東京都美術館で開催中の上野アーティストプロジェクト2021「Everyday Life : わたしは生まれなおしている」「東京都コレクションでたどる〈上野〉の記録と記憶」の内覧会に行ってまいりました。
会期=2021年11月17日~2022年1月6日

 10 月1 日から東京都美術館館長に着任された高橋明也さんのご挨拶と両展示の見どころをご紹介させていただきます。
※なお、画像は合同報道内覧会において撮影許可をいただいた作品を掲載しています。
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高橋明也館長によるご挨拶~東京都美術館館長就任
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 東京藝術大学出身の高橋館長は上野とのご縁が長く、国立西洋美術館(上野)でも26年余り勤められたことがあります。そんな高橋館長にとって東京都美術館は大変身近な存在だったということです。
 東京都美術館は日本で最初の公立美術館で、実業家の佐藤慶太郎氏の寄付により1926(大正15)年に誕生しました。2026年には開館100周年を迎えます。佐藤慶太郎が掲げた「公私一如」の社会貢献の精神をもって、常に時代と共に前進しながら、これまでの歴史をしっかりと見直してゆくという、一見矛盾するような二つの理念がこの美術館の柱ともなっているようです。

上野アーティストプロジェクト2021「Everyday Life : わたしは生まれなおしている」
 「上野アーティストプロジェクト」は、「公募展のふるさと」とも称される東京都美術館の歴史の継承と未来への発展を図るために、2017年から始まった展覧会シリーズです。その第5弾である今回は、「Everyday Life」をテーマに、戦前から現代にいたる6名の女性作家を取り上げています。
 戦前・戦後の美術団体で活躍し、身辺の事物を通じて自己そして社会と向きあってきた物故作家3名と、身の回りに埋もれた様々な「生」の断片を拾い上げ、それらを留め、かつ再生させるかのような制作行為に取り組む現役作家3名の作品、そして生き方は、わたしたちが「日々生きること」について、問いなおすきっかけを与えてくれるに違いありません。

出品作家
桂ゆき(二科会/女流画家協会)
川村紗耶佳(日本版画協会)
貴田洋子(日展/現代工芸美術家協会)
小曽川瑠那
常盤とよ子(日本写真家協会/神奈川県写真作家協会 他)
丸木スマ(女流画家協会/日本美術院)

ここでは作品と作家の言葉をご紹介いたします。
IMG_7611左: 現代津軽こぎん刺作家・貴田洋子《津軽・歓びの春》、右:戦前と戦後を繋ぐ女性芸術家のパイオニア的存在・桂ゆき《ゴンべとカラス》

IMG_7565ーこぎん刺しにはとても大事な奇数律のルールがあります。経糸1,3,5,7と布目を拾い刺していきます。守らなければいけないルールです。基礎模様を使って美しいこぎんを刺すことです。(貴田洋子)
ー「出品作家へのインタビュー」より>

IMG_7569ーなんかモヤモヤしている自分の中にも ゴンベとカラスがいるわけですね。ゴンベは汗だくになって自分の場とか絵を一生懸命に描くでしょ。それをカラスが根底からひっくりかえして、からかっちゃう。考えてみると、これはなににでもあるでしょ。(桂ゆき)
「作家の発言 桂ユキ子」 「みづゑ』738号(1966年)より>

IMG_7574手前:小曽川瑠那《息を織る2021》

IMG_7582一何かの形を作ろうと考え始めたわけではありません。電気炉から出てきたものを観察しているうちに、色の流れや泡がまさに時間や記憶を語ってくれているかのように見えました。目に見えない時間や記憶を型に詰め、窯の中でぶくぶく(膨らみ)・ シューッと(しぼむ)音を立てていると想像するだけで楽しい気持ちになります。素材にまつわる物語を夢想した作品です。(小曽川瑠那)
一「出品作家へのインタビュー」より>

IMG_7579戦後まもない横浜でカメラを携え、米軍の占領下で変化しながら立ち上がる街や人々を記録した写真家の常盤とよ子。

IMG_7575一わたしが女だてらに、ずっと赤線地帯の写真を制作しつづけているのも、そのことによって、売春制度の持つ悪い面を少しでも、わたしの作品をとおして、社会に広く訴えたい念願から起こっている。そのことが、この社会から悪い面を取り除くことに役立てば、わたしの願いも満たされるのだ。(常盤とよ子)
一『危険な毒花』(三笠書房、1957年)より>

IMG_7587虚ろな表情でこちらを見つめる人物と、独特の色使いが印象的な木版画家・川村紗耶佳。

IMG_7586一人物が思うのは、頭の中に残るいくつもの故郷の風景、そして、どこか懐かしい誰でもない誰かの記憶です。私は想像し集めては和紙に摺り取り、私なりの記憶の場面を作品に残しています。(川村紗耶佳)
「出品作家へのインタビュー」より>

