H氏による作品紹介5

大いなる遺産 -メーカー系ギャラリーから写真を買う(1)- ~風間健介、内藤さゆり、ホンマタカシ、ウエマユキコ~

 写真の売買で成り立っている商業ギャラリーがある一方、写真を売らないギャラリーもある。ニコン、キャノン、FUJIFILMといったカメラやフィルムのメーカーが運営する「メーカー系」と言われるギャラリーである。他にもリクルートが運営するガーディアン・ガーデン、アイデムのシリウスといった企業のメセナ活動の一環として運営するギャラリーは、基本的に写真を売ることはない。
 もっとも、ギャラリーによって濃淡はあって、「販売はもちろんギャラリー内での販売についてのやりとりもお断りさせていただいています」というところもあれば、「展示作品を販売いたしております」と掲示され、プライスリストが掲げられているところもある。ただそうしたところでも販売は展示期間内のみで、作品を継続的に取り扱うわけではないし、作家さんのプロデュースをするわけでもない。あくまでも機材や感材の販売促進とユーザーへのサービス、そして企業イメージ向上のための宣伝広告の一環ということになる。
 とはいえ、このメーカー系ギャラリーが日本の写真文化のために果たしてきた役割は大きい。常設の写真専門ギャラリーは、このメーカー系ギャラリーをもって始まるのである。
 我らが細江英公先生を始め日本の名だたる写真家はこのメーカー系ギャラリーを発表の舞台としたし(ちなみに細江先生の「おとこと女」展は1957年に小西六(現コニカミノルタ)ギャラリーで、「薔薇刑」は1962年に富士フォトサロンで開催されている)、現在でも新進の写真家がここを足がかりとしていることに変わりはない。
 たとえばそれぞれの出世作というべき荒木経惟さんの「わが愛・陽子」や石内都さんの「絶唱・横須賀ストーリー」も、それぞれ1976年と1977年に銀座ニコンサロンで展示されているし、これまでにご紹介した原田正路、萩原義弘、渡部さとるといった作家さんたちもメーカー系ギャラリーでの展示が写真家としてのキャリアの重要な部分を形作っている。日本の写真文化の大いなる遺産として、今なおその果たす役割は大きい。

029Lot.29 風間健介
上砂川
2003
ゼラチンシルバープリント
I: 23.5x30.0cm
S: 27.8x35.2cm

030Lot.30 風間健介
「軍艦島」より
ゼラチンシルバープリント
I: 23.5x30.0cm
S: 27.8x35.2cm

031Lot.31 風間健介
「夜想曲」より「作品」(6)
1982
ゼラチンシルバープリント
I: 30.0x23.5cm
S: 35.2x27.8cm

032Lot.32 風間健介
『夕張』より北炭真谷地炭鉱選炭施設
ゼラチンシルバープリント
I: 30.0x23.5cm
S: 35.2x27.8cm

033Lot.33 風間健介
「星啼の街」より
ゼラチンシルバープリント
I: 30.0x23.5cm
S: 35.2x27.8cm

034Lot.34 風間健介
「軍艦島」より
ゼラチンシルバープリント
I: 23.5x30.0cm
S: 27.8x35.2cm

035Lot.35 風間健介
『夕張』より北炭清水沢発電所内外部(解体途中)
ゼラチンシルバープリント
I: 30.0x23.5cm
S: 35.2x27.8cm

