佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第60回
制作の環境について
いま、目下制作中の諸々があるのだが、ここではそんな自分自身の制作の土台になっている居場所の環境について記してみたい。
そもそも福島県の大玉村に拠点を移したのは、制作環境、あるいは建築を作るのに自分の身をどんな場所に置くと良いかを考えての、一つの実験でもある。さらには家族という数人の共同体がどんな風に生活を作っていくか、の小さな試みでもある。しかしもちろん、理想的な環境がすでに実現しているかといえば、まだまだ道のりは長い。
長年空き家であった民家を借りて、内部に手を加え続けながら少しずつ生活を充実させているが、日々やらなければいけないことをこなしているうちに時間が過ぎていく。最近、ようやく部屋に薪ストーブを導入し、ひとまずの暖が取れるようにはなったが、煙突は突貫工事だったためにあまり高く設置することができず、燃焼効率も悪い。またどこかで時間が取れたら煙突を伸ばす工事をしよう、と頭の片隅にはおいてある。まだトイレにつけるはずだったモノを置くための棚も作っていない。作ろうと思ってから早1年は経ってしまっている。ずっと立て付けが悪いままになっている引戸の扉もある。子どものためにストーブの安全柵も早急に作らなければならない。畑の横の粗大ゴミも未だ片付けができていない。今は寒い冬なので大丈夫だが、また暖かくなればそこら中に雑草が生えだして、その草刈りに追われることになるだろう。やらなければいけないことは山積みになっている。なんとか少しずつこなして、山を小さくしようと努力はするが、それ以上に新たな問題が浮上してくるので、如何せん、山は大きくなるばかりだ。
けれども、偉そうなことをいえば、生活する、とはおそらくそんなことなのだろうなとも思う。そして当初から理想のように考えていた、生活の中で制作する、とはこんな山積みになったやることの合間に、制作行為をシュッと滑り込ませていくことに他ならない。
生活に制作を滑り込ませるには、もちろん生活の場と制作の場がなるべく近い方がよい。暮らしている民家に差し掛ける形で木工所を作ったのは、生活と制作の関係を考えるにしても然るべき形だった。
木工所
木工所内部
木工所の脇では半畳タタミを敷いて、材木を切り刻んでいる。
木工所の屋根壁は、近所で譲り受けたハウスパイプを主材として組んだ構造となっている。妻面の半分は木端を組み合わせた形で壁を作ったが、反対側は未だ吹きさらしの状態だ。なので冬は寒い。作業の時にはこの屋根の下で薪ストーブを焚いてなんとか凌いでいる。今後壁を作るかどうかはわからないが、壁がないことで、この場所には空洞が生まれている。制作している「群空洞と囲い」は、実は構想のきっかけとして、そもそもこの作業場所があったのかもしれない。さらに元を辿れば、私の師である石山修武さんの建築が常に保持していた空洞性への憧憬があるのかもしれないが、ともかく、空洞の探究をこれからも続けていきたい。
また、最近、個展準備とは別ものとして、ギャラリーせいほうの公募展に出展する小品を制作した。作り方は、クリと鉄を使い、鉄媒染を施しているので他の制作物と違いはあまりないが、家具としてのハコというよりはどちらかといえば何かしらの縮減模型のつもりで作ったものである。
「空洞模型1」、クリ,鉄,鉄媒染
タイトルにナンバリングをしているのは、これが連続する空洞のモデルを意図したものだからである。そのあたりのことを春の個展では改めて展開させていきたい。
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。2022年春にときの忘れものでは第二回目となる個展「群空洞と囲い」を開催します。
●本日のお勧めは佐藤研吾です。
佐藤研吾 Kengo SATO
《季節を考える》
2018年
印画紙
23.5×23.5cm
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています。WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
制作の環境について
いま、目下制作中の諸々があるのだが、ここではそんな自分自身の制作の土台になっている居場所の環境について記してみたい。
そもそも福島県の大玉村に拠点を移したのは、制作環境、あるいは建築を作るのに自分の身をどんな場所に置くと良いかを考えての、一つの実験でもある。さらには家族という数人の共同体がどんな風に生活を作っていくか、の小さな試みでもある。しかしもちろん、理想的な環境がすでに実現しているかといえば、まだまだ道のりは長い。
長年空き家であった民家を借りて、内部に手を加え続けながら少しずつ生活を充実させているが、日々やらなければいけないことをこなしているうちに時間が過ぎていく。最近、ようやく部屋に薪ストーブを導入し、ひとまずの暖が取れるようにはなったが、煙突は突貫工事だったためにあまり高く設置することができず、燃焼効率も悪い。またどこかで時間が取れたら煙突を伸ばす工事をしよう、と頭の片隅にはおいてある。まだトイレにつけるはずだったモノを置くための棚も作っていない。作ろうと思ってから早1年は経ってしまっている。ずっと立て付けが悪いままになっている引戸の扉もある。子どものためにストーブの安全柵も早急に作らなければならない。畑の横の粗大ゴミも未だ片付けができていない。今は寒い冬なので大丈夫だが、また暖かくなればそこら中に雑草が生えだして、その草刈りに追われることになるだろう。やらなければいけないことは山積みになっている。なんとか少しずつこなして、山を小さくしようと努力はするが、それ以上に新たな問題が浮上してくるので、如何せん、山は大きくなるばかりだ。
けれども、偉そうなことをいえば、生活する、とはおそらくそんなことなのだろうなとも思う。そして当初から理想のように考えていた、生活の中で制作する、とはこんな山積みになったやることの合間に、制作行為をシュッと滑り込ませていくことに他ならない。
生活に制作を滑り込ませるには、もちろん生活の場と制作の場がなるべく近い方がよい。暮らしている民家に差し掛ける形で木工所を作ったのは、生活と制作の関係を考えるにしても然るべき形だった。
木工所
木工所内部
木工所の脇では半畳タタミを敷いて、材木を切り刻んでいる。木工所の屋根壁は、近所で譲り受けたハウスパイプを主材として組んだ構造となっている。妻面の半分は木端を組み合わせた形で壁を作ったが、反対側は未だ吹きさらしの状態だ。なので冬は寒い。作業の時にはこの屋根の下で薪ストーブを焚いてなんとか凌いでいる。今後壁を作るかどうかはわからないが、壁がないことで、この場所には空洞が生まれている。制作している「群空洞と囲い」は、実は構想のきっかけとして、そもそもこの作業場所があったのかもしれない。さらに元を辿れば、私の師である石山修武さんの建築が常に保持していた空洞性への憧憬があるのかもしれないが、ともかく、空洞の探究をこれからも続けていきたい。
また、最近、個展準備とは別ものとして、ギャラリーせいほうの公募展に出展する小品を制作した。作り方は、クリと鉄を使い、鉄媒染を施しているので他の制作物と違いはあまりないが、家具としてのハコというよりはどちらかといえば何かしらの縮減模型のつもりで作ったものである。
「空洞模型1」、クリ,鉄,鉄媒染タイトルにナンバリングをしているのは、これが連続する空洞のモデルを意図したものだからである。そのあたりのことを春の個展では改めて展開させていきたい。
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。2022年春にときの忘れものでは第二回目となる個展「群空洞と囲い」を開催します。
●本日のお勧めは佐藤研吾です。
佐藤研吾 Kengo SATO《季節を考える》
2018年
印画紙
23.5×23.5cm
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています。WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
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