ときの忘れものから歩いて数分、東洋文庫で「悪人か、ヒーローか」展が開催されています。先日展示を見に行ったので紹介させていただきます。

まずそもそも東洋文庫をご存知でしょうか。

------東洋文庫プロフィール---------------
東京・文京区、不忍通り沿いに位置する東洋文庫。
1917（大正 6 ）年、岩崎久彌が当時の中華民国総統府顧問だったG・E・モリソンの膨大な蔵書を購入、さらに収集の範囲をアジア全域へと拡大して和漢籍の充実を図り、1924（大正 13 ）年に日本初の東洋学を対象とする研究図書館を設立しました。
現在の蔵書は約100万冊。国宝 5点・重要文化財 7 点をはじめとするアジア諸言語の資料など、世界的に貴重な文献が収蔵されています。また、東洋学の研究機関としても国内外の中心的役割を果たしています。
これらの貴重書および東洋学の普及のため、2011年の建て替え時にミュージアムを併設しました。
最新のデジタル技術や空間演出を駆使し、国宝・重要文化財を中心とした貴重書や絵画など、長らく秘蔵であった品々を展示しています。その他、小岩井農場が運営するレストラン〝オリエント・カフェ〟も併設されており、農場から直送の食材を利用した料理が楽しめます。
（公益財団法人東洋文庫 普及展示部 池山洋二様のメールより）
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駒込の名勝、六義園が一時、岩崎久彌の本邸であったことなどから六義園～東洋文庫へと観光される方も多いようです。

早速、館内へ。
1階オリエントホールはでは図書館らしく過去の文献や古地図などが展示されています。縦の空間が目を引くこのホール。展示は広い壁面を使ったものもありいわゆる『美術館』、『図書館』といったものとは違う印象をもたらします。建設コンセプトは「本-知-東洋」。まるで脳内探索でもするかのような気分になります。

プロジェクターを使った展示。白い壁をスクリーンに替えて、巨大な画面（説明）が浮かび上がる。その下には貴重な資料が並んでいます。
一例として喜多川歌麿、葛飾北斎といった浮世絵の紹介も。著者のエドモン・ド・ゴンクールはフランスの美術評論家でもあり日本の近代美術の紹介に大きく貢献した方です。平凡社から東洋文庫シリーズとして『歌麿』がでています。
奥にある広開土王碑拓本の写し。縦479㎝、横141㎝もあるこの大きな資料は東洋文庫所蔵の拓本の第一面を写したものです。この施設独特の空間を活かした面白い展示です。
ちなみにこちらは高句麗の第19代の王である好太王（広開土王）の業績を称えた、現在の中華人民共和国吉林省通化市集安市に存在する石碑拓本の写しで、4～5世紀の朝鮮半島や古代日朝関係の歴史を知る上での貴重な史料ということで展示されています。

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まだまだご紹介したい展示物はたくさんあるのですが続いて２階へ上がります。

ここが東洋文庫の見せ場であり重要なスペースであるモリソン書庫。

G・E・モリソンが収集した２万４千冊の書籍が地域別に並べられています。全体的に見渡せるような席も設けられており眺めるだけでお腹いっぱいになりそうな光景。この膨大な資料の中から何点かをピックアップして解説してくれておりどんな本があるのかを実際に知ることができます。
東方見聞録でおなじみのマルコ・ポーロ卿の記録。「素晴らしい翻訳だ・・・が、まだ不足あり」との紹介が興味と笑いを誘います。

そんなモリソン書庫の裏手側が企画展スペースになっていました。
いよいよ今回のテーマ『悪人か、ヒーローか』展です。

かなりわかりやすい年表。会期も考えると夏休みの課題や研究に対応できるよう子供むけに工夫されている気がします。


今回の企画展をざっくり簡潔に説明すると、パネルをもちいて歴史上の有名人物（悪かヒーローか意見が割れそうな方々）を紹介してそれら人物の紹介書物だったり歴史書だったりといった資料を時代、地域ごとに紹介しているという感じでしょうか。
展示会場には常設と思われるブースも。こちらは暗室で現在は杉田玄白の『解体新書ができるまで』のようなストーリーが上映中。ほかにも企画に混ざって貴重な展示が見られるので企画に興味がなくても飽きることはなさそう。