036Lot.36 風間健介
『夕張』より北炭清水沢発電所(解体途中)
ゼラチンシルバープリント
I: 23.5x30.0cm
S: 27.8x35.2cm

037Lot.37 風間健介
「星啼の街」より
ゼラチンシルバープリント
I: 23.5x30.0cm
S: 27.8x35.2cm

38Lot.38 風間健介
『夕張』より北炭清水沢発電所(解体途中)
ゼラチンシルバープリント
I: 23.5x30.0cm
S: 27.8x35.2cm

 このメーカー系ギャラリーで作品を購入した作家のお一人が先年急逝された風間健介さん。その作品はこれも今はなき写真雑誌(日本で写真雑誌と呼ばれているのは実際はカメラ雑誌であって、純粋な写真雑誌というのはそのほとんどが短命に終わっている。一般に日本で写真ギャラリーと言われて最初に思い浮かぶのがメーカー系ギャラリーなのと同じである。ちょっと悲しい。「TIDE」(窓社)に掲載され、まさにこの世の物とは思われない端正で叙情と詩情にあふれたモノクロームのトーンに心奪われ、なんとか実物を拝見したいと思うことしきりであった。
 その願いがようやく叶ったのが、2004年の新宿ペンタックスフォーラムでの『風を映した街』展で、この展示に際して購入したのがLot.32の「北炭真谷地炭鉱選炭施設」である。また2006年には日本写真協会新人賞受賞展として「夕張」が銀座フジフォトサロンで開催されている。こういうときばかりはメーカー系ギャラリーに感謝せざるを得ない。
 風間さんは「ときの忘れもの」の取り扱い作家でもあり、飯沢先生の今年5月18日のブログ「飯沢耕太郎『日本の写真家たち』第14回~風間健介」を始め何度も「ときの忘れもの」ブログに登場しておられるので、ここでは取り扱い作家略歴から「1960年三重県生まれ。20代のときにカメラとともに日本を放浪した後、北海道に移住。2005年に出版した写真集『夕張』(寿郎社)によって、2006年日本写真協会新人賞、写真の会賞を受賞。2017年6月死去」とのみ記しておけばよいであろう。
 ただ、いまではWikipediaに項目のある写真家である風間さんの作品が「多くの作品は故人の友人たちにより、大切に保管されている」ままであってよいはずがない。写真家風間健介の名前とその作品は、友人たちの手からコマーシャルギャラリーを介して広くコレクターの手に渡り、オークションで高額落札されてこそ歴史に残ることになる。そしてそれは「写真を売って生きてゆく」ことを生涯貫かれた風間さんの遺志でもあると思う。「日本のアジェ」風間健介の顕彰を願う方々からの入札と、現在手元に作品のお持ちの方からの買い取り依頼を切望する次第である。

080Lot.80 内藤さゆり
「多摩川日和」No.16
2006
LEDプリント
I: 39.2x39.9cm
S: 61.1x52.2cm

081Lot.81 内藤さゆり
作品
2007
インクジェットプリント
I: 22.2x32.4cm
S: 29.7x42.0cm

082Lot.82 内藤さゆり
作品
2007
インクジェットプリント
I: 32.3x22.3cm
S: 42.0x29.7cm

083Lot.83 内藤さゆり
作品
2007
インクジェットプリント
I: 32.3x22.3cm
S: 42.0x29.8cm

 同様に、最初の一枚の購入がメーカー系ギャラリーだったのが内藤さゆりさん。「ときの忘れもの」フォトビューイング第6回のゲストで、それまでの略歴はその報告の中にあるので、それ以降の活躍をご本人の公式HPから紹介すると下記のようになる。
 「2009年、日本の新進作家の一人に選ばれ、東京都写真美術館にて『4月25日橋』を発表。『出発ー6人のアーティストに寄る旅』と題されたこの展覧会は、2011年までにフランス・パリを始め、ポルトガル、メキシコの3カ国5都市で巡回された。」
 今年も個展を開催され、また個人フォトビューイングの形でプリントの販売を行うなど、目の離せない作家さんである。
 付記:Lot.80は「内藤さゆり 作品 2006 TypeCプリント」となっておりましたが、内容に間違いがありましたので「内藤さゆり 「多摩川日和」No.16 2006 LEDプリント(高品位デジタルプリント:スキャニングした画像をLED光源によって出力)に訂正させていただきます。大変申しわけありません。

110Lot.110 ホンマタカシ
『Tokyo suburbia』より作品No.36
Type C プリント
I: 26.6x33.5cm
S: 27.7x36.5cm

 ホンマ タカシさんは、90年代以降の日本の写真表現に決定的な影響を与えた写真家のお一人。「ときの忘れもの」の取り扱い作家さんの一人でもある。
 1962年東京生まれ。1984年日本大学藝術学部写真学科在学中に、広告制作会社ライトパブリシティにに入社(在学中の入社は篠山紀信以来)。1991年に退職し渡英。ファッション・カルチャー誌『i-D』で活動。1993年帰国し、各種公告、雑誌で活躍。1995年、最初の写真集「Babyland」を刊行。1998年に刊行された「TOKYO SUBURBIA 東京郊外」は、均質的な東京郊外の風景とそこに生きる子どもたちを「ドライでクール」に捉えた傑作と評され、若い世代から圧倒的な支持を得、第24回木村伊兵衛賞を受賞。
 Lot.110はこの「TOKYO SUBURBIA 東京郊外」からの一枚。パルコギャラリーでの展示に際して購入したもの。「TOKYO SUBURBIA 東京郊外」の最初の展示を行ったパルコギャラリーからの由緒正しい一枚である。ぜひ。

