本日より銀塩写真の魅力 Ⅵ」展を開催いたします。
6回目となる今回の出品作家は、奈良原一高、福原信三、瑛九、福田勝治、風間健介、菅原一剛、アジェ、マン・レイの8人。
彼らが制作したゼラチン・シルバー・プリント(銀塩写真)15点を順次ご紹介します。

案内状には奈良原一高先生の<消滅した時間>シリーズより「インディアンの村の二つのごみ缶」を使ったのですが、先月1月19日に奈良原先生の訃報をきくとは夢にも思いませんでした。
享年八十八、世田谷美術館で大規模な写真展「奈良原一高のスペイン―約束の旅」が開催されている最中でした。
会期中、車椅子ですが、奈良原先生は会場を訪れたと奥様からうかがいました。
謹んでご冥福をお祈りします。

「銀塩写真の魅力 Ⅵ」に出品するのは5点、いずれもお元気だった頃にプリントされたものです。
特に〈消滅した時間〉の2点は撮影後間もない1975年にプリントされたヴィンテージ・プリントで奈良原先生自筆のサインがされています。
WTV-007© IKKO NARAHARA
奈良原一高
〈消滅した時間〉より「インディアンの村の二つのごみ缶、ニューメキシコ」
1972年 (Printed 1975)
ヴィンテージ・ゼラチン・シルバー・プリント
イメージサイズ:26.9×39.9cm シートサイズ:40.6×50.8cm
サインあり

この作品を案内状に選んだのは、代表作ということももちろんですが、亭主が生まれて初めて大枚はたいて買った写真がこの作品だったからです。

ちょっと前置きが長くなりますが、亭主が初めて扱った(買ったのではない)写真作品は荒木経惟さんの「浅草駒太夫」です。
1974年10月に銀座のギャルリープラネートで現代版画センター主催の「エディション発表記念展」を開催しました。素人が銀座にお上りさん状態で開催したのはいいけれど、直後に私たちの売上金全額を持って画廊主が夜逃げするという大事件に遭遇し、以来「銀座恐怖症」に陥ってしまいました。画廊主が消える直前、同ギャルリーでオークションを開催したのですが、そこに電通を退社して間もない荒木さんが飛び入り参加して、「浅草駒太夫」を出品してくれたのです。落札金額は数千円でした。

その3年後の1977年、昨年夏に亡くなられた海上雅臣さんが主宰するウナックトウキョウがオリジナル・プリント・ポートフォリオ『SEVEN FROM IKKO』を刊行(エディション)されました。まだツァイト・フォト・サロン(石原悦郎さん主宰)も生まれていない、オリジナル・プリントという言葉すら珍しかった当時、海上さんの先駆性は称賛に価します。その素晴らしさに圧倒された亭主は欲しくてたまらない。
海上さんは画商としては天才でしたから、価格も高かった。少しも安くしてくれない。お金をつくるのに往生しました。7点セットの目玉が「インディアンの村の二つのごみ缶、ニューメキシコ」でした。
そのときの7点の行方を書き出すとキリがないので止めますが、
あれから43年、日本の写真市場はいまだに豊穣さには程遠い。
写真史に残る名作のヴィンテージが今でも買える(値段だ)なんて・・・・

WTV-016〈消滅した時間〉より「ハイウエー・テレフォン、ニューメキシコ」
1972年 (Printed 1975)
ヴィンテージ・ゼラチン・シルバー・プリント
イメージサイズ:26.5×39.8cm シートサイズ:40.6×50.8cm
サインあり

D-1-003〈王国〉より「沈黙の園(2)」
1958年 (Printed 1984)
ゼラチン・シルバー・プリント
イメージサイズ:47.8×31.5cm
シートサイズ:50.8×40.6cm

D-1-025〈王国〉より「沈黙の園(5)」
1958年 (Printed 1997)
ゼラチン・シルバー・プリント
イメージサイズ:31.7×47.8cm
シートサイズ:40.6×50.8cm

D-2-011〈王国〉より「壁の中(3)」
1958年 (Printed 1997)
ゼラチン・シルバー・プリント
イメージサイズ:30.7×47.8cm
シートサイズ:40.6×50.8cm

奈良原先生は亭主の大学の先輩でもありますが(中央大学法学部卒業)、早稲田大学大学院で美術史を学び、1955年には池田満寿夫、靉嘔ら新鋭画家のグループ「実在者」に参加しています。
在学中の1956年に軍艦島と鹿児島・桜島の生活を絵画的構成の画面に収めた個展「人間の土地」を松島ギャラリーで開催し、写真界に衝撃を与えました。
1958年の「王国」では刑務所や修道院で生きる人々を撮影した作品で戦後の新しい写真表現を切り開き、新世代の代表的存在として注目されます。
その後、ヨーロッパやアメリカに活動の拠点を移し、さまざまな技法を駆使して撮影した作品で数々の賞を獲得するなど国内外で高い評価を獲得しました。
奈良原先生の生涯と作品については飯沢耕太郎さんのエッセイと、島根県立美術館の蔦谷典子さんのエッセイをぜひお読みください。
2005年に病に倒れ、長い闘病生活を送られてきてのご逝去でしたが、その真価が評価されるのはこれからという気がします。
ぜひ皆さんのコレクションに加えてください。
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◎昨日読まれたブログ(archive)/2014年08月07日|宮脇愛子「はじめてかもしれない」ワンピース倶楽部展
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◆ときの忘れものは銀塩写真の魅力 Ⅵ展を開催しています。
会期:2020年2月19日(水)~3月14日(土)※日・月・祝日休廊
出品:奈良原一高福原信三瑛九福田勝治風間健介菅原一剛アジェマン・レイ
銀塩写真~DM表


●箱根のポーラ美術館で開催中の《シュルレアリスムと美術 ダリ、エルンストと日本の「シュール」》展に瑛九の油彩、フォトデッサン、コラージュなど6点が展示されています(~4月5日)。
詳しくは1月4日の土渕信彦さんのレビューをお読みください。

●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。