活字について(1) 印刷用鉛活字
修道士たちが手描きで記した写本の文字は、印刷されたものかと見間違うほど、一定の落ち着きがあり、精神性の高さを感じます。しかし、写本は生産性に欠け高価なものであったため、ごく限られた人のみが所有できるものでした。
その後、グーテンベルクが活版印刷術を発明します。繰り返し使用できる「動く活字」の出現は、印刷物をより多くの人々の元に届けていきました。
印刷術はヨーロッパ各地へと普及していき、次々と印刷用活字が生み出されていきます。ペン書き要素が残るCentaur、クセがなく応用範囲の広いGaramond、アメリカ独立宣言書に使われたCaslonなど様々な特徴を持った書体があります。
活版印刷術発明当初主流だったブラックレターは、ローマン体に慣れた私たちには見づらく読むのに苦労します。あまり文字間もなく紙面にぎっしり文字、文字、文字、という感じで、あまり洗練されていないイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。しかし、実際には、理路整然とした佇まいに息を飲みます。大きく印刷されたものなどは、とてもきれいです。
ブラックレター印刷物
印刷博物館(ライプチヒ)にて
というのも、私は個人的に、数年に一度、「本を巡る旅」と題して、数人の製本仲間と一緒に書物の視察旅行に出かけています。前回は、スイスとドイツへ行き、本場の事情を探るべく、活字に関する博物館や美術館を訪ねてきました。バーゼルの紙博物館を皮切りに、オッフェンバッハのクリングスポール博物館、ライプチヒの印刷博物館、もちろん忘れてはならないマインツのグーテンベルク博物館など活字漬けの旅でした。
連続的に機械から鋳造される鉛活字は見たことがありましたが、ハンドモールドを使った活字鋳造は今まで見たことはありませんでした。そして、活字鋳造機に連結したタイプライターで打ち込んだ文章を一気に一行ごと鋳造する様子も初めて見ることができました。
ハンドモールド活字鋳造
紙博物館(バーゼル)にて
文章活字鋳造機
印刷博物館(ライプチヒ)にて
この旅では、日本よりも活版印刷や活字を身近に感じることはできましたが、やはり「現場感」はあまりなく、活字文化が展示というかたちで美術館や博物館に安住の地を求めているような雰囲気は拭えませんでした。
しかしながら、活字が鋳造されるまでのしくみや、その活字を使った印刷物が刷りあがるまでを、見学のみならず体感できる総合施設があることは、とても有意義であると思います。そして、同時に活版印刷が教科書上だけのものではないということを、子供たちにも伝えていくことを可能にしています。
ルリユールも、活版印刷の普及とともに歴史を刻んできましたが、決して過去の産物ではなく、スタイルを現代に沿うように変えながらも、本が存在する限りは、私たちとともにあり続けることを伝えていく必要性を改めて思いました。
(文・中村美奈子)

●作品紹介~中村美奈子制作

『Toi et Moi』
Paul Géraldy(挿絵:André E. Marty)
1946年 L'EDITION D'ART H.PIAZZA PARIS
限定250部
・山羊背バンド半革装 パッセ・カルトン
・金箔装飾背表紙
・糊染め紙見返し
・天金
・タイトル・表紙箔押し:中村美奈子
・スリップケース
・2012年(製本:frgm)
・204×146×24
半革装の背に装飾を施しました。可愛らしいボタニカルな模様を組み合わせています。
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。
本の名称
(1)天
(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)
額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。
角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。
シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。
スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。
総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。
デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。
二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。
パーチメント
羊皮紙の英語表記。
パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。
半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。
夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。
ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。
両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。
様々な製本形態
両袖装
額縁装
角革装
総革装
ランゲット製本
●今日のお勧め作品は、森下慶三です。
森下慶三
〈想像の風景〉より
油彩・キャンバス
20.0×20.0cm Signed
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜~土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。
◆frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。
修道士たちが手描きで記した写本の文字は、印刷されたものかと見間違うほど、一定の落ち着きがあり、精神性の高さを感じます。しかし、写本は生産性に欠け高価なものであったため、ごく限られた人のみが所有できるものでした。
その後、グーテンベルクが活版印刷術を発明します。繰り返し使用できる「動く活字」の出現は、印刷物をより多くの人々の元に届けていきました。
印刷術はヨーロッパ各地へと普及していき、次々と印刷用活字が生み出されていきます。ペン書き要素が残るCentaur、クセがなく応用範囲の広いGaramond、アメリカ独立宣言書に使われたCaslonなど様々な特徴を持った書体があります。
活版印刷術発明当初主流だったブラックレターは、ローマン体に慣れた私たちには見づらく読むのに苦労します。あまり文字間もなく紙面にぎっしり文字、文字、文字、という感じで、あまり洗練されていないイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。しかし、実際には、理路整然とした佇まいに息を飲みます。大きく印刷されたものなどは、とてもきれいです。
ブラックレター印刷物印刷博物館(ライプチヒ)にて
というのも、私は個人的に、数年に一度、「本を巡る旅」と題して、数人の製本仲間と一緒に書物の視察旅行に出かけています。前回は、スイスとドイツへ行き、本場の事情を探るべく、活字に関する博物館や美術館を訪ねてきました。バーゼルの紙博物館を皮切りに、オッフェンバッハのクリングスポール博物館、ライプチヒの印刷博物館、もちろん忘れてはならないマインツのグーテンベルク博物館など活字漬けの旅でした。
連続的に機械から鋳造される鉛活字は見たことがありましたが、ハンドモールドを使った活字鋳造は今まで見たことはありませんでした。そして、活字鋳造機に連結したタイプライターで打ち込んだ文章を一気に一行ごと鋳造する様子も初めて見ることができました。
ハンドモールド活字鋳造紙博物館(バーゼル)にて
文章活字鋳造機印刷博物館(ライプチヒ)にて
この旅では、日本よりも活版印刷や活字を身近に感じることはできましたが、やはり「現場感」はあまりなく、活字文化が展示というかたちで美術館や博物館に安住の地を求めているような雰囲気は拭えませんでした。
しかしながら、活字が鋳造されるまでのしくみや、その活字を使った印刷物が刷りあがるまでを、見学のみならず体感できる総合施設があることは、とても有意義であると思います。そして、同時に活版印刷が教科書上だけのものではないということを、子供たちにも伝えていくことを可能にしています。
ルリユールも、活版印刷の普及とともに歴史を刻んできましたが、決して過去の産物ではなく、スタイルを現代に沿うように変えながらも、本が存在する限りは、私たちとともにあり続けることを伝えていく必要性を改めて思いました。
(文・中村美奈子)

●作品紹介~中村美奈子制作

『Toi et Moi』
Paul Géraldy(挿絵:André E. Marty)
1946年 L'EDITION D'ART H.PIAZZA PARIS
限定250部
・山羊背バンド半革装 パッセ・カルトン
・金箔装飾背表紙
・糊染め紙見返し
・天金
・タイトル・表紙箔押し:中村美奈子
・スリップケース
・2012年(製本:frgm)
・204×146×24
半革装の背に装飾を施しました。可愛らしいボタニカルな模様を組み合わせています。
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●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。
本の名称
(1)天(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)
額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。
角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。
シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。
スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。
総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。
デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。
二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。
パーチメント
羊皮紙の英語表記。
パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。
半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。
夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。
ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。
両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。
様々な製本形態
両袖装
額縁装
角革装
総革装
ランゲット製本●今日のお勧め作品は、森下慶三です。
森下慶三〈想像の風景〉より
油彩・キャンバス
20.0×20.0cm Signed
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜~土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。
◆frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。
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