佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第52回

秋田での展示「アキタノユメノイエ計画」について覚書

 今年の夏、秋田である展覧会に参加する。秋田市文化創造館という新たな文化施設のオープンと共に連動して開かれる展覧会だ。この施設のコンセプトはとても興味深いもので、「自分らしい表現を探す人のために、新しい活動を生みだす拠点」であり、「些細な試みと、失敗の積み重ねと、信頼できるつながりと、それをまちに充填する拠点」として始動している。単なる美術を鑑賞するハコではなく、訪れた人たち、秋田で暮らす人たちそれぞれが自分たちの営みを実践する場となることを目指されている。
 「200年をたがやす」というタイトルがついたその展覧会も組み立て方がとても刺激的だ。会期は3-6月の「つくる」と7-9 月の「みせる」に分けられ、この文化創造館の場への関わり方のプロセスが重視されている。つまり、すでに展覧会は始まっているわけだが、当の自分はというとまだ会場に行くことができていない。日々更新される文化創造館の情報発信SNSの記事を見ては、冷や汗をタラリと流している訳であるが、そうは言ってもしょうがないので、こちらは福島でボツボツと準備を始めている。
 展覧会で何を出すのかというと、秋田で写真を撮ってその作業成果を文化創造館に持ち込もうとしている。写真を撮影する場所は秋田の南の方、山形と宮城との境付近に位置する秋の宮という山村である。そこにある友人が住んでいる。彼は今、マタギとして秋の宮の山の中を歩いている。(その様子の一端は以前のブログに書いている。)彼の活動、山を視る繊細な眼差しとその姿にとても感銘を受けた。それで、彼が視る山を写真で撮りたいと思った。そして、山を写真機の眼によって眺めながら、彼のあり得るかもしれない架空の、秋田のイエ(家)の計画を構想しようと企てている。これはこちらの勝手な話だ。けれども計画すること、構想を企てること自体が自分にとっては一つの応答の形式なのである。秋の宮の、その山々に向かってオーイと叫んでみるように、彼のイエを構想してみたい。展示の名前は「アキタノユメノイエ計画」としている。
 まずは、秋の宮の現地でどのように写真を撮影し、現像するかを考える。自作の写真機を作り、現場で現像作業ができるようにテンポラリーな暗室小屋を建てる予定だ。前回、秋田を回ったときに立ち寄った五城目の材木屋さんで頂いたスギとナラの丸太を使って、そのあたりの道具を作る(47回投稿を参照)。

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(文化創造館にしばしば送っている手紙。「みせる」フェーズまで、こんな通信を重ねていきたい。)

 現場は撮影と現像までを行う。そして、その成果を携えた道具一式と共に秋田市の文化創造館へ持ち込み、何がしかを展示会場へ置いていき、また福島の拠点に帰る、という算段だ。なので、秋田を南から北へ巡る旅を何回か繰り返すことになる。
 実のところ、写真を撮影したあと、その応答としてさらに新たなドローイングや立体制作に連鎖させていく作業は、やりたかったのだが力不足もあり、前回のときの忘れものの個展「囲い込みとお節介」ではできなかったのであった。今回の秋田の制作はそれに連なる展開形としていきたい。野営的暗室での現像作業なので、写真の精度がどこまで出てくるのか、かなり未知なところも大きいが、たとえ真っ暗なネガが出来上がってしまったとしても、そこに微塵ほどの光の筋さえあれば次の制作物に繋がるはずだ。秋田、秋の宮の山の風景と友人の生き様を介しつつも、やはり自分自身の表現の行方にしっかりと向き合わなければいけないプロジェクトとなりそうである。
さとう けんご

佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。

・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。

●展覧会のご案内
200年をたがやす
オープンスタジオ期間「つくる」:2021年3月21日(日)~6月18日(金)
展示期間「みせる」:2021年7月1日(木)~9月26日(日)
会場:秋田市文化創造館ほか
主催:秋田市
企画・制作:NPO法人アーツセンターあきた
全体監修:服部浩之(インディペンデントキュレーター/秋田公立美術大学准教授)
佐藤研吾「アキタノユメのイエ計画」
マタギ修行のために秋田・秋の宮へ移り住んだある友人の生活を起点に、マタギの山を視る眼差しと手つきを学びながら、彼のあるかもしれない秋田のイエの計画を練るーその構想を展開させていくプロセスを、自作カメラによる写真撮影とスケッチ、手記などによって捉え、アーカイブすることを試みます。

●本日のお勧めは佐藤研吾です。
sato-24佐藤研吾 Kengo SATO
《構築についての思考》
2018年
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塩見允枝子のエッセイ「フルクサスの回想」全6回の連載が完結しました。
AAA_0917塩見允枝子先生には昨秋11月から2021年4月までの6回にわたりエッセイをご執筆いただきました。合わせて連載記念の特別頒布会を開催しています。4月28日ブログには第6回目となる特別頒布作品を掲載しました。フルクサスの稀少作品をぜひこの機会にコレクションしてください。

●東京・アーティゾン美術館
アーティゾン収蔵品展5月9日(日)まで「Steps Ahead: Recent Acquisitions 新収蔵作品展」が開催中。オノサト・トシノブ瀧口修造元永定正倉俣史朗など現代美術の秀作が多数展示されています。3月13日ブログに番頭おだちの観覧レポートを掲載しました。

埼玉県立近代美術館で5月16日まで「コレクション 4つの水紋」が開催中。倉俣史郎の名作「ミス・ブランチ」が出品されているほか、ときの忘れものが寄贈した瑛九(コラージュ)や靉嘔の版画も展示されています。4月17日ブログにスタッフMの観覧レポートを掲載しました。

●新装なった板橋区立美術館
板橋区美さまよえる絵筆5月23日まで「さまよえる絵筆―東京・京都 戦時下の前衛画家たち」展が開催中。松本竣介難波田龍起福沢一郎オノサト・トシノブらの戦前・戦中期の作品が展示されています。
担当学芸員の弘中智子さんによる展覧会紹介は4月22日ブログに掲載しました。
招待券を少しいただきました。ご希望の方はメールにてお申込みください。

●東京・天王洲アイルの寺田倉庫 WHAT
202102王聖美_写真2IMG-6740佐藤研吾《シャンティニケタンの住宅》、Nilanjan Bandyopadhyay
5月30日まで「謳う建築」展が開催中。佐藤研吾が出品しています。
番頭おだちの観覧レポートは5月6日ブログに掲載しました。

磯崎新設計の群馬県立近代美術館で、6月13日までコレクション展示による小特集オノサト・トシノブ没後35年〉が開催中。「 波紋の緑 1968」「朱と緑の円 1974」「雷 1976」「衝撃波の円ピンク 1982」など油彩6点が展示されています。

●栃木県真岡市・久保記念観光文化交流館
真岡関根伸夫展(表)6月14日まで久保貞次郎旧蔵の版画と素描による「関根伸夫展」が開催中。
久保記念観光文化交流館については2018年11月19日ブログ「第一回久保貞次郎の会~真岡の久保講堂を訪ねて」をお読みください。
三回忌となる5月13日ブログ関根伸夫の位相絵画をご紹介します。

●中国の上海と広東省仏山市で安藤忠雄展
church of water上海の復星芸術センター(Fosun Foundation)で6月6日まで「安藤忠雄:挑戦」が、広東省仏山市の安藤忠雄設計による和美術館(He Art Museum)で8月1日まで「BEYOND:ANDO TADAO and ART」が開催中。4月26日ブログでスタッフSが二つの安藤展を紹介しています。

●ときの忘れものが青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転して3年が経ちました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。