佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第67回
鉄の増築について
(<遠い場所を囲い込むための空洞1~4> photo by comuramai)
春の個展に出した「遠い場所を囲い込むための空洞1~4」。その4つの制作物のうち1つについて、ある方からさらに制作物への”鉄の増築”を依頼され、その形について今考えている。
これもまたピンホールカメラ(の手前)の機構を持っていたが、形を考えていくにあたって、実はカメラ作りとは別の側面の、ある建築プロジェクトの縮減模型として作っていた。そのプロジェクト数年前住宅を建てたインド・シャンティニケタンに住む詩人ニランジャンさんからの依頼である。シャンティニケタンの隣町であるシュルルにある湖の畔に土地を手に入れたので、そこに小さな茶室を建てたい、とのことだった。ニランジャンさんはイメージが途方もなく広がっていく人物であるので果たしてどこまで実現する可能性があるのかは今のところ見当がつかない。そして昨今の行動制限から自分はまだインドを近々再訪する実感が湧いていなかったので、なんとなくシャンティニケタンがまた少し遠い場所のように感じられてしまってもいた。けれども、遠さがモノを考えるのに良いこともある。遠い場所のことを想う、それが何やら余白やすき間を与えてくれて、モノの形を思わぬ方向に展開してくれる気がしている。
そんなシャンティニケタンの小建築の形の検討を、カメラ作りと併せてやっていこうと考えたのだった。湖畔に建つ建築はやっぱり湖を眺めたいだろうと思う。なので湖に向けて開口を設けるだろう。それは針穴写真機という一点から光を取り込む仕組みに重ねることができる。そして湖畔は湿気が立ち込めるだろうし、シャンティニケタンはそもそもだいたいの場所が湿地なのでいつもジメリとしていてほとんどの日の朝はモヤが立ち込めている。そのうえなんでも食べるシロアリは日本のそれよりもはるかに強力な奴らがいる。なので地元の建築工法として一般的なRC+レンガ積みで主構造を作るとして、部屋は地上からすこし持ち上げた方が良いだろう。となればその部屋にアプローチするための階段が付いてくる。そんなことを考え、実はおおよその実際的なプランニングを想定して、カメラ作り=縮減模型作りに取り組んだ。もちろん建築の形はもっと他の展開はあり得る。もっと細長い部屋にもなり得るだろうし、よりダイナミックな構成の検討はできるだろう。けれどもここでは、クリの塊を削ることで立体(カメラ=模型)を作る、という有限のフレームを設けていたので、その中での形の展開を模索していたのだった。限定性からの展開可能性は数年前からの制作の主題である。もちろん限定することが足枷になり過ぎてはならないので、そのルールの設定にはとても気を使うが、そのようにその足枷を心地が良いものにするか、もしくは足枷をそもそもどのように捉えることでスルリと抜けるか、の工夫が自ずと生まれてくるのが大事なところである。
4つの立体「遠い場所を囲い込むための空洞1~4」は、上に記した共通する形式をどれも備えた展開の数例である。それぞれ異なるクリの塊から切り出し、クリの木目や刃物の入れ方の具合によって異なる展開をみせた。
そして、その立体に対して”鉄の増築”をしようとしている。増築といっても、おそらくはカメラでいうと三脚、建築模型としては何かしらの敷地の表現となるだろう。あの焚き火の残り香とともに立ち込んだ青白いモヤの中の表現についてを考えている。



(”鉄の増築”のスケッチ)
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2022年3月ときの忘れもので二回目となる個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を開催。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
鉄の増築について
(<遠い場所を囲い込むための空洞1~4> photo by comuramai)春の個展に出した「遠い場所を囲い込むための空洞1~4」。その4つの制作物のうち1つについて、ある方からさらに制作物への”鉄の増築”を依頼され、その形について今考えている。
これもまたピンホールカメラ(の手前)の機構を持っていたが、形を考えていくにあたって、実はカメラ作りとは別の側面の、ある建築プロジェクトの縮減模型として作っていた。そのプロジェクト数年前住宅を建てたインド・シャンティニケタンに住む詩人ニランジャンさんからの依頼である。シャンティニケタンの隣町であるシュルルにある湖の畔に土地を手に入れたので、そこに小さな茶室を建てたい、とのことだった。ニランジャンさんはイメージが途方もなく広がっていく人物であるので果たしてどこまで実現する可能性があるのかは今のところ見当がつかない。そして昨今の行動制限から自分はまだインドを近々再訪する実感が湧いていなかったので、なんとなくシャンティニケタンがまた少し遠い場所のように感じられてしまってもいた。けれども、遠さがモノを考えるのに良いこともある。遠い場所のことを想う、それが何やら余白やすき間を与えてくれて、モノの形を思わぬ方向に展開してくれる気がしている。
そんなシャンティニケタンの小建築の形の検討を、カメラ作りと併せてやっていこうと考えたのだった。湖畔に建つ建築はやっぱり湖を眺めたいだろうと思う。なので湖に向けて開口を設けるだろう。それは針穴写真機という一点から光を取り込む仕組みに重ねることができる。そして湖畔は湿気が立ち込めるだろうし、シャンティニケタンはそもそもだいたいの場所が湿地なのでいつもジメリとしていてほとんどの日の朝はモヤが立ち込めている。そのうえなんでも食べるシロアリは日本のそれよりもはるかに強力な奴らがいる。なので地元の建築工法として一般的なRC+レンガ積みで主構造を作るとして、部屋は地上からすこし持ち上げた方が良いだろう。となればその部屋にアプローチするための階段が付いてくる。そんなことを考え、実はおおよその実際的なプランニングを想定して、カメラ作り=縮減模型作りに取り組んだ。もちろん建築の形はもっと他の展開はあり得る。もっと細長い部屋にもなり得るだろうし、よりダイナミックな構成の検討はできるだろう。けれどもここでは、クリの塊を削ることで立体(カメラ=模型)を作る、という有限のフレームを設けていたので、その中での形の展開を模索していたのだった。限定性からの展開可能性は数年前からの制作の主題である。もちろん限定することが足枷になり過ぎてはならないので、そのルールの設定にはとても気を使うが、そのようにその足枷を心地が良いものにするか、もしくは足枷をそもそもどのように捉えることでスルリと抜けるか、の工夫が自ずと生まれてくるのが大事なところである。
4つの立体「遠い場所を囲い込むための空洞1~4」は、上に記した共通する形式をどれも備えた展開の数例である。それぞれ異なるクリの塊から切り出し、クリの木目や刃物の入れ方の具合によって異なる展開をみせた。
そして、その立体に対して”鉄の増築”をしようとしている。増築といっても、おそらくはカメラでいうと三脚、建築模型としては何かしらの敷地の表現となるだろう。あの焚き火の残り香とともに立ち込んだ青白いモヤの中の表現についてを考えている。



(”鉄の増築”のスケッチ)
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2022年3月ときの忘れもので二回目となる個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を開催。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
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