
場所:Roonee 247 fine arts(ルーニィ・247 ファインアーツ)Room2
   東京都中央区日本橋小伝馬町17-9 さとうビル4階

プサイの部屋ー消滅 長沼宏昌」
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「美学校の記憶 成田秀彦」
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私どもの長年のお客様である成田秀彦さんと、今までは面識のなかった写真家の長沼宏昌さんから同時に松澤宥に関連する展覧会のご案内をいただきました。
展覧会は既に29日から始まっており、長沼宏昌さんからはエッセイを寄稿していただきました。

初心者である私はもちろん、「松澤宥」を知らない方にとってはやや難解な文章です。
そこで今回のこの展示を実際に見聞きしてきた私、新米スタッフIがまず前座として展覧会の構成と概略をお伝えします。
会場構成について。
会場が2つに分かれています。Room 1個展『プサイの部屋ー消滅』は映像インスタレーションとしての展示です。
・プサイの部屋の映像(12分)
・松澤宥と諏訪(松澤作品の原点となる諏訪信仰関連の映像など 22分)
・過去のプサイの部屋(スライドショー)
”長野下諏訪にあるプサイの部屋は松澤宥のアトリエとして使われていた部屋で、概念芸術の生まれた場所でもあります。 概念芸術の創始以降はオブジェの集積する場所として残されました。松澤宥の脳内宇宙でもあったプサイの部屋は耐震など諸処の事情により現在は消滅しています。 在りし日のその姿をインスタレーションとして展示します。”(FacebookのHiromasa Naganumaイベントページより)


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Room2『「美学校の記憶」成田秀彦』は写真がメインの展示です。
”1969年に出版社「現代思潮社」によって創立された美学校、
現代アートから音楽など様々な分野で活躍するアーティストを輩出しています。
美学校の写真工房で講師をしていた成田秀彦による写真記憶を展示
松澤宥/最終美術思考
赤瀬川原平/絵・文字
映画技作/鈴木清順・筧正典・木村威夫・大和屋竺・鈴木岬一など”(FacebookのHiromasa Naganumaイベントページより)

当時、最終美術思考工房にいたころの松澤宥さんの写真もあります。

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そして、Roomとは別の部屋の壁、recomend wall には「松澤宥 概念芸術以前2」 として松澤宥さんの作品が並んでいます。ドーナツのように真ん中を切り抜かれた作品もありました。
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日本の概念芸術のパイオニア的存在の松澤宥は「モノ」によって意味が限定されない概念を表現しようと試みたようです。概念は形もなく実際に物質として存在しません。

例えばドーナツには穴が開いています。
その穴も含めてドーナツであると認識している人が多いのではないでしょうか。
しかし実際穴は単なる空洞であってドーナツではありません。
とはいえ穴がなければドーナツとは言い難い。

ないもの(ドーナツの穴)を示すために作品(ドーナツ本体)を制作して存在しないものを表現する、つまりこれが概念芸術であり、見えない部分としての作家の意図や、鑑賞者の感じた事、イマジネーションが重要になってきます。
松澤宥さんの作品は肝心な部分が切り取られていたりしました。
それは目にみえない、人間の感じることのできないものを表現しようと探して辿りついた表現方法、消去ということなのでしょう。

この例えやおおざっぱな解説は本展示の企画をされた長沼宏昌さんにお話を伺って(教えを乞うて)得たものです。
もっと深く知るためにも以下の長沼さんの文章を是非お読みください。そしてご興味を持たれた方は
公式ホームページ「一般財団法人 松澤宥プサイの部屋」の特に「パープルームギャラリー Parplume Gallery」もご覧ください。
長沼さん、どうもありがとうございました。



「松澤宥 概念芸術以前 2」
(企画:長沼宏昌 協力:一般財団法人 松澤宥プサイの部屋)


松澤宥 概念芸術以前の作品展示

長沼宏昌(文)


1964(S39) 6月1日「オブジェを消せ」という啓示を受けて、6月4日観念美術を創始。

現在、松澤さんの晩年のパフォーマンスを撮影させていただいた縁で松澤さんのアーカイブ作りをお手伝いさせていただいています。
その中で湧き上がった疑問点は、なぜ松澤さんが最初に概念芸術を始めるに至ったのか、ということです。最初に道を切り開くハードルの高さをなぜ超えられたのか?
松澤さんの過去の作品や学生時代からの膨大な資料を見たり、色々な人に説明しているうちに、自分なりの気づきがありました。

