PLATワークショップ・テーマ庭 in GRANADA

根岸文子


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スペインに着いたばかりの1994年、サン セバスチァンのアルテレク文化センターで行われた夏期講習で知り合った古いお友達・アンパロ モレノ氏から去年の年末お誘いがかかり、彼女の勤めている、スペイン・グラナダのバル デル オマール美術学校で1ヶ月ほどのアートの講習を行う事になりました。学校の名前は José Val del Omar美術学校といって、グラナダ出身の映像芸術家の名前がつけられています。公立の唯一の美術学校で、ありとあらゆる技術の教室があり、一部の部門では大学と同等な資格が得られる大きな学校です。この学校の名に冠せられているバル デル オマール・Val del Omar氏は1904年グラナダ出身、スペインの詩人・ガルシア ロルカと同期の芸術家でした。素晴らしい映像作家でありながら20世紀後半までひっそりとした存在でした。21世紀に入り彼の作品に注目が集まり、あのピカソのゲルニカで有名なスペイン・ソフィア王妃芸術センターで2010~2011年に彼の大きな展覧会が開かれました。インターネット上でも彼の映像が見ることができます、興味のある方はぜひご覧になってください。
そんなグラナダ文化が詰まったような名前を持った美術学校で、学校外の芸術家を招待していろいろな分野の学生達が参加できる講習プログラムが設けられています。私は“教える”ということとは関係のない生活を送っておりますが、お話を聞いて、ぜひ参加してみたいと思いました。

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グラナダは、16世紀、イザベル女王とフェルナンド王率いるカトリック王国スペイン軍に制覇されるまで、イベリア半島、最後のイスラム王国の残っていたところ、その城である世界遺産のアラハンブラ宮殿そして、その前に広がる昔のイスラム人の住居地区であったアルバイシンで有名な場所です。その後19世紀よりヨーロッパのロマン主義の芸術家たちが集い、その後も、文人、詩人、画家、ミュージシャンなど世界中の多くの芸術家達に愛されている街です。私もここで、最後の一週間、先生たち、学生たちと過ごすことができました。

根岸文子20230321_5このワークショップのテーマはJARDÍN/庭です。私もよく自分の作品で使うテーマでもあり、学校の先生たちも、最近、生徒たちの表現が暗く、攻撃的になりがちであることを心配していたようでした。そんなこともあり、一人一人、自分達の逃げ場、休息の場、憩いの場である“庭”をこのワークショップのテーマに選びました
このワークショップは、アンパロ モレノ氏(デッサン講師)とホセ アントニオ氏(美術史講師)の師事のもと、生徒達(希望者のみ)は庭をテーマにした自由なデッサンを制作します。そのデッサンをベースとして最終的に、学校内のオープンスペースに各自オブジェを制作・展示をするという内容でした。私も布のペインティングの作品で参加しました。

最初の段階では、私はマドリッドでオンラインでプレセンテーション、デッサンの批評などを行いました。そして、最後の一週間2月の20日よりグラナダで生徒の最終批評、展示を行いました。

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展示の様子です。私も庭をテーマにした絹のペインティング3点で参加しました。

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古い着物の⽣地を継ぎ合わせて、リバーシブルでどこからでも⾒れるよう作品を制作しました。美術学校の⽣徒は年齢もそれぞれで、若い⼈もいれば、年齢が上で経験が沢⼭ありそうな⼈もいました、20 名前後、⼥性多半数で参加が
ありました。全てのワークショップの過程を終えて、いろいろな表現に出会えてとても新鮮で私にとっても、⼤変意味のある⼯房だったと思います。

⼀週間、グラナダの街に題材して、いろいろ観光もできました。
今回のワークショップのテーマが、JARDÍN/庭だったのですが、グラナダの街⾃体、私にとって庭の多い街というイメージがありました

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市内は16世紀カトリック王国になって以降のスペイン・バロック、ルネサンス様式の建物が多く、中心部の感覚は、スペインの他の街とはあまり変わらないイメージだったのですが、街の周りには丘があり、その上にアラハンブラ宮殿やカルメンと呼ばれる昔ながらの庭のある別荘があります。その中でも、カルメン デ ロス マルティレスというイスラム王国時代のキリスト教の殉教者達の集められた場所にロマン主義の庭のあるカルメンがあります。詩の公園として20作品ほどの詩が公園のモニュメントに刻まれていて、ちょっと現実の生活から忘れられているような雰囲気もあり、19世紀のロマン主義の芸術家が集まった様子が窺えるような気がしました

