日本で初めてのメカス論集『ジョナス・メカス論集 映像詩人の全貌』発刊
若林良
2020年11月、neoneo編集室ではドキュメンタリー叢書『ジョナス・メカス論集 映像詩人の全貌』を刊行いたしました。
まず、団体の紹介を簡単にさせていただきます。neoneoはドキュメンタリーに特化した批評媒体で、これまでさまざまな監督のインタビュー、映画や書籍のレビュー、また作家論などの発表を、WEBサイトと年2回発行する紙雑誌を通して行ってきました。2012年の発足から、しばらくの間はその2つが団体の柱となっていましたが、2018年からは「東京ドキュメンタリー映画祭」と称したドキュメンタリー映画祭の運営もふくめた3本柱での活動となり、映画祭は今年で第3回目を数えます。
※今年は12月5日~11日、新宿ケイズシネマでの開催となります。詳細は下記よりご参照ください。
https://tdff-neoneo.com/
そして昨年末、4本目の柱として立ち上がったのが、ドキュメンタリーで特筆すべき作家を取り上げ、さまざまな有識者からの寄稿をいただく論集「ドキュメンタリー叢書」の刊行でした。目標としては10年、少なくとも5年間の継続を目指すこの論集の第一弾はジョナス・メカス。なぜ彼になったのかは本書を参照願うとして、ここではその本の概要、および魅力について紹介をできればと思います。
まず、「コメンタリー」と題した、『幸せな人生からの拾遺集』の映画字幕。メカスの2012年の作品で、日本では井戸沼紀美さんの主催する上映会「肌蹴る光線―あたらしい映画―」で上映されました。その際に配布された作品の字幕を収録したもので、映画に登場する言葉は15歳の少女がメカスに送った手紙と、メカスのモノローグによって構成され、その美しい表現が際立ちます。
次に、『眩暈 Vertigo』の公開を来年に控えた、詩人の吉増剛造さん、および井上春生監督による対談。吉増さんの詩人ならではの言葉の旋律にのせて、生前のメカスの逸話、表現者としてのメカスを際立たせるもの、映画に対するふたりの想いなどが語られます。
吉増さんがメカスの幻影を、彼が去ったのちのアメリカの地で追いかける 『眩暈 Vertigo』がどのようなものになるのか。この対談からも、その構想の大きさがうかがえます。
そして本の前半を構成するのは、メカスとの交流、またメカスからの影響をさまざまな方たちが振り返るエッセイです。ここではそのすべてを紹介はできませんが、たとえばメカス日本日記の会の運営でも知られる木下哲夫さんは、メカスの沖縄での滞在を、自身が翻訳者として随行した経験からその時のことを振り返り、『初国知所之天皇』などで知られる映画監督の原將人さんは、メカスの映画の影響から「草書体で映画をつくる」ことを胸に刻んだと語ります。また、映像作家として近年活躍される石原海さんは、メカスと直接の面識はないものの、メカスの『ファクトリーの時代』を見たことを念頭にニューヨークに一ヶ月滞在し、その経験から自身とメカスを、ある形で重ね合わせたことについて語っています。その数々の言葉から、メカスという人間の多面的な像、また魅力が浮かび上がります。
本の後半は映画や詩をはじめ、メカスが残した種子を分析する論考で構成されます。たとえば越後谷卓司さんは、1960年代から現在までにおいて、メカスの存在や作品が日本でどのように受容されたのか、さまざまな同時代の資料から分析します。論考そのものの完成度ももちろん、本書に収録された各テキストを理解する上でも十分に役立つ、博覧強記な原稿を執筆していただきました。佐々木友輔さんは自身映像作家の視点から、フィルムやビデオ、インターネットとさまざまなメディアを渡り歩いてきたメカスが、その作品が技術の変化にともなってどのような変貌を遂げたかを語ります。また、井戸沼紀美さん・井上二郎さんはメカスの亡くなる前年2018年に発表された、「戦時中のメカスが反ユダヤ主義的な活動に携わっていたのではないか」という趣旨の論文、およびそれに対するメカスの応答からメカス自身の表現者としての歩み、また表現へのスタンスを逆照射する骨太な論考を執筆しています。
いずれの論考にも、メカスへの敬意と確かな批評眼が感じられ、それはそのまま、メカスの存在の大きさと、彼が次世代に確かな影響を与えたことを物語っています。今回の書籍では、年齢やバックグラウンドもさまざまな方たちに執筆を依頼しましたが、編集の過程で、そのような「軸」が自然と生起してきたことに、私たち編者は不思議な感動を覚えました。