IMG_7590《原爆の図》で知られる画家、丸木位里のお母さん・丸木スマ。

IMG_7588一描きたいものは、四季を通じてわたしの身近かに豊富にあるので、自然の賑はひに囲まれて暮してゐます。わたしは展覧会制作といふものをしないで、心が動けばすぐ絵の具でそれを写生します。(丸木スマ)
一「八十の手習ひ」 『芸術新潮』第11号(1952年)より>


東京都コレクションでたどる〈上野〉の記録と記憶
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 上野恩賜公園内やその周辺に美術館・博物館・動物園が集まる文化的な地域として親しまれる一方、「アメ横」も含む小売店や飲食店が密集〈上野〉。さまざまな歴史の舞台ともなったこの地には、過去から現在まで多種多様な人々が行き交い、ここを題材とする数多くの作品や記録が生み出されてきました。
 東京都が所蔵する美術コレクションの中から、〈上野〉に関連する約60点の作品・資料を展示し、表現者たちをひきつけた〈上野〉の魅力を展示しています。

みどころ
1. 版画に記録され伝えられた近代の〈上野〉
 戊辰戦争や明治期の内国勧業博覧会といった歴史的事件をとらえた浮世絵、織田一磨の石版画、恩地孝四郎、平塚運一、藤森静雄らによる創作版画など、版画というメディアを通して記録され伝えられた近代の〈上野〉の姿が見られます。

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IMG_7595織田一磨
《東京風景 十四 上野広小路》
1916年
東京都江戸東京博物館蔵

2. さまざまな表現者によって記録され、描かれた戦前・戦後の〈上野〉
 桑原甲子雄、濱谷浩、木村伊兵衛、林忠彦らが写した戦前・戦後の〈上野〉。終戦後、画家・佐藤照雄が描いた上野駅の地下道に眠る人々の姿。そのほか、戦前~戦時下の諜報活動を題材とする米田知子の写真作品等を通じ、消えつつある「戦争と〈上野〉」の記憶を見つめなおします。

IMG_7597恩地孝四郎《上野動物園初秋(『新東京百景』より)》
1929年
東京都現代美術館蔵

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 今回の2つの展示はまさに、高橋明也館長のお言葉「常に時代と共にあって前進すると同時にこれまでの歴史をしっかりと見直してゆくという、一見矛盾するような二つの営為(東京都美術館HPより)」をみたす、「東京都美術館」の本質的な展覧会でした。原点回帰。歴史をたどり、身近なもの、土地に目を向ける。身近で親近感のわく作家を特集し、あえて地元・上野を特集する。決して派手な展示ではなかったですが東京都美術館の底力を感じさせる「実力派」な骨太展示です。
 このような展覧会を年末から年初めにかけて(会期=2021年11月17日~2022年1月6日)開催した東京都美術館。流行に流されないスタイルはさすがです。
 今年の東京都美術館は「Walls & Bridges 世界にふれる、世界を生きる」(会期=2021年7月22日~10月9日)を開催していました。この展示の対象になった作家たちは政府や支援団体からの創作サポートの有無、美術教育を受けたかどうかや受賞歴はほとんど関係なかったそうです。それぞれが郷土や身の回りの愛するもの、或いは自身の内面と向き合い、素朴で根源的な欲求による表現とその活動の蓄積がテーマになっていました。
(ときの忘れものブログでは王聖美さんがレビューをご執筆くださいました)
 東京都美術館の展覧会にますます期待ができます。
スタッフ I

●展覧会のお知らせ
uap_collection2021『上野アーティストプロジェクト2021「Everyday Life : わたしは生まれなおしている」』
会期=2021年11月17日(水)~2022年1月6日(木)
会場=東京都美術館
出品作家:
桂ゆき(二科会/女流画家協会)
川村紗耶佳(日本版画協会)
貴田洋子(日展/現代工芸美術家協会)
小曽川瑠那
常盤とよ子(日本写真家協会/神奈川県写真作家協会 他)
丸木スマ(女流画家協会/日本美術院)

uap_collection202102『東京都コレクションでたどる〈上野〉の記録と記憶』
会期=2021年11月17日(水)~2022年1月6日(木)
会場=東京都美術館
出品作家:
織田一磨、恩地孝四郎、平塚運一、藤森静雄、桑原甲子雄、濱谷浩、木村伊兵衛、林忠彦、佐藤照雄、米田知子、他

●本日のお勧めは塩見允枝子です。
shiomi_08b塩見允枝子 SHIOMI Mieko
《日蝕の昼間の偶発的物語》《月蝕の昼間の偶発的物語》
2008/2019年
ケースのサイズ:38.0×27.0×7.0cm
Ed.6
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年末年始、ときの忘れものの庭のイルミネーションもお楽しみください。

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●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会Web展)を開催し、美術書の編集事務所としても活動しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。