佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第94回
くぐり間くぐり について
制作を進めている。
今月下旬の展示「佐藤研吾展 くぐり間くぐり」の情報がときの忘れもののページで公開されていた。ステートメントの後半部分のみを案内状に載せてもらっているが、じつはこの制作にあたっての所信は前半にある。(以下抜粋)
今回の制作では、モチーフとして湖、あるいは海の風景がある(はず)。それでH・D・ソローのウォールデンや、コッド岬などの記述が気になって読んでみてもいた。そして、湖と言えば、ポール・ヴァレリーの有名な一節を思い出した。
湖に浮かべたボートをこぐように 人は後ろ向きに未来へ入っていく
目に映るのは過去の風景ばかり 明日の景色は誰も知らない
以前、この言葉を知ったとき、なるほど、なるほど、と頷いてしまったのを覚えている。(これは自分が好きな石川淳の『狂風記』の世界構造にも繋がるので尚更に。)ボートのように未来へ入っていく。未来へ入っていく。。原文のニュアンスは自分には分からないが、おそらくは未来へ“ズルズルと”入っていく感じ。なるほど。そんな時間の経過にはテクスチャーがあるらしいのだ。面白い。
そんなところから、改めて個展のタイトルのアイデアが出てきた。どこかへくぐっていく感じ。くぐり抜ける。くぐる、とタイピングしてみると、潜ると変換された。。うおお、なるほど。ここで、先の湖、水面から湖底を覗き込むイメージに強固に連結した。つまり、くぐる(潜る)=もぐる(潜る)、であるらしいのだ。くぐるというのはなんとなくやっぱり、どこか異界へ入っていくのを想像する。くぐり抜ける。
くぐり。くぐり、と書いてみて、語感から今度は「かげおくり」という言葉を連想した。「ちいちゃんのかげおくり」という物語があったのを思い出す。確か戦争の頃の話だ。地上に落ちる自分の影と、それが空に浮かんでいく、かげおくり。かげおくりは多分、異界へと移ろっていく出来事なのかもしれない。
くぐりという言葉からはもう一つ、松山巌さんの著作『くるーりくるくる』という表題も思い出した。エッセーの内容を細かく思い出せていないが(今、これを書いている時には出先で自分の本棚から遠い)、確か自分の思考や記憶がクルクルとどこかに行っては帰ってくる、ような感じだった気がする。ヴァレリーの一節は未来へ行くときのことだった。おそらくは未来から現在へ、あるいは過去へと帰ってくることもあるのではないだろうか。くるくるくるーり、と。
それで、くぐり、にもう一つ、くぐり、を付け加えようと思いついた。くぐり、くぐり。おそらく潜り抜けたその先は別の世界で、そこからまたくぐり帰ってくるときは別のくぐり抜ける感覚なのだろう。なので二つのくぐりの真ん中に鏡を据えてみよう。そうして、くぐり< >くぐり、となり、そんな空間を備えた造語として、「くぐり間くぐり」という言葉に行き着いた。
くぐり <間> くぐり
潜り <_> 潜り
そんなズルズルとした思考の連なりがある。