学生時代から始め概念芸術に至る沢山のコラージュ作品があります。
松澤作品のコラージュの特徴として一つ言えるのは、コラージュとして使う印刷物などの主要モチーフを、紙で隠したり、主要部分を切り抜き「空白」として使っていることがあげられます。
プサイの部屋にも空白のコラージュが多数あります。

そこからの気づきとして、それは概念を考える時の構成要素として、
概念   内包:同じ要素を持つもの
     外縁:違う要素を持つもの
という二つに分けて考えることができます。

ドーナツという概念で例えると、
ドーナツは小麦粉を油で揚げて砂糖をまぶした甘いお菓子で中心に穴が空いている。
それではカロリーが高い悪魔の囁きのような、餡ドーナツは、穴が空いてないじゃないか?
ミートドーナツはどうなんだ、甘くもないし、穴も開いていない?
最近はカロリー低めでさっぱりしたスイーツが好まれ、焼きドーナツというのも見かけます。
このようにドーナツの内包:同じ要素を持つもの、が出来上がります。

沖縄のサーターアンダギーや給食で出た揚げパン、カレーパンは通常ドーナツとは言わないけれど、外国から来た人に説明する時には、ドーナツという言葉の方が通じるのでは?

ドーナツのような形状で焼き上げたパン、
ベーグルはベーグルでありベーグル以外の何物でもない、というベーグル原理主義があります。
さらに数学者が出て来て「トーラス構造というドーナツの形は、ドーナツやベーグルに欠かせないコーヒーのカップと同じ構造を持つ」というわけのわからない人まで出て来たりします。

このように 外縁:違う要素を持つもの、によって決して食べられないドーナツの穴のようなドーナツという概念ができます。

概念や言葉を考える時には、同じ要素を持つもの、だけを集めたものが概念や言葉である、と考えがちですが、
外縁:違う要素を持つもの、 に囲まれた 内側部分:内包、という考え方もできます。

松澤作品は「外縁」を示すことで「概念」を示す作品なので、初めてオブジェ(物質)を消すことができました。
松澤作品は言葉という美術の外縁を使い「虚の美術」を表現できたと言えます。

そこに至る道筋は、早稲田大学で建築を学んで、数学教師でもあった、という経歴がなければ、
その飛躍はできなかったでしょう。

数学的には何もない状態を、空集合と言います。
何もない集合が一つあるというのがゼロ0です。
何もないものが一つあるということで1ができます。
もう一つあれば2になります、そのようにして自然数が定義できます。
そして整数、有理数、無理数、複素数、、、という概念に概念を積み上げてできたものが現代の数学で、現実世界のものを数えるという近代以前の数学とは全く違うものとなっています。

そして「無」と「空」は仏教でも重要な概念でもあります。
その中で「虚空間探知センター」のように「虚の世界」を表すにはどうしたら出来るのか?
ということを松澤さん自身は考えていたのでしょう。

i (√-1)というものは存在しないと考えられていたので、想像上の数 imaginary number 虚数と名付けられ、今は複素数という呼び方をされています。
最近、三角関数は(自分では)使ったことがないから役に立たない、などと乱暴なことをいう人も多いのですが、実際は毎日欠かさず使っている商用電源、パソコン、スマホなど三角関数以上の高等数学がなければ実現できませんし、三角関数を知らない人でも使えるようにはなりません。現在では、虚数的なものや高次元の世界は存在している、ただし人間の五覚で感じられない世界として、と考えられています。

実はアートの世界も同じようなことが言えるのではないでしょうか?
多くの作品は目の前にある物質で観たり触ったりでき、現実世界に物質として存在しています。
しかしその作品が表している内容、概念、コンセプトといわれるものは、そこにはありません。
「美しい花がある、花の美しさというものは無い」(美術評論家 小林秀雄)
「私はイマジネーションを信じている。見えないものは、見えるものより重要だ」(写真家ドゥェイン・マイケルズ)という言葉が示すように、たとえ物質で作られた作品であったとしても、作者や作品が指示しているものは、この世界にないものです。
オブジェを消すことは、目的なのか? 手段なのか? 言葉にした途端、オブジェを消すことが自己目的化します。
虚空間から人の心の洞窟の壁に映し出された影こそが、本当の作品なのでしょう。