86Lot.86 ハービー・山口
作品(「山崎まさよし&ハービー・山口 ミシシッピ~東京」展より「風景」)
2003
ゼラチンシルバープリント
I: 19.0x28.6cm
S: 25.2x30.3cm

 ハービー・山口さんは1950年、東京都出身。大学卒業後1973年に渡英。パンクロックやニューウエーブのムーブメントに遭遇。ロンドンが最もエキサイティングだった時代を体験。その中で撮影された写真が高く評価され、帰国後も山﨑まさよし、福山雅治など、アーティストとのコラボレーションをすると共に、一貫してごく普通の人々の姿をモノクロのスナップで捕らえている。「人間の希望を撮りたい」「人が人を好きになる様な写真を撮りたい」というハービーさんのファンは若い人を中心に多い。現在大阪芸術大学客員教授および九州産業大学客員教授。(公式HPより)
 Lot.86は、当時池袋のサンシャイン60の展望台にあった「スカイギャラリー」(運営は当然のことながらサンシャイン60展望台の運営会社が兼ねていた)で開催された「ハービー・山口」展(2002/11/15~12/15)で購入。以下当時の展覧会の案内から
「ハービー・山口 写真展 「山崎まさよし&ハービー・山口 ミシシッピ~東京」
内容:山崎まさよしとハービー・山口の出会いは、今からおよそ8年前。山崎まさよしのプロカメラマンによる初のアーティスト写真を撮影したのがハービー・山口でした。以来、山崎の素顔を追い続け、ライブはもちろん、彼の音楽にとって多大な影響を与えているブルースの故郷、アメリカ南部ミシシッピにも二人で訪れました。その後も、東京を中心に撮影は続けられ、二人の共同作品は定期的に雑誌連載として紹介されています。
本展では、アメリカ南部の広大な大地の旅から、日本でたどった“ rambling ”な足跡までをモノクローム写真で構成いたします。ハービー・山口の優しい視線により写し出された、山崎まさよしの“自然体の表情”を見ることができる、ファン必見の写真展となっています。」

13Lot.13 ウエマユキコ
作品
1995
ゼラチンシルバープリント
I: 31.3x20.8cm
S: 35.5x27.8cm

 この作品は、京都の「レストラン・カフェ・ホテル・ウエディングなどの貸切パーティも可能な複合施設 prinz-プリンツ-」(公式HPより)で、宮下マキ写真展「ハードル」に際して購入。このときの宮下さんの展示は天井から巨大なサイズのプリントを垂らすという意欲的なもので、逆立ちしても購入できるようなものではなかったため、ギャラリーの販売コーナーにあったオリジナルプリントのコーナーから購入したもの。
 そのため、ウエマユキコさんについても作品についても詳しいことはわからず、文字通り「現物」が全てであるようなプリントである。だが、こうした作者も来歴もわからないけれど自分の好みに合うプリントを自由に飾るというのが世界的には広く受け入れられているオリジナルプリントとのつきあい方である。
 映画「プラダを着た悪魔」(2006)の中で、メリル・ストリープ演じる「プラダを着た悪魔」たるトップファッション誌の編集長のオフィスが額装されたモノクロ写真によって見事に埋め尽くされていたのに写真コレクターたちはストーリーそっちのけで狂喜乱舞したものだが(ちなみに主人公が劇中で足を運ぶギャラリーのオープニングパーティーも写真の展覧会だったはず)、そうした写真とのつきあい方がそろそろ日本でも生まれていいのではと思う。そのための一枚としてぜひぜひである。(H)

◆ときの忘れものはH氏写真コレクション展を開催します。
会期:2019年7月9日(火)~7月13日(土)
H氏写真コレクションDM

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