ここではじめて、立体の有り様を出してみる。上部の写真機と、架台となるイスは分かれる。

こちらの上部のミラーと架台としてのイスも分かれる。

ひとまずの台座として、以前(なぜか)作っていた秋田の八郎潟を形どったシルバーの板を敷いた。八郎潟のユートピア性についてはとてもおもしろくてどこかで喋りたいのだが、それはまたいつか。
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2022年3月ときの忘れもので二回目となる個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を開催。今秋11月には三回目の個展をときの忘れもので開催します。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●本日のお勧め作品は佐藤研吾です。
《仮面と連担》
2024年
鉄、木(クリ)、アルミ、柿渋、鉄媒染
各36.0×97.9×H170.0cm 5台組
サインあり
Photo by comuramai
作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆「佐藤研吾展」
会期=2024年11月22日(金)~12月1日(日)※会期中無休
11月26日(火)17時~18時半 ゲスト:藤原徹平(建築家)
11月29日(金)17時~18時半 ゲスト:大竹昭子(文筆家)
●12月7日(土)は臨時休廊いたします。
●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は原則として休廊ですが、企画によっては開廊、営業しています。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
くぐり間くぐり について
制作を進めている。
今月下旬の展示「佐藤研吾展 くぐり間くぐり」の情報がときの忘れもののページで公開されていた。ステートメントの後半部分のみを案内状に載せてもらっているが、じつはこの制作にあたっての所信は前半にある。(以下抜粋)
リアルを確かめるために、向こう側を見つめる、向こう側を作る。ひょっとすると矛盾しているが、そんな感覚な気がしてきた。過去を視て、未来を探す。遠くの世界に思いを馳せながら、日頃の生活に取り組む。限定的な自己についてを探求し、大きな世界の構造を掴み取る。もしかすると世界はどこかで領域付けられ分断しているのかもしれないが、分断された向こう側を必死に覗き込む努力をする。その試みはおそらく、見るという光の速さでなし得るものではなく、潜る(もぐる)、あるいは潜る(くぐる)と言い表すくらいのある種の困難さもあるだろう。近くから遠くを想う。遠くから近きモノを考える、は結局ずっと考えていることだ。そんなスケールを行き来する感覚があるから、(あえて言えば)建築は面白い、ということになる。制作では必ずしも建築的スケールが登場しているわけではないが、いつでも、どこでも、建築へ向かうことは可能だとおもっている。
今回の制作では、モチーフとして湖、あるいは海の風景がある(はず)。それでH・D・ソローのウォールデンや、コッド岬などの記述が気になって読んでみてもいた。そして、湖と言えば、ポール・ヴァレリーの有名な一節を思い出した。
湖に浮かべたボートをこぐように 人は後ろ向きに未来へ入っていく
目に映るのは過去の風景ばかり 明日の景色は誰も知らない
以前、この言葉を知ったとき、なるほど、なるほど、と頷いてしまったのを覚えている。(これは自分が好きな石川淳の『狂風記』の世界構造にも繋がるので尚更に。)ボートのように未来へ入っていく。未来へ入っていく。。原文のニュアンスは自分には分からないが、おそらくは未来へ“ズルズルと”入っていく感じ。なるほど。そんな時間の経過にはテクスチャーがあるらしいのだ。面白い。
そんなところから、改めて個展のタイトルのアイデアが出てきた。どこかへくぐっていく感じ。くぐり抜ける。くぐる、とタイピングしてみると、潜ると変換された。。うおお、なるほど。ここで、先の湖、水面から湖底を覗き込むイメージに強固に連結した。つまり、くぐる(潜る)=もぐる(潜る)、であるらしいのだ。くぐるというのはなんとなくやっぱり、どこか異界へ入っていくのを想像する。くぐり抜ける。
くぐり。くぐり、と書いてみて、語感から今度は「かげおくり」という言葉を連想した。「ちいちゃんのかげおくり」という物語があったのを思い出す。確か戦争の頃の話だ。地上に落ちる自分の影と、それが空に浮かんでいく、かげおくり。かげおくりは多分、異界へと移ろっていく出来事なのかもしれない。
くぐりという言葉からはもう一つ、松山巌さんの著作『くるーりくるくる』という表題も思い出した。エッセーの内容を細かく思い出せていないが(今、これを書いている時には出先で自分の本棚から遠い)、確か自分の思考や記憶がクルクルとどこかに行っては帰ってくる、ような感じだった気がする。ヴァレリーの一節は未来へ行くときのことだった。おそらくは未来から現在へ、あるいは過去へと帰ってくることもあるのではないだろうか。くるくるくるーり、と。
それで、くぐり、にもう一つ、くぐり、を付け加えようと思いついた。くぐり、くぐり。おそらく潜り抜けたその先は別の世界で、そこからまたくぐり帰ってくるときは別のくぐり抜ける感覚なのだろう。なので二つのくぐりの真ん中に鏡を据えてみよう。そうして、くぐり< >くぐり、となり、そんな空間を備えた造語として、「くぐり間くぐり」という言葉に行き着いた。
くぐり <間> くぐり
潜り <_> 潜り
そんなズルズルとした思考の連なりがある。

ここではじめて、立体の有り様を出してみる。上部の写真機と、架台となるイスは分かれる。

こちらの上部のミラーと架台としてのイスも分かれる。

ひとまずの台座として、以前(なぜか)作っていた秋田の八郎潟を形どったシルバーの板を敷いた。八郎潟のユートピア性についてはとてもおもしろくてどこかで喋りたいのだが、それはまたいつか。
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2022年3月ときの忘れもので二回目となる個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を開催。今秋11月には三回目の個展をときの忘れもので開催します。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●本日のお勧め作品は佐藤研吾です。
《仮面と連担》 2024年
鉄、木(クリ)、アルミ、柿渋、鉄媒染
各36.0×97.9×H170.0cm 5台組
サインあり
Photo by comuramai
作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆「佐藤研吾展」
会期=2024年11月22日(金)~12月1日(日)※会期中無休
11月26日(火)17時~18時半 ゲスト:藤原徹平(建築家)
11月29日(金)17時~18時半 ゲスト:大竹昭子(文筆家)
●12月7日(土)は臨時休廊いたします。
●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は原則として休廊ですが、企画によっては開廊、営業しています。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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