本を巡る旅 その2

バーゼルといえば著名な建築家による近・現代建築が数多く浮かびますが、紙博物館はスイスらしい趣のハーフティンバー様式。川沿いの道を少し入った路地に、大きな水車を除けばどちらかというとひっそりと建っていました。
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その名の通り入ると直ぐに、外の水車を動力にした叩解機があり、その脇で子供が手漉き体験中。和紙の国から参りましたと勝手知った風に子供に続き漉き枠を手に取りましたが、スピードと枠の水平さが命だったようで、自慢できるような結果は残せず退散しました。紙漉き以外は常時ではないようですが、書写から印刷、製本に至るまでの一通りが体験出来るようです。

zu-3黙々と活字を鋳込み続けるおじさん。頂けるわけではありませんでした。


zu-4馴染のかがり台などが並んでいた製本コーナー


残念ながら製本の部屋に人影はありませんでしたが、隣で行われていたマーブル紙作りにも、これまた子供に続き参加。マーブル紙の染めはルリユールを習っていた時の課題以来です。
日頃、頭を悩ませつつ制作している染め紙に活かそうと思い、伝統的な模様の作例を無視して作ったところ、はたして斬新過ぎたのか、係の女性が他所の職員まで呼び寄せ驚嘆の様子で見せていました。オトナも褒めて、伸び伸びすくすく育てて欲しいものです。

集合地マインツへの途中に都合よく位置する念願のヴィトラ・キャンパスは、次々と様々な現代建築家の設計による施設が建ち、まだフランク・ゲーリーのデザインミュージアムくらいしかなかった学生の頃よりも見応えがずっと増しており、満を持しての嬉しさです。丁度ファクトリーセールが行われており、入り口の長蛇の列の人々が、リビングやダイニング用の椅子やらテーブルやらをひと揃え、台車に山積みにして出てきます。近隣市町村の人々は全員ヴィトラの家具か!?と思う勢いです。よく知られたデザインの自分にとっての良し悪しを、生活する中で判断できるとは羨ましいかぎりです。予想外だったのは、89年に建てられたデザインミュージアムと約20年後に建てられたヘルツォーク&ドムーロン設計のヴィトラハウス。キャンパス内でもひときわ独特な外観を持つ二棟ですが、居心地の良さに驚かされました。複雑な外壁がほど良いバランスの空間を結んで、気持ちよく入る外光と自由で自然な導線を作っています。今まで見たことのある、写真でしか知らない作品からは特別興味を持っていなかった建築家でしたので、なおのことの楽しさでした。

zu-5デザインミュージアム


zu-6ヴィトラハウス


この後のマインツからは、鉄道のストライキに悩まされながら、またどっぷりと本に浸かる旅に戻ります。
(文:羽田野麻吏)
羽田野(大)のコピー


●作品紹介~羽田野麻吏制作
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『LA LETTRE』
ILIAZD
挿絵:PABLO PICASSO
clémece hiver Paris 1990年

・2000年制作
・総山羊革二重装 ランゲット製本
・山羊革のモザイクと染色板のデコール
・山羊革と染め紙の見返し
・天染め
・タイトル箔押し:芦沢博美
・函
・194×163×32mm

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●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。

本の名称
01各部名称(1)天
(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)


額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。

角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。

シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。

スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。

総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。

デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。

二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。

パーチメント
羊皮紙の英語表記。

パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。

半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。

夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。

ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。

両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。

様々な製本形態
両袖装両袖装


額縁装額縁装


角革装角革装


総革装総革装


ランゲット装ランゲット製本


●今日のお勧め作品は、宇田義久です。
20160303_uda_01宇田義久
「bamboo-blind 04 (yellow)」
2004年
木綿布、木綿糸、アクリル絵具、アクリルメディウム、パネル
27.5x27.5x4.0cm
裏面にサインあり


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◆frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。