5日に開催した吉増剛造さんのギャラリー・トークはレポートの通り、当日は椅子が足りず、階段までぎっしりの満員盛況でした。参加された皆さんは窮屈な思いをされたことでしょうが、ジョナス・メカスさんの写真と吉増剛造さんの言葉(それを音楽のようだったと感想をもらした方もおられました)を十分に楽しんでいただけたのではないでしょうか。
 ただ作品を提示するだけではなく、その解釈(作品の見方)を作家や作家にゆかりのある方に語っていただくのも画廊の大事な仕事です。私たちは開廊以来、顧客サービスと私たち自身の勉強を兼ね、ギャラリー・トークを開催し続けてきました。
 ところで、先日いただいた某メルマガに「私たち、画商も絵描きさんという芸術家を育てる仕事をしておりますが、~」とありました。書いたのはある女性画商さんなのですが、こういうことをストレートに書く画商さんが出てきたことにちょっと驚きました。
 私が画商になってもう35年経ちますが、昔から「画商は画家を育てる」という常套句は確かにあったような気がします。しかし実際にそういうことを言う画商さんにはついぞお目にかかったことはありません。たとえば南画廊の志水さんもそういうことは言わなかった(言ったかもしれませんが、私は聞いたことがない)。私の親しい画商さんでもそんなことを言う人は皆無です。
 私自身は、美術業界に入ったときから、確信犯的に「画家を育てるなんておこがましい。凄い画家はほっといても自分から出てくる」と広言して、周囲の若い人から顰蹙をかっていました。私がそう言っていたのは、ヨーロッパならいざ知らず今の日本で、画商が画家を育てるなんて実態を無視した絵空事(でなければ建前)と思っていたからです。
 今から思うと若気の至りですが、数多く存在する画廊の多くが、育てるどころか、「客からではなく、画家から金を集金する」貸画廊であり、画家にしても何年も先まで予約が入っている有名貸画廊(当時はそういうのがありました)を大枚払って借りて個展をすることがステップ・アップになると勘違いしているような状況はおかしくはないか・・・・・と義憤を感じていたのですね。
 もちろん、「貸し」ではなく、「企画画廊」としてやっている画商さんも多数います。でもその多くは(私も含めて)画家のつくった作品を商売として売り買いしているのであって、決して「芸術家を育てる仕事」をしているのではありません。
 ある作家の才能を見抜き、その価値を信じることにおいては、身銭を切って買うコレクターに、所詮私たち画商がかなうはずがないと思っています。私たちの仕事は顧客あっての商売で、もし画家を育てる人がいるとすればそれはコレクターであり、画商ではない。そういう素晴らしいコレクターに出会い、せめて共犯関係(主犯はコレクターです)になることが画商としての私の切なる願望です。
 因みに日本の近現代美術史を飾る画家たちの自伝などを読んでみると(少なくとも私が読んだ限り)、梅原龍三郎でも、安井曽太郎でも、棟方志功でも、恩地孝四郎でも、大沢昌助でも、瑛九でも、オノサト・トシノブでも、菅井汲でも、駒井哲郎でも、「画商に育ててもらった」などと書いている画家は一人もいませんでした。むしろ池田満寿夫さんなどは恨みつらみの方が多い。

 私が美術業界に入ったその日、1974年3月、MORIOKA第一画廊の上田さんに言われた言葉を今もかみしめています。
 「あなたと同世代の作家とともに歩みなさい。」
 しかし、なかなか同世代で尊敬できる作家にめぐり合うことはできなかった。
私は育てるどころか、多くの作家たちに育てられてきました。28歳の私が最初に会って仕事をしたオノサト・トシノブ先生は33歳上でした。右も左もわからぬド素人の私がそれからの数年間に会って仕事をした作家たち(版画のエディションをした作家)、靉嘔先生は14歳上、菅井汲先生は26歳上、磯崎新先生は14歳上、大沢昌助先生は42歳上、難波田龍起先生は40歳上、草間彌生先生は16歳上、木内克先生に至っては53歳上でした。いやこう振り返ってみるとよくも生意気な若僧に付き合ってくださったものと今更ながら恐縮します。とても「育てる」どころじゃない。育てていただいたのです。
 ようやく同世代(に近い)作家にめぐり合ったのが関根伸夫先生で1942年生まれ、私より3歳上でした。しかし当時関根先生は現代美術界のスーパースターで、私は教わるばかりでした。
 今、私が還暦を過ぎてようやく同世代の感覚で付き合えて、「共に歩んで」いきたいと思う作家は小野隆生先生です(1950年生まれ、私より5歳下)。
 もちろん、ときの忘れものには、私より遥かに若い作家たちも集まってきています。若い人たちにはその世代特有のセンスと思いもかけぬビジョンがあり、これまた私は教わるばかりです。せめて彼らの良き発表場所として、さらには少しでも売って作家の懐を暖かくしたい、そう思うこのごろです。

 おっと、海外作家で一緒に仕事をした作家を忘れていました。
ジョナス・メカスさん(上記に従えば先生とつけなければならないけれど・・。さんとしか呼びようがない)は私より23歳上、アンディ・ウォーホルさんは17歳上でした。
ウォーホル
ジョナス・メカス
Andy Warhol at Montauk, 1971
2000年 C-print
30.5×20.2cm Ed.10 signed

こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから