Artists Recently 第22回/光嶋裕介

「動く建築としての本に込めた想い」


建築家として旅に出てスケッチをし、アトリエでドローイングを描く。
人生を通して自分の中にストックしてきた風景の断片たちをアレンジし、
《幻想都市風景》と題した空想上のドローイングを描き続けている。
今、こうして文章をしたためているように、
建築というものをはっきりと定義することは、難しい。
なぜなら、建築は自律した言語であるから。
スケッチやドローイングもまた自律した言語である。
言葉は、これらを結びつけて、翻訳することができる。
日本語の「りんご」を英語で「アップル」と言うように、
「建築」という言語も、「言葉」によって翻訳すれば
建築に込められたメッセージは、
違った輝きを放ち、より遠くまで伝達されることがある。
故に、私は、建築家として本を書くことを大切にしている。
建築に込められたメッセージを言葉にして発信することが、
本には、できるのだ。動く建築と言ってもいい。

このたび、『ここちよさの建築』(NHK出版)という本を書かせてもらった。
5年前に発刊された「学びのきほん」というシリーズの最新刊である。
「2時間で読める教養」という謳い文句で、
要するに東京-新大阪間の新幹線で読める気軽さと、
珈琲と一緒に買っても千円札でお釣りがくる安さが魅力の、
累計46万部の人気シリーズである。

book-2023

建築は専門的な学問領域として、大学教育に組み込まれている。
私は(小学生の娘がいることもあってか)「けんちく」という教科が
図工と一緒に小学校にあったらいいなぁ、と常々思っている。
今回、そんなひらがなの「けんちく」をイメージして文章に綴ってみた。
具体的には、建築を根源まで立ち戻って考えて、
人間と建築の関係について「ここちよさ」という視点から書いてみた。

当たり前ですが、
この「ここちよさ」というのは人によって違います。十人十色です。
とはいえ、建築をどのように考えると私たちは、
建築をより高い精度で「言語化」し、日々の建築を豊かに感じられるか、
その可能性を開拓するつもりで書いてみました。

私は建築の設計を生業とし、ドローイングを描き、3次元と2次元を往来しながら、
言葉でそれぞれの言語を翻訳している。むろん、不完全な翻訳です。
ただ、完全には翻訳できないからこそ対話が生まれ、
建築にも、ドローイングにも、言葉にも、尽きない魅力を感じているのです。
また、動く建築としての本は、手紙でもあると思っています。
そんな手紙としての本を手に取ってもらうご縁があれば、うれしい限りです。

frame-2023
最新作のドローイング

光嶋裕介(建築家)

光嶋裕介 Yusuke KOSHIMA
建築家、一級建築士。
1979年米国ニュージャージー州生。 87年に日本に帰国。 以降、カナダ(トロント)、 イギリス(マンチェスター)、 東京で育ち、最終的に 早稲田大学大学院修士課程建築学を 2004年に卒業。 同年にザウアブルッフ・ハットン・ アーキテクツ(ベルリン)に就職。 2008年にドイツより帰国し、 光嶋裕介建築設計事務所を主宰。 首都大学東京にて、助教(2012-15) 神戸大学にて、客員准教授(2015-) 桑沢デザイン研究所(2010-)、 日本大学短期大学部(2011-12)、 大阪市立大学(2013-)、 早稲田大学(2019-2019)、 名古屋工業大学(2017-2020)にて、常勤講師。
建築作品に《凱風館(神戸、2011)》、 《旅人庵(京都、2015)》、 《森の生活(長野、2018)》など多数著作に『増補 みんなの家。』(筑摩書房)、 『幻想都市風景』(羽鳥書店)、 『これからの建築』(ミシマ社)など多数

*画廊亭主敬白
開催中の「第33回瑛九展/湯浅コレクション」は出品点数が多いので前期と後期の二回にわけて展示しています。カタログも好評です。
先日、社長とふたりで西武池袋線に乗車していたときのこと、目の前の中年のご婦人が光嶋さんの『ここちよさの建築』を読んでいました。正直驚きました。ときの忘れものの作家たちで安藤忠雄先生はじめ著書の多いかたも少なくないのですが、電車の中で今回のような経験は初めてのことでした。
光嶋さん、売れてるなぁ(活躍してるなぁ)。
わかりやすい言葉で、丁寧に書かれた好著です、ぜひ手にとってお読みください。


ジョナス・メカスの映像作品27点を収録した8枚組のボックスセット「JONAS MEKAS : DIARIES, NOTES & SKETCHES VOL. 1-8 (Blu-Ray版/DVD版)」を販売しています。
映像フォーマット:Blu-Ray、リージョンフリー/DVD PAL、リージョンフリー
各作品の撮影形式:16mmフィルム、ビデオ
制作年:1963~2014年
合計再生時間:1,262分
価格等については、3月4日ブログをご参照ください。

●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