展示会場は二つに分かれておりもう一つの部屋に行くために通る道があります。
個人的に気に入ったのはこの『回顧の道』。「白い石橋を渡り、奥行きを通して時空を超えた感覚を味わえる空間です」と、解説があるのですが展示室と展示室をつなぐ不思議な空間で下を見下ろすと深遠な穴が見えるのですがこれはクレパス・エフェクトという技術が魅せる錯覚です。単に書物を展示するだけだとお堅い雰囲気になってしまいがちかと思いますがここのミュージアムは「いかに書物を魅力的に展示するか」といったところにもこだわりを持っている印象を受けました。
この道を通って反対側の部屋に行くと「悪人か、ヒーローか」展のクライマックス。国内の人物の考察が始まります。信長に関する書物の展示でもやはりコメントが面白い。信長記「皆さんが楽しめるように書きました」、読史余論「うーん、手厳しい」、石川村五右衛門物語「絶景かな、絶景かな」。しかし面白くもそれぞれの資料の特徴をよくとらえたコメントです。

最後にお土産ブースでも見ていこうと思っていたのですが、閉館時間（１９：００）ぎりぎりまで見学し、ついには学芸員の方に声を掛けられてしまったのでお土産の紹介はできません（すみません＆残念）。

美術館で展示が催されるときに「光と影」など相反するテーマを見ることがあります。物事や人物を両面からとらえることでより一層理解を深めることができるということ以外に、あまり知られていない「裏の顔」に人が興味を抱きやすいということが選定理由かもしれません。
今回、東洋文庫では「悪人か、ヒーローか」という単純明快な対をテーマにした企画展が実施されていますが、ここではあえて疑問を投げても答えは観覧者にゆだね、ただひたすらに資料を提供しています。そこには観覧者の思考する力が求められていると思いました。それはちょうど脳を耕すような自発的で刺激的な企画です。半面、アカデミックな施設という印象が先行していそうなこのミュージアムですが幅広い層に親しまれるようにユーモアのある解説を加えたり、一風変わった展示方法で関心をひいたり「堅くなりすぎない」ようにしている面も見受けられいい意味で「裏の顔」も垣間見ることができたように思います。
ここでは書ききれなかった楽しい展示もたくさんあります。ぜひ一度、真面目で意外にユーモラスな東洋文庫ミュージアムで知を体験してみてください。
(いたみ　ちはる）

『悪人か、ヒーローか　Villain or Hero』展
会期：2018年6月6日（水）～9月5日（水）　
＊休館：毎週火曜日
主催：東洋文庫、朝日新聞社

歴史資料や創作物を見ていくと、社会の規範や支配体制の枠組みにおいて「悪人」・「悪党」とされた人々が、一転してヒーロー・ヒロインとして魅力的に描かれている例が多々あります。一方、歴史上で大きなことを成し遂げた人物が、後世への教訓のために悪い例として語り継がれていることも少なくありません。本展では、多様な立場、視点によって記録された、古今東西さまざまな「悪人」あるいは「ヒーロー」たちを集結させ、彼らの虚像と実像に迫ります。
また、本展の会期中に「悪」をテーマとした展覧会・イベントが複数館で同時多発的に開催されます。個性あふれる各館を周遊することで、一つのテーマを異なる切り口で楽しみつつ、より広く深く理解していただけます。

【同時開催館】
① 太田記念美術館　
『江戸の悪II』　会期：2018年6月2日～7月29日
② 國學院大學博物館　
『惡－まつろわぬ者たち－』　会期： 2018年6月1日（金）～8月5日（日）
③ ヴァニラ画廊
『HN【悪・魔的】コレクション～エヴィルデヴィル』　2018年5月30日～7月1日
④ 国立劇場伝統芸能情報館
『悪を演る―舞台における悪の創造―』 　2018年6月2日(土)～9月24日（月）
⑤ 国立演芸場　演芸資料展示室
『悪を演る－落語と講談－』　2018年4月1日(日)～7月22日（日）
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●本日のお勧め作品は、浅田政志です。
浅田政志 Masashi ASADA
「浅田家『唐人踊り』」
2010
Cプリント
A.P.
27.4x35.1cm
サインあり
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●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込５丁目４の１　LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
阿部勤設計の新しい空間についてはＷＥＢマガジン＜コラージ12月号18～24頁＞に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間＝火曜～土曜の平日11時～19時。日・月・祝日は休廊。
ＪＲ及び南北線の駒込駅南口から約8分です。