「久保貞次郎先生の思い出~ヘンリー・ミラー」
久保貞次郎の会 藤沼秀子
久保先生の残した言葉です。
.………………………………………………………………
ミラーの絵の特長は、自由であること、一切を受容する広い精神が溢れていること。
ユーモアにみち見飽きることがない。
いくら凝視していても、こんこんと湧きいでる泉のように新鮮な思想が浮かんでくる。
ミラーの思想の抜群な点は鮮明であることであった。社会の束縛から開放されようと熱烈な意欲に燃えて、反逆し、力強く、デリケートであり、これだけの巨人が文学のほかに、絵画のジャンルで、自己を真摯に表現したことは、人類の文学史上極めて稀なケースであり、ミラー研究には欠かせぬ役割を果たすであろう。
…………………………………………………………………
かつて、「君看双眼色、不語以無愁」と称された久保先生が、
なぜヘンリー・ミラーに夢中になったのでしょうか?
久保先生とミラーの絵の出会は、1955年ブリジストン美術館と記録にありますが、ミラーの小説との出会は定かではありません。
しかしながら、頭に鉄槌(久保先生の雅号)を下された出会であった事は、後の久保先生の言葉で証明されます。
そして、1955年のミラー絵画との出会いとは
例えていうならば、77万年前の地磁気逆転を体現したような衝撃だったのではと想像します。
久保先生のミラーへの熱い思いは、周りにも、幸福をもたらしています。
瑛九は、ミラー絵画を見た衝撃を
「おそろしく自由だなぁ」と称しています。
久保先生はミラーの水彩画のほか、ミラーの手紙の大コレクターでもありました。
ある時、ロチェス(Hミラーアーカイブスのあった、久保先生宅の近隣のマンション)で、私たち、ピーチク煩い跡見の卒業生に、ミラーの手紙を見せ、
「さて、この単語は何かわかりますか?」と質問されました。
「My stery」
私たちは、マィ ステリィ? 綴りを間違えたんじゃ等と、貧弱な想像の答えをしました。
久保先生は、前後の文脈から考えるに、 Mystery だと教えて下さいました。
久保先生も、この謎解きに一瞬迷われたのではと思いました。
久保先生の浮き浮きとした表情から、ミラーの手紙に対して、凄く大切に、何回も読み直して大事に思われているのだなと伝わった瞬間でした。
久保先生のミラー水彩画への
情熱を身近に観ているうちに、
欲しくて欲しくてたまらなくなり、
私たちは、ロチェスで、久保先生にかなり無理を言って、
ミラー水彩画をそれぞれ購入しました。
あのミラーの水彩画が、我が家に来るという、あの時の興奮は、今も続いています。
我が家には、「シャムの夜」「明るい幻想」「海底」の3点がやってきました。
「シャムの夜」は、1952年ミラーが世界中を旅して、各国で水彩画の個展を開催した時期に重なります。
セリグラフの原画となっています。

……… 南国の暑さと湿気で、赤い血液の中にいるような、気だるさに包まれた、深夜でしょうか。
一艘の小船が、昼間は出歩くことが許されない王族を、どこかの秘密の場所に誘う様な、妖艶な空気を漂わせています。 ………
「明るい幻想」は、1958年、久保先生とミラー水彩画の出会(1955年ブリジストン美術館)の直後に描かれています。

……… 生まれて来て良かったと思える瞬間です。
何もかもが生命の喜びに溢れています。
悲しいことなど存在しない、楽しくて楽しくて仕方ない子供時代の時間たちに、平和の鳩や太陽や月や星が微笑を贈っています。
臍の緒が付いた赤ちゃんも、早くこの世界に来て、皆んなと遊びたくて仕方ありません。
沢山の優しい目が、憧れを持って見守っています。 ………
「海底」は1967年ミラー76歳の時の作品です。
ホキ徳田さんと結婚した年です。
幸せの絶頂期でしょうか。

……… 海底 は、自由です。
とことん自由です。
瑛九のいった、「おそろしく自由だなぁ」の世界です。
皆んな、わいわいと会話を楽しんでいます。例え、明日誰かに食べられても、この自由は終わりません。
あれ、人間が一人迷いこんでいます。でも、海の住人たちは気にしません。
全てを受け入れ、毎日楽しく暮らす術を知っています。
本当の自由を知らない地上の人間たちを、ちょっと哀れに思いながら ………
ストライプハウスギャラリーに展示される3点の、ミラーの水彩画から
物語を想像してみました。
オークションです。
次は、あなた様の番です。
ミラーの水彩画に会いに来てください。
是非、六本木ストライプハウスギャラリーを覗きに来てください。
あなた様の中に、どんな物語が生まれて来るのでしょうか。
(ふじぬま ひでこ)

