スタッフSの海外ネットサーフィン No.88
「Hong Kong Spotlight by Art Basel」
Hong Kong Convention and Exhibition Centre


 読者の皆様こんにちは。冬らしい日々が続き、寒さが厳しくなってきたと思いきや、先週末は半袖短パンで出歩けるほどの陽気が続き、今週に入ってまた一気に冷え込んできている今日この頃、いかがお過ごしでしょうか? 暑いやら寒いやらで日々是気もそぞろなスタッフSこと新澤です。

 再三書いておりますが、今年はコロナウイルスのせいで大は東京オリンピックから小は母のボランティア活動まで、人の集まるあらゆるイベントがことごとく中止になってきました。ときの忘れものも出展第2回となるハズだったArt Basel Hong Kongを皮切りに、アートフェア東京Art OsakaArt Fair Asia FukuokaArt TaipeiArt Miamiと、例年出展してきたアートフェアは全て開催を自粛することに。

 何やらこのまま現実のイベントが過去の遺物となりそうな勢いですが、そんな状況に待ったをかけるべく企画されたのが、本日26日から月末の30日にかけて開催される「Hong Kong Spotlight by Art Basel」です。
名前にある通りArt Baselが主催するこのイベントですが、当事務局による今年初の物理的なイベントになります。

hkpl_logo

 会場はArt Basel Hong Kongと同じ、香港・ワンチャイにあるHong Kong Convention and Exhibition Centreですが、出展画廊は22画廊と去年のBasel Hong Kongの1/10以下。画廊は全て香港に拠点を持つ画廊となっており、この難しい状況下でアートコミュニティが結束するための一助となることがフェアの目的です。
 展示内容は多岐に渡り、スタンダードにテーマに沿ったソロ・グループ展から、美術史にちなんだショーケース、映像作品などが展示される予定です。展示される作家・作品は香港や中国に限らず、「Axel Vervoordt Gallery」の具体作家・名坂有子、「Nanzuka / Aishonanzuka」の写真家・鬼海弘雄など、日本の作家作品も出展されます。他に目立つ作家はザオ・ウーキー。22画廊中3画廊からの出展です。

 規模が小さいことに加え、密を避けるためにチケットの販売数も限られており、そもそも日本在住の人間では自粛期間を含めるとどうやっても見に行くことはできませんが、香港在住で家の中にいるのはもう飽きた! と方がいらっしゃれば、是非とも参加してみてください。

 ところで先日スイスのアート・バーゼル事務局よりやけにずっしりとした小包が届きました。
何かと思い開けてみると、出てきたのはArt Basel の50周年を記念するカタログ「Art Basel|Year 50」でした。
 A4サイズ(29×21cm)でありながら、厚さ4cm、656ページにArt Basel 50年の歴史が凝縮されており、とにかく重い!

basel_catalogue_01カタログ表紙
比喩ではなく鈍器になる重さと固さです。

このカタログは、2019年のArt Basel(バーゼル、香港、マイアミ)の出展ギャラリー、参加作家、参加機関やパトロンを網羅しています。
コロナウイルスという特大の茶々はあったものの、2020年に50周年を迎えたことを記念して、Art Baselの50年を長年のArt Basel出展者、来場者、サポーターによるオーラルヒストリーや、テキストとビジュアルで構成されたタイムラインによる特筆すべき開催回の紹介で、Art Baselがどのようにこの半世紀、美術界の拡大と発展に関わってきたかを見ることができます。
世界の名だたるギャラリーのブースが見開きで大きく紹介されていますが、日本からは4軒のみ。
Taka Ishii Gallery、Yumiko Chiba Associates、Nanzukaのバーゼルの常連組と、
光栄にも、Watanuki Ltd./Toki-no-Wasuremono (ときの忘れもの)が紹介されています。

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 2019年3月、Art Basel Hong Kong
 右肩に掲載されている瑛九についての説明文の原文と和訳です:

"Q Ei (Hideo Sugita, 1911-1960) studied painting in the 1920s, and photography in the 1930s in Japan, switching between the two disciplines throughout his relatively short life - he died aged 48. Described as finding inspiration in Surrealism, he was at his most inventive in the field of photography, creating drawings and images in the darkroom using techniques of overlay, assemblage, or simply manupilating the effects of light. The collection of works presented here spanned his career and the range of mediums he worked in, as well as the variety of materials used. The small paintings suggest experiments with the various schools of Western modernism, yet are clearly different. A difference that achieves its best expression in Q Ei's photograms. Not widely known, Q Ei is nonetheless relevant for challenging the prevailing narrative of his immediate cultural framework - Japan in the post-World War Two era."

「瑛九(杉田秀夫、1911~1960)は1920年代に絵画を、1930年代に写真を日本で学び、48歳という比較的若年で亡くなるまでに両技法で制作を続けました。彼が最も独創的であった写真分野では、シュルレアリズムにインスピレーションを得たと言われる作品を暗室内でのオーバーレイ、アサンブラージュや単純な光源操作により制作しました。今回展示されている作品は初期から晩年まで、彼のキャリアを通して、多岐に渡る技法を用いて制作されたものです。小サイズの絵画作品は西洋のモダニズムを実験したようでありつつも、はっきりとした違いが見て取れます。中でも表現方法で最も独創的であるのが瑛九のフォトデッサンです。広く知られてはいませんが、第二次大戦後の日本という文化的枠組みの中に置いて、既存の価値観に挑んだ瑛九は重要な存在です」
(どなたが書いてくださったのかわかりませんが、海外初個展となった瑛九の、特にフォトデッサンの重要性について述べてくださったことを感謝します)

basel_catalogue_03_2画廊紹介ページ
画廊の情報の他に、Art Baselで最も記憶に残ったこと、そして50年後の美術界のビジョンについて亭主の言葉が掲載されています。
 昨今では大手のフェア事務局もオンライン上でのフェア開催を展開し、しかもそれは一定の成果を上げています。ときの忘れものも今年の3月にはキャンセルになったArt Basel Hong Kongに代わって開催されたオンラインビューイングルームで海外のお客様よりオノサト・トシノブの大作のお問合せをいただき、販売に結び付けることができました。
 ですが、やはり実際に海外に出向いてフェア会場に作品を展示して来場者に対応する経験には代えがたいものです。「ウィズコロナ」というフレーズが出回ってしばらく経ちますが、気軽にとは言わずとも、また海外に出かけられるようになる日が待ち遠しいです。

(しんざわ ゆう)

●本日のお勧め作品は瑛九です。
瑛九フォトデッサン瑛九《作品
1936~39年頃
フォトデッサン
30.3×25.2cm
サインあり
Art Basel Hong Kong 2019 出品作品
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●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。