<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第48回

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要素の多い写真、という言い方がある。目に留まるものがたくさんあり、それらが強弱なく画面のなかに散在している、というニュアンスである。この写真も、写っているのはふたりだが、彼女たちの体にいろいろなものが付着し、まさしく「要素の多い写真」となっている。その数多い要素のなかでまず目がいったのは、彼女たちの顔だった。右側の女の子を見て、つぎに左の子に視線を移す。二度目のときも、三度目のときもこの順番は変わらず、まず顔、それから身につけているグッズ、なのだった。
首にかけている長いチェーンや口を開けたカエルのマスコット、手首にはめたブレスレットや輪っかやコード状のもの、指にはまっている星形の指輪やパンダの人形など、ふだんあまり見かけないものに引き寄せられる。何色かは考えず、質感だけを想像しながら見入る。付けている点数が多い割には重そうではない。大方がプラスチック製なのだろう。
生まれ落ちたときは裸で、この世にいる時間が長じるにつれて身につけるものが増す。服、靴下、靴、帽子、メガネ、バッグ、アクセサリー、メイクアップ、かつら……と増えていき、ピークをすぎるとその数が減って下降線をたどる、というのが人の一生だとすると、この少女たちはいまピークのまっただ中にある。これ以上身につけるアイテムはあるだろうかと思うほど、ありとあらゆるもので身を覆いつくしている。
いや、考えたらもうひとつあるではないか。顔にお面を付けるのだ。ピカチューとか、キティーちゃんとか、ゾンビとか、ドンキホーテに行けばいくらでも売っているだろう。だが、それを顔に被るという選択肢は彼女たちにはないらしい。それをしたら顔が見えなくなる。これはわたしです、というアピールが半減しては意味がない。
右側の女の子は口を半開きにし、もの言いたげな表情で左の子を見ている。かたや、見られているほうの子はアイラッシュをつけた両目を空にむけ、カルピスソーダを飲んでいる。ふたりの頬には星が飛んでいて、シールすらも身を飾るアイテム化している。右の少女の顎のところに水玉模様のものがある。これは何だろう、と考えるうちに、マスクだとわかった。それを顎にひっか掛けているのだ。ナルホド、口にかぶせるのは顔が隠れるからNGなのだ。
水玉模様と左の子のドリンクとのあいだに、なにか関連性があるような気がして考えているうちに、はたと思い付いた。濃縮カルピスが出回っていたころ、そのボトルはクレープ状の包装紙に包まれていた。その紙の模様が水玉模様だったのである。甘ったるい白い液体がドリンクの王様だった頃のことは、彼女たちは知るよしもないけれど、一瞬、そのイメージが瞼の奥にスパークしたのである。
大竹昭子(おおたけあきこ)
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●紹介作品データ:
元田敬三
〈OPEN CITY〉シリーズより
2012年撮影(2016年プリント)
ゼラチン・シルバー・プリント
106.3x136.5cm
サインあり
*2012年、原宿。原宿の磁場に引き寄せられるようにハデ子が2人参上。
■元田敬三 Keizo MOTODA
1971年大阪生まれ。桃山学院大学経済学部卒業後、ビジュアルアーツ専門学校大阪入学。 在学中、1996年写真[人間の街]プロジェクト(ガーディアン・ガーデン主催)入選、準太陽賞受賞。1997年より東京ビジュアルアーツ専門学校にて非常勤講師。
●展覧会のご案内
「総合開館20周年記念 東京・TOKYO 日本の新進作家vol.13」
会期:2016年11月22日[火]~2017年1月29日[日]
会場:東京都写真美術館
時間:10:00~18:00 ※木・金曜は20:00まで
2017年1月2日(月・振休)・3日(火)は11:00-18:00
(いずれも入館は閉館時間の30分前まで)
休館:月曜(月曜日が祝日の場合は開館し、翌平日休館)、年末年始(12月29日[木]―2017年1月1日[日・祝]、ただし図書室は12月29日[木]―2017年1月4日[水]まで休室)
東京都写真美術館は、写真・映像の可能性に挑戦する創造的精神を支援し、将来性のある作家を発掘し、新しい創造活動の場となるよう、さまざまな事業を展開しています。その中核となるのが、毎年異なるテーマを決めて開催している「日本の新進作家」展です。シリーズ第13回目となる本展は「東京」をテーマとして、東京というメガ・シティに対してアプローチしている現代作家たちをとりあげていきます。
東京は世界有数の都市として認知されています。しかし東京というとメディアに表現されるような、足早に大勢の人々が交差点で行き交うような風景だけではありません。人々が生活し、変化し続ける都市でもあります。写真技術が輸入されてから、多くの写真師、写真家によって記録され続けていた都市ですが、現在の写真家たちの眼にどのような形で映っているのでしょうか。今回は6人の新進作家による表現された「東京」をテーマにした展覧会を開催いたします。
東京都写真美術館では、「東京を表現、記録した国内外の写真作品を収集する」という収集方針があり、同時開催として、当館のコレクションによる「東京」をテーマとした収蔵品展を行います。(東京都写真美術館HPより転載)
●本日の瑛九情報!
