森本悟郎のエッセイ その後・第29回

第29回 赤瀬川原平とライカ同盟(9) 沖縄、名古屋再訪


2003年の「ラ・徘徊《東京編》」展は会場が赤瀬川さん、秋山さんの母校・武蔵野美術大学(当時は武蔵野美術学校)だった。その武蔵美展が終了した翌8月に二つの仕事が舞いこむ。一つは雑誌『東京人』からで、4月に開業した六本木ヒルズを撮影するというもの。広報担当者の案内で見学し、施設内やその周辺から撮影した。そういえばこのブログで紹介した木村恒久さんの仕事場だったアパート「小春荘」は、六本木ヒルズのどのあたりだったのだろう。

20六本木ヒルズ取材 ルイーズ・ブルジョワの巨大蜘蛛『ママン(MAMAN)』の前で集合
2003.8.20


もう一つは沖縄の撮影とワークショップである。那覇のNPO法人前島アートセンター(2011年活動終了)が関わった企画で、撮影時はそのスタッフや沖縄県立芸大の学生らがアシストしてくれた。現代美術家の山城知佳子さんもその一人だった。このとき撮影した作品は11月、前島アートセンター主宰の〈wanakio2003〉で「ラ・徘徊─沖縄編」として展示された。
「シンプル・アイ/チャンプル・アイ」と称するワークショップは2日にわたって行われた。1日目は参加者が赤瀬川組・秋山組・高梨組の3班に分かれて、午前は同盟員と一緒に那覇の街歩きをしながらの撮影。午後、ライカ同盟は同行せず自由撮影(撮影はスライドフィルムを使い、夕刻ラボに出して翌朝納品という次第)。夜はライカ同盟の「公開反省会」(但しアルコール抜き)。ここでライカ同盟の特性を発揮したのはタイトルの大切さ、つまり写真に言葉を添えることで作品世界をよりゆたかに伝えることができるということを、実例で示したことだった。沖縄で撮影した作品を解説付きで映写。2日目午前中は自由撮影の報告会と大阪ビジュアルアーツ校長(当時)百々俊二氏による講義。午後、現像を終えたフィルムから作品を選び「講評会」。講評会には写真評論家の飯沢耕太郎さんも参加した。

30街歩きワークショップ(赤瀬川組)
2003.8.30


30公開反省会
2003.8.30


31公開講評会 2003.8.31


沖縄に到着したその日に、ライカ同盟は雑誌(誌名は失念)の取材を受けた。そのときの同行カメラマンが北野謙さんだったことを、ずいぶん後になってから当人に聞かされ、初めて知ったのだった。

26雑誌の取材を受ける(右が北野謙さん)
2003.8.26



2004年の《ヱ都セトラ》展以後も断続的には東京や東京周辺の撮影散歩が続いていたが、「何だか今日は箸が進まないねえ」ということばが同盟員から出るようになっていた。風景の均質化が進むとともに、シャッターを切る意欲が萎えつつあったのかもしれない。
家元の「日本中がツルピカになっちゃったらどうする?」との問いに、赤瀬川さんは真顔で「マクロで撮るかなぁ」。
写真の魅力、冗談交じりの街歩き、酒を酌み交わしながらの反省会、それらがライカ同盟を支えるモチベーションとなっていたのだが、戦果の乏しい出動が続くとつい出掛けるのが間遠になってしまう。そこで「初心に帰れ」ではないが、もう一度名古屋を撮ってみようということになった。しかし東京同様、名古屋もライカ同盟が初めて撮影に訪れた10年前とはずいぶん様変わりしていたことが、ロケハンでよくわかった。市内だけでは心許ないと、撮影範囲を尾張地域にまで広げてみた。このプランは3同盟員にとっていい気分転換になったようで、精力的に歩き、箸も進んだようだった。展覧会は2006年9月、C・スクエア第76回企画「ライカ同盟展 エンドレス名古屋」と題して開催。トークイベントのゲストは名古屋に隣接する清須市在住の評論家・呉智英さん。タイトルは尾張(終わり)と永遠(エンドレス)を掛けたものなのだが、皮肉なことにこれがC・スクエアでの最後(エンド)の展覧会となってしまった。

「エンドレス名古屋」展ポスター「エンドレス名古屋」展ポスター


「エンドレス名古屋」展トークイベント「エンドレス名古屋」展トークイベント


もりもと ごろう

森本悟郎 Goro MORIMOTO
1948年愛知県に生まれる。1971年武蔵野美術大学造形学部美術学科卒業。1972年同専攻科修了。小学校から大学までの教職を経て、1994年から2014年3月末日まで中京大学アートギャラリーキュレーター。展評、作品解説、作家論など多数。

●今日のお勧め作品は、チェ・ヨンです。
作家と作品については、こちらのブログをご覧ください。
20160828_choi_01チェ・ヨン
「Picture of two eye - Never seen」
2015年
油彩
90.0×72.7cm(30号)
サインあり


20160828_choi_02_2チェ・ヨン
「Picture of two eye - My right hand」
2015年
油彩
90.0×72.7cm(30号)
サインあり


こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜~土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。

◆森本悟郎のエッセイ「その後」は毎月28日の更新です。