佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第83回

たびたび制作しているピンホールカメラ、もう5年くらい、断続的に作り続けているが、幸いなことにまだまだ飽きがない。木工や鉄工の制作技術も多少は上がっているので素材の扱い方の広がりも出てきている。まだまだピンホールカメラ考究は続きそうだ。
およそ隔年でやらせてもらっている個展というくらいの、複数の制作物を一挙に制作、展示をする形式もかなり良い。単一の制作物だけを示すのではなく、複数の制作物が群を成し、何らかの場を作ることができるからだ。
群への興味が制作において現れてきたのは最初の個展「囲い込みとお節介」にて。複数のピンホールカメラの木箱を向かい合わせて、あるカメラが別のカメラを被写体にして写真撮影を行う形式。これはカメラという、眼(シャッターとしての開口部)を持ったモノが見ている風景を写真というメディアを通して覗いてみようという試みでもあった。

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(複数のピンホールカメラによる同時撮影の様子。2018年、福島県大玉村にて)

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《空間1》/2018年/クリ、ナラ、紙、鉛筆、色鉛筆、柿渋/140cm×81cm
(このドローイングは、他の全ての制作が終わってから描いた。なので会場における複数の立体の関係が念頭にあって図像にしたもので、その二次元表現にさらに立体(準立体というべきか)あるいはモノとしての額縁が囲い込んでいる。実はこの制作物はときの忘れものの作品リストにも載っていないけれども幾らかの作るべき必要があった。)

そして2022年の次の展示では、タイトルを「群空洞と囲い」としてより群についての意図をはっきりとさせてみた。空洞という言葉が生まれたのは、カメラのハコの作り方を木板を組み合わせて作るのではなく、大径丸太の横っ腹をチェンソーで堀り抜いて、どこか洞窟のような様相を帯びていた姿から出会った。そうして作った複数の空洞が群を成して並存している状態。2018の時には空間(空洞)のエクステリアの群を考えていたのに対して、2022年では空間(空洞)のインテリアが群を成すことに意識が向かった。

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(それぞれ空洞を備えた立体を並置させた様子。2022年、福島県大玉村にて。photo: comuramai)

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(小さな空洞を備えた立体を並置させた様子。2022年、神奈川県横須賀の海岸にて。photo: comuramai)

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《空洞で描く》/2022年/画用紙に鉛筆、顔彩/36.0×52.0cm

おそらくプロジェクトの全貌が見えてくるのは年明けの2024年になってしまうだろうが、次の制作物もまた当然に、何らかの群であることは確実であるとして、2022年に考えようとして考えきれていなかった「インテリアの群れ」というあたりの考えを深めてみたい。インテリア、と言ってしまうととても建築的に聞こえるが、つまり空間あるいは空洞を抽象的な図式で捉えるに終わるのではなくて、その空洞の表面はどのようなモノであるのか、造形的な探究も含めて考えてみよう、ということだろうと思う。

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(制作中のプロジェクトのスケッチ(一部))

(さとう けんご)

佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2022年3月ときの忘れもので二回目となる個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を開催。

・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。

●本日のお勧め作品は佐藤研吾です。
sato-58 (1)《空洞のための囲い1》  
2022年
ゼラチンシルバープリント
8.3×8.1cm/13.1×12.7cm
Ed. 1
サインあり
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●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
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