藤沼秀子さんのエッセイ「久保貞次郎先生の思い出」は10月21日と本日10月29日の二回、ブログに掲載しました。
*久保貞次郎の会について
2018年に久保貞次郎(1909年5月12日 - 1996年10月31日没)の業績を振り返り、後世に伝えるため、跡見短大の教え子が発起人となり、『久保貞次郎の会』 を設立し、活動を展開しています。
第1回久保貞次郎の会(2018年)
建築家井上祐一先生をナビゲータに栃木県真岡市の久保講堂や久保記念観光文化交流館(旧久保邸)を見学 し、参加者との交流を行い、靉嘔先生にもご参加頂きました。
第2回久保貞次郎の会(2019年)
フランク・ロイド・ライト設計の自由学園明日館を見学、細江英公先生と栗田秀法先生(名古屋大学大学院教授)の講演会を行いました。
因みに真岡の久保講堂(国登録有形文化財)や久保家の住宅(現存せず)はライトの高弟・遠藤新の設計です。
第3回「クボテーって誰?——希代のパトロン久保貞次郎と芸術家たち」(2022年)
2022年10月15日(土)~10月29日(土)、久保先生と縁の深かった六本木のストライプハウスギャラーにて展覧会を開催します。
出品作品(60点)はすべて会員たちが持ち寄ったものです。小コレクター運動を唱導し、オークションで楽しく作品をわかちあうよろこびを教えてくれた久保先生への敬意をこめて、全点を入札方式で頒布します。入札リストをご希望のかたは、メールにてお申込みください。
e-mail: kubosadajironokai@gmail.com
皆さまのご参加をお待ちしています。
教え子たちのエッセイ「久保貞次郎先生の思い出」を5回にわたり掲載します(第1回秀坂令子のエッセイは10月8日のブログに掲載しました。)
栃木県真岡市の久保先生の広大なお屋敷は久保記念観光文化交流館となっていますが、同館の長瀧光子先生が10月17日ブログに「真岡市ゆかりの美術評論家・久保貞次郎 久保記念観光文化交流館(旧久保邸)より」をご寄稿くださいました。久保先生の生涯と業績、記念館の活動について丁寧に解説していただきました。
◆「クボテーって誰? 希代のパトロン久保貞次郎と芸術家たち」は本日最終日です。
会期:10月15日[土]~10月29日[土] *本日は17時に閉館します
会場:ストライプハウスギャラリー STRIPED HOUSE GALLERY
〒106-0032 東京都港区六本木 5-10-33
Tel:03-3405-8108 / Fax:03-3403-6354
主催:久保貞次郎の会


*画廊亭主敬白
オーナーの塚原さんのご厚意で、六本木のストライプハウスギャラリーで開催中の「クボテーって誰? 希代のパトロン久保貞次郎と芸術家たち」展が本日最終日を迎えました(17時まで)。恩師・久保貞次郎先生の跡見短大の教え子たちによる手づくりの展覧会ですが、場所柄もよいのでしょう、連日たくさんのお客様が来場されています。
10月29日は忘れもしない山形県酒田の大火のあった日です。46年前のあの日のことを今でも忘れません。
日本で初めて瑛九の版画をコレクションした本間美術館など、酒田の街のことは近々、書こうと思っているのですが、備えあれば憂いなし、災害は忘れたころにやってくる、心して日々を過ごしたいと思っています。
◆「アンディ・ウォーホル展 史上最強!ウォーホルの元祖オタク栗山豊が蒐めたもの」
会期:2022年11月4日(金)~11月19日(土) *日・月・祝日休廊

