ドリュール作業工程
[その1]
裏方の作業風景は、出来上がりの作品に反比例して、決して華やかなものではありません。しかし、少しでもルリユールとドリュールを身近に感じてもらうためには、紹介する必要があると思いますので、大まかにご説明いたします。
まず最初に、本のサイズぴったりに切った下書き用の薄い紙に押すもの(モチーフやタイトル)をスタンプなどで写して配置を決めます。そしてその紙を本にあてがい、その上から「少し熱した」道具を適所に押します。
花型
マケット拡大図
本に跡がついたな、と思ったら、紙を外し、またさらに熱した道具を跡の上にぶれないように押します。
そして、細い筆に水をつけ、跡のところを湿らせます。「ぬるからず」の温度に熱した道具をその上からさらに押して、革のシボを潰し均等に地ならしをします。ここまでの工程を「空押し」をいいます。
そして、第2段階として金箔をつけていくわけですが、箔だけでは革に定着しないので、接着するものが必要になります。ここで少し接着液について触れたいと思います。
ルリユールは常に「接着」の連続です。ボール紙や見返し、革を貼り付けるのはご存知の通りですが、バッキングした背の凸凹をならすために何度か紙を貼ったり、革を折り返した際に生じる段差を均等に平らにするためにも、紙を貼り厚みを合わせます(コンブラージュ)。
金箔も専用の「のり」を使って定着させます。今現在、私も含めてほとんどの人は市販されている「fixor」という、漆・アンモニア・水の混合液を使っています。
fixor
fixorは、1931年に製造され始めたそうですが、それ以前は接着剤として卵白と酢を混ぜた液が使われていました。ちなみに天金にもこの卵白液が使用されています。この卵白液は、金箔がドリュール装飾にも使われるようになった時期からの接着液ですので、長い歴史があります。
テクストによってはいくつか異なるレシピがあるのも興味深いところです。卵白に酢を混ぜているのは保存の目的もあるようですが、そこへさらにグリセリンとレモン汁も加えているレシピもあります。
夏場は夜の涼しいうちに作るように、とか、冬に比べて酢の分量を多めにするように、などの指示もあったりして、フレッシュさを保つことに気を配っています。この「卵白液」は100%天然材料でできていますので、鮮度が重要になりますが、fixorは賞味期限を気にすることなく用いることができるので、そちらが主に使われているようです。
次回から作業工程に入っていきます。
(文:中村美奈子)

●作品紹介~中村美奈子制作

中村美奈子 作品5
装飾付革装小物入れ
・山羊革(外側)
・スエード(内側)
・金箔
・2013年制作
・130×75cm
ジュエリーなども入れられるように、上蓋をつけて、内側にスエードをはりました。
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。
本の名称
(1)天
(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)
額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。
角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。
シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。
スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。
総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。
デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。
二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。
パーチメント
羊皮紙の英語表記。
パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。
半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。
夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。
ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。
両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。
様々な製本形態
両袖装
額縁装
角革装
総革装
ランゲット製本
●今日のお勧め作品は森義利です。
森義利
「紫の君」
1975年 合羽摺り
54.5×40.0cm
Ed.50 サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜~土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。
◆frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。
[その1]
裏方の作業風景は、出来上がりの作品に反比例して、決して華やかなものではありません。しかし、少しでもルリユールとドリュールを身近に感じてもらうためには、紹介する必要があると思いますので、大まかにご説明いたします。
まず最初に、本のサイズぴったりに切った下書き用の薄い紙に押すもの(モチーフやタイトル)をスタンプなどで写して配置を決めます。そしてその紙を本にあてがい、その上から「少し熱した」道具を適所に押します。
花型
マケット拡大図本に跡がついたな、と思ったら、紙を外し、またさらに熱した道具を跡の上にぶれないように押します。
そして、細い筆に水をつけ、跡のところを湿らせます。「ぬるからず」の温度に熱した道具をその上からさらに押して、革のシボを潰し均等に地ならしをします。ここまでの工程を「空押し」をいいます。
そして、第2段階として金箔をつけていくわけですが、箔だけでは革に定着しないので、接着するものが必要になります。ここで少し接着液について触れたいと思います。
ルリユールは常に「接着」の連続です。ボール紙や見返し、革を貼り付けるのはご存知の通りですが、バッキングした背の凸凹をならすために何度か紙を貼ったり、革を折り返した際に生じる段差を均等に平らにするためにも、紙を貼り厚みを合わせます(コンブラージュ)。
金箔も専用の「のり」を使って定着させます。今現在、私も含めてほとんどの人は市販されている「fixor」という、漆・アンモニア・水の混合液を使っています。
fixorfixorは、1931年に製造され始めたそうですが、それ以前は接着剤として卵白と酢を混ぜた液が使われていました。ちなみに天金にもこの卵白液が使用されています。この卵白液は、金箔がドリュール装飾にも使われるようになった時期からの接着液ですので、長い歴史があります。
テクストによってはいくつか異なるレシピがあるのも興味深いところです。卵白に酢を混ぜているのは保存の目的もあるようですが、そこへさらにグリセリンとレモン汁も加えているレシピもあります。
夏場は夜の涼しいうちに作るように、とか、冬に比べて酢の分量を多めにするように、などの指示もあったりして、フレッシュさを保つことに気を配っています。この「卵白液」は100%天然材料でできていますので、鮮度が重要になりますが、fixorは賞味期限を気にすることなく用いることができるので、そちらが主に使われているようです。
次回から作業工程に入っていきます。
(文:中村美奈子)

●作品紹介~中村美奈子制作

中村美奈子 作品5
装飾付革装小物入れ
・山羊革(外側)
・スエード(内側)
・金箔
・2013年制作
・130×75cm
ジュエリーなども入れられるように、上蓋をつけて、内側にスエードをはりました。
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●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。
本の名称
(1)天(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)
額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。
角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。
シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。
スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。
総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。
デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。
二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。
パーチメント
羊皮紙の英語表記。
パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。
半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。
夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。
ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。
両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。
様々な製本形態
両袖装
額縁装
角革装
総革装
ランゲット製本●今日のお勧め作品は森義利です。
森義利「紫の君」
1975年 合羽摺り
54.5×40.0cm
Ed.50 サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜~土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。
◆frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。
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