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新年明けましておめでとうございます。
お正月に瑛九を展示している全国の美術館を紹介します。
沖縄県立博物館・美術館:本日1月1日(日)より開館しています。1月4日(水)と1月10日(火)は休館。開催中の「夢の美術館-めぐりあう名画たち-福岡市美術館・北九州市立美術館名品コレクション」展に瑛九の作品が展示されています。
東京国立近代美術館:1月1日(日)のみ休館、1月2日(月)から開館。<瑛九 1935-1937 闇の中で「レアル」をさがす>展を開催しています。
埼玉県立近代美術館:1月3日(火)まで休館、1月4日(水)から開館。「MOMASコレクション 第3期」で瑛九を展示しています。
久留米市美術館:1月3日(火)まで休館、1月4日(水)より開館。「久留米市美術館開館記念 2016 ふたたび久留米からはじまる。九州洋画」展には瑛九の点描作品も展示されています。
大川美術館:1月3日(火)まで休館、1月4(水)より開館。常設展示で瑛九の油彩とフォトデッサンを展示しています。
宮崎県立美術館:1月4日(水)まで休館、1月5日(木)より開館。全国で唯一「瑛九展示室」があり、いつでも瑛九の作品をご覧になれます。
都城市立美術館:1月4日(水)まで休館、1月5日(木)より<UMK寄託作品による「瑛九芸術の迷宮へ」展>が開催されます。本展については中村茉貴さんがはるばる宮崎まで遠征し、ブログでレポートしてくださる予定です。
亭主が把握している「お正月に瑛九を展示している美術館」は上記7館ですが、他にもありましたらぜひお知らせください。
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<瑛九 1935-1937 闇の中で「レアル」をさがす>展が東京国立近代美術館で開催されています(11月22日~2017年2月12日)。外野応援団のときの忘れものは会期終了まで瑛九について毎日発信します。
◆ときの忘れものは休み明けの1月18日(水)より「Circles 円の終わりは円の始まり」を開催します。
会期:2017年1月18日[水]―2月4日[土] *日・月・祝日休廊

オノサト・トシノブ、ソニア・ドローネ、菅井汲、瑛九、高松次郎、吉原治良など円をモチーフに描かれた作品をご覧いただきます。
◆大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。

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要素の多い写真、という言い方がある。目に留まるものがたくさんあり、それらが強弱なく画面のなかに散在している、というニュアンスである。この写真も、写っているのはふたりだが、彼女たちの体にいろいろなものが付着し、まさしく「要素の多い写真」となっている。その数多い要素のなかでまず目がいったのは、彼女たちの顔だった。右側の女の子を見て、つぎに左の子に視線を移す。二度目のときも、三度目のときもこの順番は変わらず、まず顔、それから身につけているグッズ、なのだった。
首にかけている長いチェーンや口を開けたカエルのマスコット、手首にはめたブレスレットや輪っかやコード状のもの、指にはまっている星形の指輪やパンダの人形など、ふだんあまり見かけないものに引き寄せられる。何色かは考えず、質感だけを想像しながら見入る。付けている点数が多い割には重そうではない。大方がプラスチック製なのだろう。
生まれ落ちたときは裸で、この世にいる時間が長じるにつれて身につけるものが増す。服、靴下、靴、帽子、メガネ、バッグ、アクセサリー、メイクアップ、かつら……と増えていき、ピークをすぎるとその数が減って下降線をたどる、というのが人の一生だとすると、この少女たちはいまピークのまっただ中にある。これ以上身につけるアイテムはあるだろうかと思うほど、ありとあらゆるもので身を覆いつくしている。
いや、考えたらもうひとつあるではないか。顔にお面を付けるのだ。ピカチューとか、キティーちゃんとか、ゾンビとか、ドンキホーテに行けばいくらでも売っているだろう。だが、それを顔に被るという選択肢は彼女たちにはないらしい。それをしたら顔が見えなくなる。これはわたしです、というアピールが半減しては意味がない。
右側の女の子は口を半開きにし、もの言いたげな表情で左の子を見ている。かたや、見られているほうの子はアイラッシュをつけた両目を空にむけ、カルピスソーダを飲んでいる。ふたりの頬には星が飛んでいて、シールすらも身を飾るアイテム化している。右の少女の顎のところに水玉模様のものがある。これは何だろう、と考えるうちに、マスクだとわかった。それを顎にひっか掛けているのだ。ナルホド、口にかぶせるのは顔が隠れるからNGなのだ。
水玉模様と左の子のドリンクとのあいだに、なにか関連性があるような気がして考えているうちに、はたと思い付いた。濃縮カルピスが出回っていたころ、そのボトルはクレープ状の包装紙に包まれていた。その紙の模様が水玉模様だったのである。甘ったるい白い液体がドリンクの王様だった頃のことは、彼女たちは知るよしもないけれど、一瞬、そのイメージが瞼の奥にスパークしたのである。