再来年はメカスの生誕100年を迎え、おそらく、日本でもさまざまな回顧企画が行われると思います。来るメカスの再評価に、本書がなんらかの礎となることを願います。
(わかばやし りょう)
■若林良
1990年生まれ。映画批評/ライター。論考などに「「障害」を見る私たち」(映画『ナイトクルージング』パンフレット所収)、「「現在進行形」の神代辰巳 『女地獄 森は濡れた』を例に」(『ヱクリヲ Vol.5』所収)など。単著に『偉人たちの辞世の句』(辰巳出版)。neoneo編集委員。
●ドキュメンタリー叢書創刊 #01『ジョナス・メカス論集 映像詩人の全貌』
『ジョナス・メカス論集 映像詩人の全貌』
216ページ、四六判
執筆:ジョナス・メカス、井戸沼紀美、吉増剛造、井上春生、飯村隆彦、飯村昭子、正津勉、綿貫不二夫、原將人、木下哲夫、髙嶺剛、金子遊、石原海、村山匡一郎、越後谷卓司、菊井崇史、佐々木友輔、吉田悠樹彦、齊藤路蘭、井上二郎、川野太郎、柴垣萌子、若林良
編集:若林良、吉田悠樹彦、金子遊
編集協力、装幀:菊井崇史
発行:2020年11月5日 neoneo編集室
*ときの忘れもので扱っています。メール・fax等でお申し込みください。
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから


●Jonas Mekas Special 2/ Hello again “Glimpses of Beauty”ジョナス・メカス特集2/フィルムで再会する、美しい時の数々
世田谷・三宿で「ジョナス・メカス 上映と作品展示」が開催されています。



【会期】2020年11月12日(木)-12月13日(日)12:00-20:00
【休廊】毎週(火)(水)および12月4日(金)、5日(土)、6日(日)
【会場】SUNDAY(世田谷・三宿)内スペース「露路 Roji」
住所:東京都世田谷区池尻2-7-12 B1F 地下鉄田園都市線 池尻大橋駅、または三軒茶屋駅より徒歩12分。東急バス「三宿」停留所より徒歩1分。
【企画】ブックスアンドモダン
ジョナス・メカス特集第2弾では、ジョナス・メカス(リトアニア生まれ・米国。詩人、映画作家 1922-2019)が、半世紀を超えるニューヨーク生活を撮影、編集した “映画日記” の集大成、「歩みつつ垣間見た美しい時の数々 As I Was Moving Ahead Occasionally I Saw Brief Glimpses of Beauty」
(16㎜フィルム 2000年 288分)を上映します。
会場ではメカスの16㎜フィルムのプリント作品「フローズン・フィルム・フレームズ」のシリーズから上映映画を物語るニューヨークを背景とした作品約10点を展示販売。また、写真家、津田直氏が今年初めリトアニア、生地のセメニシュケイ各地を訪れ撮影したインスタントフィルム作品(ライカ ゾフォート)を展示します。
メカスが暮らしたニューヨーク、故郷のセメニシュケイ、ヴィリニュス、ビルジャイ……詩人が生涯、心のよりどころとした場所と「美しい時の数々」にフィルムで再会する1カ月です。
詳しくはブックスアンドモダンにお問合せください。
*画廊亭主敬白
今朝の新聞朝刊には一年前の今日12月4日アフガニスタンで凶弾に倒れた中村哲医師についての記事が掲載されています。
戦乱と旱魃により荒廃するアフガニスタンで医療活動を続けていた中村哲医師は「薬より水が必要」と考え、井戸掘りや用水路建設に軸足を移します。ペシャワール会の支援により、いまでは16,500ヘクタールもの地に緑が戻り、65万人もの人々の生活をささえています。
ときの忘れものが支援活動に参加したのは2002年からですが、今後もささやかですが支援活動を継続します。今月の支援頒布会は12月11日ブログで開催しますので、どうぞご参加ください。
●11月28日ブログで新連載・塩見允枝子のエッセイ「フルクサスの回想」が始まりました。合わせて連載記念の特別頒布会を開催しています。
塩見允枝子先生には11月から2021年4月までの6回にわたりエッセイをご執筆いただきます。塩見允枝子のエッセイ「フルクサスの回想」は毎月28日掲載です。
連載に合わせて作品も特別頒布させていただきます。お気軽にお問い合わせください。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
若林良
