私の人形制作第69回 井桁裕子

「狂童女の戀」人形・歌・朗読の夕べ

今回は、今準備が進んでいる、とある公演のお知らせです。
ご記憶の方もいらっしゃると思いますが、2010年から2013年にかけて、このブログにも映画「ハーメルン」について度々書かせていただいてきました。
私はその中に出てくる人形劇のシーンの人形を作ったのです。
昨年はDVDも発売され、それには坪川監督の奮闘によって実現した、人形劇部分だけを編集した特典映像も入りました。
これにてめでたくこの「物語」は最後のページを閉じたと思われたのでしたが、その後また不思議なご縁で、人形をきっかけに舞台の話が進行しています。
私は以前から、建築家にしてバイオリニストである大野幸さんを通じて、声楽家の淡野弓子さんの知遇を得ておりました。
その淡野さんが映画をご覧になり、人形と一緒の舞台をぜひやってみたいと仰ったのです。
もちろん私は大変嬉しく思いました。
以来、淡野さんが中心となって、人形・歌・朗読の舞台の企画がスタートしました。
武久源蔵氏のオリジナルの楽曲・ピアノ演奏とともに、坂本長利さん、黒谷都さんのお二人が朗読と人形操演で参加されることになりました。
人形・ユトロちゃんは新しい衣装をまとって岡本かの子の描いた可憐な「狂童女」に扮します。
公演は5月1日(金)、三鷹市芸術文化センター「星のホール」にて19時から、と日時・場所も決まりました。
準備も含めて記録を残したいということで、過日このブログでもご紹介されていた映画監督・石山友美さん、佛願広樹さんご夫妻に記録映像をお願いすることにもなりました。
ご興味がおありの皆様、どうぞご来場ください。

以下に、淡野弓子さんがリーフレットに書かれた文章を転載いたします。

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*前口上*
 映画「ハーメルン」(監督:坪川拓史)を観たのは2013年の秋だったと思います。
西島秀俊、倍賞千恵子、坂本長利といった真の実力派の演技も心に沁みましたが、私を驚嘆させたのは劇中の人形芝居に出てきた人形と黒衣の人形遣い黒谷都でした。
もの云わぬ人形は当然といった面持ちでフルートを吹き、ドビュッシーの組曲《子供の領分》の「小さな羊飼い」の旋律が流れました。人間界に関心を寄せるような、寄せないような、その超然とした姿はやはりこの世のものではありません。
ある種の異次元からふわりと舞い降りた不思議な物体。
是が非でもこの人形をこの眼で観たいとの思いで制作者の友人に頼み込んで、人形の創り手である井桁裕子さんに人形の近況を訊ねて戴きました。
「映画に出ていたJutroちゃんなら、うちに居ます。そんなに重くないし、どこかに連れて行ってもいいですよ。」との返事が!
対面の日が来ました。
井桁さんが操って実際に動き出したユトロちゃん! 
その面差し、まなこ、手は何を語ろうとしたのでしょう。
いやそんなことは問題になりません。彼女は存在するだけで充分でした。
それは私がこれまでに遭遇した幾つかの奇跡物語の中でもかなり特殊な1ページとなりました。
帰り道、私はこらえきれずに叫んでいました。「ユトロちゃんと一緒にコンサートが出来ないかしら? もっと沢山の人にユトロちゃんを観て欲しいんです。」
私の脳裏を過ったのは岡本かの子の短編『狂童女の戀』でした。
登場人物はある奇妙な体験を述懐する詩人と詩人に恋する狂童女です。
ユトロちゃんにはこの狂童女になってもらいましょう。
この時点では夢というより妄想に近いアイディアでしたが、奇跡は奇跡を呼び人形遣いには黒谷都さん、朗読には坂本長利さん、といういずれも映画「ハーメルン」で重要な役を担われたお二人が協力して下さることになりました。話の間に流れる音楽は武久源造さんにお願いし、これ以上は望めない最高の方々が勢揃いしたのです。

『狂童女の戀』を読んでいるといろいろなアイディアが浮かんできました。
西原北春という名で登場し「ころがせ、ころがせ、びいる樽」と微吟する詩人は北原白秋だ、そうだ、白秋詩に作曲された山田耕筰の《曼珠沙華》を歌おう・・・・
狂童女の原型は恋人テーゼオに置き去りにされ嘆き狂うギリシャ神話のアリアドネーか? モンテヴェルディの《アリアンナの嘆き》はひょっとしてピッタリかも知れない・・・・
この少女の純粋性は『薔薇は生きてる』を遺した山川彌千枝と重なる。彌千枝の詩に武久源造が曲を付けた《バラの花よ》や《風の中の桜》もどこかで歌いたい・・・・

プログラムの流れは、坂本、黒谷、武久の三氏が私の一人勝手を尊重して下さり乍らそれぞれに意見を出され、紆余曲折を経てやっと決まったものですが、練習の過程で更なる変化も予想されます。
この新しい試みに興味を寄せられ、どんなものか、と「星のホール」へ足をお運び戴けるなら、こんなに幸せなことはありません。

感謝と愛のうちに
2015年 弥生の月  淡野弓子

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私がこの人形を作っていたのは2009年の夏頃で、ただただ夢中の日々でした。
今回ご一緒する方々とは、黒谷都さん以外はまだ出会ってすらいませんでした。
今更ながら良い仕事をさせてもらえたと深く感じています。

チケットとお問い合わせは三鷹市芸術文化センターか以下までお願いいたします。
菊田音楽事務所 T&F 042-394-0543
ムシカ・ポエティカ 03-3970-0585・03-3998-8162 e-mail:yumiko@musicapoetica.jp

(いげたひろこ)