尾形一郎のエッセイ第1回
「ウルトラバロックについて」  尾形一郎

 私たちが大学で建築の勉強をしていた1980年代は、世界を自由に旅する環境が整ってきた頃で、世界のいかなる辺境の街や建築でも実際に体験できるようになっていた。しかも見るだけではなくて、歴史調査の進展のおかげで、いろいろな時代の建築を知ることも可能になっていた。さらに人々の往来も増えてグローバル化も進んできた。しかし、建築というのは建てられる土地があって成立するものなので、その場所と無関係ではいられない。
 自分たちは日本という場所で何を選択したら良いのだろうと、最初はヨーロッパの辺境を旅した。スペイン南部、シチリア島、フィンランド、ポーランド、ロシアなどに、西欧文明と異文化の衝突している場所を歩いた。
29_トナンツィントラ1-D しかし、異文化融合を巡る旅はメキシコで転機を迎えた。私たちは何気なく立ち寄ったのどかな村で、古ぼけた聖堂の扉を開いた。するとイスラムやバロック、曼荼羅などが渾然一体となってできた小宇宙が広がったのだ。一神教の秩序に従おうとしながらも、内部から過去の時間が増殖し、その秩序から溢れ出てしまうような表現を見た。そこには、人間の心の奥深くにある濃密で混沌とした宇宙が、現実の世界に持ち出されていた。彼らが作った神の家は、可視化された人の心の総体だったのだ。
トナンツィントラ1-D

21_プエブラ1-C ヨーロッパに隣接する辺境地域にはここまでぶっ飛んだものは無かった。スペイン人がやってくる前のメキシコはそれこそ日本と同じくらい西欧文明からかけ離れた場所だったからだろう。西洋化されたメキシコの教会堂やアイコンは、まったく違う形で出来上がった一足早い近代日本の鏡像だったともいえる。
(おがたいちろう)
プエブラ1-C

25_トラコルーラ1-C
トラコルーラ1-C

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*画廊亭主敬白
明日6月1日から「「ウルトラバロック 尾形一郎 尾形優 写真展」を開催します。
小野一郎時代に撮影した「ウルトラバロック」の世界との出会いについて、尾形一郎さんに3回にわけてエッセイの執筆をお願いしました。
尾形一郎さん、尾形優さんは写真家でもあり、また建築家としても活躍しています。お二人のユニークな自邸については、建築評論の植田実さんにやはり3回連続のエッセイで論じてもらう予定です。
作品群とともにお楽しみください。


◆ときの忘れものは、2010年6月1日[火]―6月12日[土]まで「ウルトラバロック 尾形一郎 尾形優 写真展」を開催します。※会期中無休
ウルトラバロック案内状600
キリスト教とメキシコの土着の文化が混じりあって生まれた「ウルトラバロック」、その小宇宙を捉えた写真作品をご紹介します。
尾形一郎さん・尾形優さん在廊日時は以下の予定です。
6月 1日(火) 16:00~18:00
  4日(金) 16:00~18:00
5日(土) 15:00~19:00
11日(金) 16:00~18:00

6月5日(土)17時より金子隆一さん(東京都写真美術館専門調査員)をお迎えし、尾形一郎さんと尾形優さんによるギャラリートークを開催します。(※要予約 参加費1,000円)