2020年11月、neoneo編集室ではドキュメンタリー叢書『ジョナス・メカス論集 映像詩人の全貌』を刊行いたしました。
まず、団体の紹介を簡単にさせていただきます。neoneoはドキュメンタリーに特化した批評媒体で、これまでさまざまな監督のインタビュー、映画や書籍のレビュー、また作家論などの発表を、WEBサイトと年2回発行する紙雑誌を通して行ってきました。2012年の発足から、しばらくの間はその2つが団体の柱となっていましたが、2018年からは「東京ドキュメンタリー映画祭」と称したドキュメンタリー映画祭の運営もふくめた3本柱での活動となり、映画祭は今年で第3回目を数えます。
※今年は12月5日~11日、新宿ケイズシネマでの開催となります。詳細は下記よりご参照ください。
https://tdff-neoneo.com/
そして昨年末、4本目の柱として立ち上がったのが、ドキュメンタリーで特筆すべき作家を取り上げ、さまざまな有識者からの寄稿をいただく論集「ドキュメンタリー叢書」の刊行でした。目標としては10年、少なくとも5年間の継続を目指すこの論集の第一弾はジョナス・メカス。なぜ彼になったのかは本書を参照願うとして、ここではその本の概要、および魅力について紹介をできればと思います。
まず、「コメンタリー」と題した、『幸せな人生からの拾遺集』の映画字幕。メカスの2012年の作品で、日本では井戸沼紀美さんの主催する上映会「肌蹴る光線―あたらしい映画―」で上映されました。その際に配布された作品の字幕を収録したもので、映画に登場する言葉は15歳の少女がメカスに送った手紙と、メカスのモノローグによって構成され、その美しい表現が際立ちます。
次に、『眩暈 Vertigo』の公開を来年に控えた、詩人の吉増剛造さん、および井上春生監督による対談。吉増さんの詩人ならではの言葉の旋律にのせて、生前のメカスの逸話、表現者としてのメカスを際立たせるもの、映画に対するふたりの想いなどが語られます。
吉増さんがメカスの幻影を、彼が去ったのちのアメリカの地で追いかける 『眩暈 Vertigo』がどのようなものになるのか。この対談からも、その構想の大きさがうかがえます。
そして本の前半を構成するのは、メカスとの交流、またメカスからの影響をさまざまな方たちが振り返るエッセイです。ここではそのすべてを紹介はできませんが、たとえばメカス日本日記の会の運営でも知られる木下哲夫さんは、メカスの沖縄での滞在を、自身が翻訳者として随行した経験からその時のことを振り返り、『初国知所之天皇』などで知られる映画監督の原將人さんは、メカスの映画の影響から「草書体で映画をつくる」ことを胸に刻んだと語ります。また、映像作家として近年活躍される石原海さんは、メカスと直接の面識はないものの、メカスの『ファクトリーの時代』を見たことを念頭にニューヨークに一ヶ月滞在し、その経験から自身とメカスを、ある形で重ね合わせたことについて語っています。その数々の言葉から、メカスという人間の多面的な像、また魅力が浮かび上がります。
本の後半は映画や詩をはじめ、メカスが残した種子を分析する論考で構成されます。たとえば越後谷卓司さんは、1960年代から現在までにおいて、メカスの存在や作品が日本でどのように受容されたのか、さまざまな同時代の資料から分析します。論考そのものの完成度ももちろん、本書に収録された各テキストを理解する上でも十分に役立つ、博覧強記な原稿を執筆していただきました。佐々木友輔さんは自身映像作家の視点から、フィルムやビデオ、インターネットとさまざまなメディアを渡り歩いてきたメカスが、その作品が技術の変化にともなってどのような変貌を遂げたかを語ります。また、井戸沼紀美さん・井上二郎さんはメカスの亡くなる前年2018年に発表された、「戦時中のメカスが反ユダヤ主義的な活動に携わっていたのではないか」という趣旨の論文、およびそれに対するメカスの応答からメカス自身の表現者としての歩み、また表現へのスタンスを逆照射する骨太な論考を執筆しています。
いずれの論考にも、メカスへの敬意と確かな批評眼が感じられ、それはそのまま、メカスの存在の大きさと、彼が次世代に確かな影響を与えたことを物語っています。今回の書籍では、年齢やバックグラウンドもさまざまな方たちに執筆を依頼しましたが、編集の過程で、そのような「軸」が自然と生起してきたことに、私たち編者は不思議な感動を覚えました。