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そして、庭の豊富なアラハンブラ宮殿。中庭、アラブ式の中庭、ヨーロッパ調の中庭、外には水の流れる庭、花の豊富な庭、畑のある庭、昔のイスラム文化でいかに自然というものが重要であったかが窺えます。

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内装も、幾何学模様で上品で繊細なイスラム装飾があると思えば、その中に、ちょっと素朴で可愛らしいスペイン調の装飾が現れそのミスマッチも歴史を語っています。

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上品で繊細な装飾と、自然を室内に取り入れアラブの詩や幾何学的な模様に囲まれた素晴らしいアラハンブラ宮殿の横には、その後グラナダを制覇したカトリック王国スペインのカルロス1世、同時に当時のヨーロッパで一番大きな国・神聖ローマ帝国のカルロス5世皇帝、つまり当時ヨーロッパ最強の王の宮殿があります。四角い巨大な大理石の建物の中に入ると、古代ローマをイメージさせる円形の中庭が堂々と立っていて圧倒されます。アラハンブラの繊細さとは違い古代ローマ帝国の偉大さをイメージして作られた16世紀の建物です。

ワークショップで1ヶ月間、自分の庭と付き合い、また、学生達の庭を垣間見て、最後の一週間、グラナダの街の庭の数々を散歩することが出来ました。

(ねぎし ふみこ)

根岸文子 Fumiko NEGISHI
1970年東京生まれ。1993年女子美術大学絵画科版画コース卒業後、スペインに渡る。スペイン美術大学の版画工房で学ぶ。スペイン国内版画展で新人賞、モハカ絵画奨学コース(スペイン)等を受ける。99、01、04、07、09年ときの忘れもので個展。02年エガン画廊(マドリッド)で個展、またマドリッド国際アートフェアに同画廊より出展、GENERACION 2002、2005グループ展に参加(カッハマドリッド)。06年ギャラリーすどうで二人展開催。2016 在西日本大使邸で個展。2017スペイン・バレンシア市 Galeria cuatro、2019スペイン・マドリッド市 Galeria HG Contemporary で個展。KIMONO-JOYA展へアーティストとして、また企画に参加している。日本と西洋を結ぶ国際的なアーティストが日本の羽織を題材に制作した作品の展覧会であり、2015年スペイン・バヤドリード市、Palacio de Pimentel、2019年在日スペイン大使館などでの展覧会を展開している。

目で見える世界ではなく、人間の内面に広がる世界を描いています。
自分だけの世界ではなく、心の奥に隠れる、人類共通のイメージと言語をこれからも探していきたいと思っています。

●本日のお勧め作品は根岸文子です。
無題DR根岸文子
無題DR
2021年
絹にアクリル画
60x33cm
サインあり
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*画廊亭主敬白
<お元気ですか?スペインは2月とっても寒い月でした。2年前にフィロメナという名前の寒波でマドリッドの街も一週間ぐらい雪でストップしたのを思い出します。日本も寒そうですが、春一番のニュースなども聞きました。だんだんと春に向かっているようですね。
さて、私も今年に入り、初めてアート特別講師としてスペイン・グラナダの美術学校に招待されました。
初めての体験で、とても嬉しくもあり、緊張もしました。ちょっとまとめてみたのでお送りしますね。
2023年3月4日  根岸文子>

優等生の多い女子美の中では「落ちこぼれ」だったという根岸さん。卒業するなり単身スペインに渡り、版画工房で働きながら画業に励んだ。結婚し、家族をつくり、スペインにすっかり根を下ろして、しかも自分を育ててくれた日本の文化を大切に、近年は着物(KIMONO)をテーマに制作をされています。
お便りはずいぶん前にいただいたのですが、アートフェア東京と葉栗剛新作展とビッグ・イベントが続き、掲載が遅くなってしまいました。
根岸さんのますますの活躍を期待しています。