大竹昭子(おおたけあきこ)
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●紹介作品データ:
元田敬三
〈OPEN CITY〉シリーズより
2012年撮影(2016年プリント)
ゼラチン・シルバー・プリント
106.3x136.5cm
サインあり
*2012年、原宿。原宿の磁場に引き寄せられるようにハデ子が2人参上。
■元田敬三 Keizo MOTODA
1971年大阪生まれ。桃山学院大学経済学部卒業後、ビジュアルアーツ専門学校大阪入学。 在学中、1996年写真[人間の街]プロジェクト(ガーディアン・ガーデン主催)入選、準太陽賞受賞。1997年より東京ビジュアルアーツ専門学校にて非常勤講師。
●展覧会のご案内
「総合開館20周年記念 東京・TOKYO 日本の新進作家vol.13」
会期:2016年11月22日[火]~2017年1月29日[日]
会場:東京都写真美術館
時間:10:00~18:00 ※木・金曜は20:00まで
2017年1月2日(月・振休)・3日(火)は11:00-18:00
(いずれも入館は閉館時間の30分前まで)
休館:月曜(月曜日が祝日の場合は開館し、翌平日休館)、年末年始(12月29日[木]―2017年1月1日[日・祝]、ただし図書室は12月29日[木]―2017年1月4日[水]まで休室)
東京都写真美術館は、写真・映像の可能性に挑戦する創造的精神を支援し、将来性のある作家を発掘し、新しい創造活動の場となるよう、さまざまな事業を展開しています。その中核となるのが、毎年異なるテーマを決めて開催している「日本の新進作家」展です。シリーズ第13回目となる本展は「東京」をテーマとして、東京というメガ・シティに対してアプローチしている現代作家たちをとりあげていきます。
東京は世界有数の都市として認知されています。しかし東京というとメディアに表現されるような、足早に大勢の人々が交差点で行き交うような風景だけではありません。人々が生活し、変化し続ける都市でもあります。写真技術が輸入されてから、多くの写真師、写真家によって記録され続けていた都市ですが、現在の写真家たちの眼にどのような形で映っているのでしょうか。今回は6人の新進作家による表現された「東京」をテーマにした展覧会を開催いたします。
東京都写真美術館では、「東京を表現、記録した国内外の写真作品を収集する」という収集方針があり、同時開催として、当館のコレクションによる「東京」をテーマとした収蔵品展を行います。(東京都写真美術館HPより転載)
●本日の瑛九情報!
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新年明けましておめでとうございます。
お正月に瑛九を展示している全国の美術館を紹介します。
沖縄県立博物館・美術館:本日1月1日(日)より開館しています。1月4日(水)と1月10日(火)は休館。開催中の「夢の美術館-めぐりあう名画たち-福岡市美術館・北九州市立美術館名品コレクション」展に瑛九の作品が展示されています。
東京国立近代美術館:1月1日(日)のみ休館、1月2日(月)から開館。<瑛九 1935-1937 闇の中で「レアル」をさがす>展を開催しています。
埼玉県立近代美術館:1月3日(火)まで休館、1月4日(水)から開館。「MOMASコレクション 第3期」で瑛九を展示しています。
久留米市美術館:1月3日(火)まで休館、1月4日(水)より開館。「久留米市美術館開館記念 2016 ふたたび久留米からはじまる。九州洋画」展には瑛九の点描作品も展示されています。
大川美術館:1月3日(火)まで休館、1月4(水)より開館。常設展示で瑛九の油彩とフォトデッサンを展示しています。
宮崎県立美術館:1月4日(水)まで休館、1月5日(木)より開館。全国で唯一「瑛九展示室」があり、いつでも瑛九の作品をご覧になれます。
都城市立美術館:1月4日(水)まで休館、1月5日(木)より<UMK寄託作品による「瑛九芸術の迷宮へ」展>が開催されます。本展については中村茉貴さんがはるばる宮崎まで遠征し、ブログでレポートしてくださる予定です。
亭主が把握している「お正月に瑛九を展示している美術館」は上記7館ですが、他にもありましたらぜひお知らせください。
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<瑛九 1935-1937 闇の中で「レアル」をさがす>展が東京国立近代美術館で開催されています(11月22日~2017年2月12日)。外野応援団のときの忘れものは会期終了まで瑛九について毎日発信します。
◆ときの忘れものは休み明けの1月18日(水)より「Circles 円の終わりは円の始まり」を開催します。
会期:2017年1月18日[水]―2月4日[土] *日・月・祝日休廊

オノサト・トシノブ、ソニア・ドローネ、菅井汲、瑛九、高松次郎、吉原治良など円をモチーフに描かれた作品をご覧いただきます。
◆大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。
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