frgmのエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」第44回

ワークショップについて(1) <参加編>


手作業で何かを作った経験のある人なら、完成品からさかのぼって「モノ」がどのようにできているのか、また自分でも作ることが可能なのか挑戦してみたい衝動にかられると思います。
かく言う私も、様々な工芸品の成り立ちや職人の意気込みに興味津々で、様々なワークショップに飛び込むことにしています。今回の前編では今まで参加したワークショップをいくつかご紹介します。

まず「和紙」のワークショップ。
今ではめっきり和紙を漉く職人も減り、後継さえもいない状態のようですが、地域によっては定期的に紙漉き体験などのイベントを開催しています。
紙を漉く前に、楮・三椏・雁皮などの皮(繊維)や粘着材としてのトロロアオイなどの主原料と下ごしらえの説明を受けました。すのこに枠と持ち手のついたような専用器具に液を流し込み、前後左右に動かしながら漉いていきます。1畳ぐらいの大きさに挑戦させてくれるかと鼻息を荒くしていましたが、そうは問屋がおろさず、可愛らしいハガキサイズの和紙を漉きました。職人の方に和紙の出来より漉く動作(?)が上手と褒められたことを覚えています。

次に「羊皮紙」のワークショップ。
画像①parchemin


はるか昔から使われてきた羊皮紙がどのように作られるのか全く想像ができなかったので、ワクワク最高潮でワークショップに臨みました。
羊皮紙のバックグラウンドの説明を受けた後、いざ実作業です。袋に入ったふにゃふにゃの物体が配られ、何かと思うとそれが羊皮紙になる「皮」でした。ワイルドな素材を手にして、気分はすっかり中世の職人です。その生の皮を引き伸ばして木枠に張りつけ、刃でこそいで油分を落とし、少し乾かしてヤスリがけをして、文字がかけるようになるまで表面を滑らかにします。さらに昔ながらの調合でインクも作り、羽根ペンを使って文字を書いたのも楽しかったです。

そして、「文字」に関するワークショップを2つ。
トラヤヌス帝の碑文でおなじみの、石板に文字を彫る職人の方のレクチャーに参加した時に(これは正確にはワークショップではありませんでしたが)、少し刻んでみるという珍しい体験をさせていただきました。
実際に石板にアルファベットを彫ってみると、お話していただいたセリフの縦と横の太さと細さの仕組みを身をもって知ることができて、改めて文字の奥深さにうっとりしました。

写植のワークショップでは、また一味違った体験をしました。
画像②shashoku


写植とは鉛の活字を組んでテキストを作ることだとばかり思っていたので、それまで抱いていたイメージがゼロに戻され、とても勉強になりました。活字を拾うように、ガラス板にびっしりと印字された文字の中から一つ一つ狙いを定めてタイプライターのように文字を打っていき、専用の用紙に写したものを暗室で現像してテキストを完成させます。写植用フォントは美しいものばかりで種類も多く、普段パソコン上ではお目にかかることができないものもたくさんありました。

ワークショップに参加することによって、知的好奇心が満されるとともに、その背後に見え隠れする作り手の苦労を感じとり、自分も作業を頑張ろう!というエネルギーをもらうのでした。

(文:中村美奈子
中村(大)のコピー


●作品紹介~中村美奈子制作
名刺入れA中村美奈子
《装飾付革装名刺入れ》(参考作品)

箱・箔押し 中村美奈子
・山羊革
・パラジウム箔
・制作年 2012年
・101mm×65mm×31mm

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●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。

本の名称
01各部名称(1)天
(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)


額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。

角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。

シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。

スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。

総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。

デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。

二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。

パーチメント
羊皮紙の英語表記。

パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。

半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。

夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。

ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。

両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。

様々な製本形態
両袖装両袖装


額縁装額縁装


角革装角革装


総革装総革装


ランゲット装ランゲット製本


●本日のお勧め作品は、ウィン・バロックです。
ウィン・ベロック「森の少女」
ウィン・バロック Wynn BULLOCK
"Child in forest"
1951 printed later
Gelatin Silver Print
19.2x24.2cm   signed
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◆frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。

●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18~24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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