再来年はメカスの生誕100年を迎え、おそらく、日本でもさまざまな回顧企画が行われると思います。来るメカスの再評価に、本書がなんらかの礎となることを願います。
(わかばやし りょう)
■若林良
1990年生まれ。映画批評/ライター。論考などに「「障害」を見る私たち」(映画『ナイトクルージング』パンフレット所収)、「「現在進行形」の神代辰巳 『女地獄 森は濡れた』を例に」(『ヱクリヲ Vol.5』所収)など。単著に『偉人たちの辞世の句』(辰巳出版)。neoneo編集委員。
●ドキュメンタリー叢書創刊 #01『ジョナス・メカス論集 映像詩人の全貌』
『ジョナス・メカス論集 映像詩人の全貌』216ページ、四六判
執筆:ジョナス・メカス、井戸沼紀美、吉増剛造、井上春生、飯村隆彦、飯村昭子、正津勉、綿貫不二夫、原將人、木下哲夫、髙嶺剛、金子遊、石原海、村山匡一郎、越後谷卓司、菊井崇史、佐々木友輔、吉田悠樹彦、齊藤路蘭、井上二郎、川野太郎、柴垣萌子、若林良
編集:若林良、吉田悠樹彦、金子遊
編集協力、装幀:菊井崇史
発行:2020年11月5日 neoneo編集室
*ときの忘れもので扱っています。メール・fax等でお申し込みください。
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから


●Jonas Mekas Special 2/ Hello again “Glimpses of Beauty”ジョナス・メカス特集2/フィルムで再会する、美しい時の数々
世田谷・三宿で「ジョナス・メカス 上映と作品展示」が開催されています。



【会期】2020年11月12日(木)-12月13日(日)12:00-20:00
【休廊】毎週(火)(水)および12月4日(金)、5日(土)、6日(日)
【会場】SUNDAY(世田谷・三宿)内スペース「露路 Roji」
住所:東京都世田谷区池尻2-7-12 B1F 地下鉄田園都市線 池尻大橋駅、または三軒茶屋駅より徒歩12分。東急バス「三宿」停留所より徒歩1分。
【企画】ブックスアンドモダン
ジョナス・メカス特集第2弾では、ジョナス・メカス(リトアニア生まれ・米国。詩人、映画作家 1922-2019)が、半世紀を超えるニューヨーク生活を撮影、編集した “映画日記” の集大成、「歩みつつ垣間見た美しい時の数々 As I Was Moving Ahead Occasionally I Saw Brief Glimpses of Beauty」
(16㎜フィルム 2000年 288分)を上映します。
会場ではメカスの16㎜フィルムのプリント作品「フローズン・フィルム・フレームズ」のシリーズから上映映画を物語るニューヨークを背景とした作品約10点を展示販売。また、写真家、津田直氏が今年初めリトアニア、生地のセメニシュケイ各地を訪れ撮影したインスタントフィルム作品(ライカ ゾフォート)を展示します。
メカスが暮らしたニューヨーク、故郷のセメニシュケイ、ヴィリニュス、ビルジャイ……詩人が生涯、心のよりどころとした場所と「美しい時の数々」にフィルムで再会する1カ月です。
詳しくはブックスアンドモダンにお問合せください。
*画廊亭主敬白
今朝の新聞朝刊には一年前の今日12月4日アフガニスタンで凶弾に倒れた中村哲医師についての記事が掲載されています。
戦乱と旱魃により荒廃するアフガニスタンで医療活動を続けていた中村哲医師は「薬より水が必要」と考え、井戸掘りや用水路建設に軸足を移します。ペシャワール会の支援により、いまでは16,500ヘクタールもの地に緑が戻り、65万人もの人々の生活をささえています。
ときの忘れものが支援活動に参加したのは2002年からですが、今後もささやかですが支援活動を継続します。今月の支援頒布会は12月11日ブログで開催しますので、どうぞご参加ください。
●11月28日ブログで新連載・塩見允枝子のエッセイ「フルクサスの回想」が始まりました。合わせて連載記念の特別頒布会を開催しています。
塩見允枝子先生には11月から2021年4月までの6回にわたりエッセイをご執筆いただきます。塩見允枝子のエッセイ「フルクサスの回想」は毎月28日掲載です。連載に合わせて作品も特別頒布させていただきます。お気軽にお問い合わせください。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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