ドーナツの穴の味を観想せよ、、、、、

(概念芸術以前 2 展示企画・ながぬま・ひろまさ

長沼宏昌 Hiromasa NAGANUMA
写真家、2000年頃より晩年まで、松澤宥のパフォーマンスの写真を撮影。

松澤宥 Yutaka MATSUZAWA
1922年 2月 2日、長野県諏訪郡下諏訪町生、早稲田大学理工学部建築科卒。
40年代より詩作し、現代詩同人を組織。詩作から美術に転じ。
1952年、美術文化協会会員となる。
1955年よりフルブライト交換教授として2年間滞米、
1964年6月1日「オブジェを消せ」という啓示を受けて、6月4日美術を言葉だけで表現する観念芸術を創始。以後内外の美術展などで「人類の消滅」を警告する展示、パフォーマンスを行う。
また1971年「ニルヴァーナ」展(京都市美術館)、「世界蜂起」など、展覧会、メールアートを企画した。また1971年より東京の美学校で「最終美術思考」工房を主宰。
1976年ベニスビエンナーレ、1977年サンパウロビエンナーレに招待される。
1990年代より「量子芸術論」をテーマに制作を続けたが2006年逝去。
生涯諏訪を拠点とした。

一般財団法人 松澤宥プサイ(ψ)の部屋

ときの忘れものは新春の特集展示:生きものたち~宮脇愛子、嶋田しづ、谷口靖、永井桃子を開催しています。
会期:2019年1月29日(火)~2月2日(土) 11:00-19:00※日・月・祝日休廊
小さい魔方陣
画廊コレクションから、世代もキャリアも異なる4人の作家の生命力あふれる作品を展示いたします。ぜひご高覧ください。
出品作家:宮脇愛子嶋田しづ、谷口靖、永井桃子


「第27回瑛九展 」は1月26日に終了しましたが、3月末のアートバーゼル香港2019に「瑛九展」で初出展します。
・瑛九の資料・カタログ等については1月11日ブログ「瑛九を知るために」をご参照ください。
・現在、各地の美術館で瑛九作品が展示されています。
埼玉県立近代美術館:「特別展示:瑛九の部屋」で120号の大作「田園」を公開、他に40点以上の油彩、フォトデッサン、版画他を展示(4月14日まで)。
横浜美術館:「コレクション展『リズム、反響、ノイズ』」で「フォート・デッサン作品集 眠りの理由」(1936年)より6点を展示(3月24日まで)。
宮崎県立美術館<瑛九 -宮崎にて>で120号の大作「田園 B」などを展示(4月7日まで)。

ジョナス・メカスさんが1月23日亡くなられました。
2005年10月メカス追悼の心をこめてジョナス・メカス上映会を開催します。
会期:2019年2月5日[火]―2月9日[土]
代表作「リトアニアへの旅の追憶」は毎日上映するほか、「ショート・フィルム・ワークス」、「営倉」、「ロスト・ロスト・ロスト」、「ウォルデン」の4本を日替わりで上映します。
上映時間他、詳しくはホームページをご覧ください。
2月9日17時よりのトーク「メカスさんを語る」(要予約、ゲスト:飯村昭子さん、木下哲夫さん)は既に満席となり受付を終了しました。


●東京神田神保町の文房堂ギャラリーで「版画のコア core2」展が開催されています(~2月2日[土])、会期中無休)。ときの忘れものは日和崎尊夫を出品協力しています。

●ときの忘れもののブログは年中無休です。昨年ご寄稿いただいた方は全部で51人。年末12月30日のブログで全員をご紹介しました。

●2019年のときの忘れもののラインナップはまだ流動的ですが、昨2018年に開催した企画展、協力展覧会、建築ツアー、ギャラリーコンサートなどは年末12月31日のブログで回顧しました。

●ときの忘れものは〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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