久保貞次郎の会 藤沼秀子
久保先生の残した言葉です。
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ミラーの絵の特長は、自由であること、一切を受容する広い精神が溢れていること。
ユーモアにみち見飽きることがない。
いくら凝視していても、こんこんと湧きいでる泉のように新鮮な思想が浮かんでくる。
ミラーの思想の抜群な点は鮮明であることであった。社会の束縛から開放されようと熱烈な意欲に燃えて、反逆し、力強く、デリケートであり、これだけの巨人が文学のほかに、絵画のジャンルで、自己を真摯に表現したことは、人類の文学史上極めて稀なケースであり、ミラー研究には欠かせぬ役割を果たすであろう。
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かつて、「君看双眼色、不語以無愁」と称された久保先生が、
なぜヘンリー・ミラーに夢中になったのでしょうか?
久保先生とミラーの絵の出会は、1955年ブリジストン美術館と記録にありますが、ミラーの小説との出会は定かではありません。
しかしながら、頭に鉄槌(久保先生の雅号)を下された出会であった事は、後の久保先生の言葉で証明されます。
そして、1955年のミラー絵画との出会いとは
例えていうならば、77万年前の地磁気逆転を体現したような衝撃だったのではと想像します。
久保先生のミラーへの熱い思いは、周りにも、幸福をもたらしています。
瑛九は、ミラー絵画を見た衝撃を
「おそろしく自由だなぁ」と称しています。
久保先生はミラーの水彩画のほか、ミラーの手紙の大コレクターでもありました。
ある時、ロチェス(Hミラーアーカイブスのあった、久保先生宅の近隣のマンション)で、私たち、ピーチク煩い跡見の卒業生に、ミラーの手紙を見せ、
「さて、この単語は何かわかりますか?」と質問されました。
「My stery」
私たちは、マィ ステリィ? 綴りを間違えたんじゃ等と、貧弱な想像の答えをしました。
久保先生は、前後の文脈から考えるに、 Mystery だと教えて下さいました。
久保先生も、この謎解きに一瞬迷われたのではと思いました。
久保先生の浮き浮きとした表情から、ミラーの手紙に対して、凄く大切に、何回も読み直して大事に思われているのだなと伝わった瞬間でした。
久保先生のミラー水彩画への
情熱を身近に観ているうちに、
欲しくて欲しくてたまらなくなり、
私たちは、ロチェスで、久保先生にかなり無理を言って、
ミラー水彩画をそれぞれ購入しました。
あのミラーの水彩画が、我が家に来るという、あの時の興奮は、今も続いています。
我が家には、「シャムの夜」「明るい幻想」「海底」の3点がやってきました。
「シャムの夜」は、1952年ミラーが世界中を旅して、各国で水彩画の個展を開催した時期に重なります。
セリグラフの原画となっています。

……… 南国の暑さと湿気で、赤い血液の中にいるような、気だるさに包まれた、深夜でしょうか。
一艘の小船が、昼間は出歩くことが許されない王族を、どこかの秘密の場所に誘う様な、妖艶な空気を漂わせています。 ………
「明るい幻想」は、1958年、久保先生とミラー水彩画の出会(1955年ブリジストン美術館)の直後に描かれています。

……… 生まれて来て良かったと思える瞬間です。
何もかもが生命の喜びに溢れています。
悲しいことなど存在しない、楽しくて楽しくて仕方ない子供時代の時間たちに、平和の鳩や太陽や月や星が微笑を贈っています。
臍の緒が付いた赤ちゃんも、早くこの世界に来て、皆んなと遊びたくて仕方ありません。
沢山の優しい目が、憧れを持って見守っています。 ………
「海底」は1967年ミラー76歳の時の作品です。
ホキ徳田さんと結婚した年です。
幸せの絶頂期でしょうか。

……… 海底 は、自由です。
とことん自由です。
瑛九のいった、「おそろしく自由だなぁ」の世界です。
皆んな、わいわいと会話を楽しんでいます。例え、明日誰かに食べられても、この自由は終わりません。
あれ、人間が一人迷いこんでいます。でも、海の住人たちは気にしません。
全てを受け入れ、毎日楽しく暮らす術を知っています。
本当の自由を知らない地上の人間たちを、ちょっと哀れに思いながら ………
ストライプハウスギャラリーに展示される3点の、ミラーの水彩画から
物語を想像してみました。
オークションです。
次は、あなた様の番です。
ミラーの水彩画に会いに来てください。
是非、六本木ストライプハウスギャラリーを覗きに来てください。
あなた様の中に、どんな物語が生まれて来るのでしょうか。
(ふじぬま ひでこ)

藤沼秀子さんのエッセイ「久保貞次郎先生の思い出」は10月21日と本日10月29日の二回、ブログに掲載しました。*久保貞次郎の会について
2018年に久保貞次郎(1909年5月12日 - 1996年10月31日没)の業績を振り返り、後世に伝えるため、跡見短大の教え子が発起人となり、『久保貞次郎の会』 を設立し、活動を展開しています。
第1回久保貞次郎の会(2018年)
建築家井上祐一先生をナビゲータに栃木県真岡市の久保講堂や久保記念観光文化交流館(旧久保邸)を見学 し、参加者との交流を行い、靉嘔先生にもご参加頂きました。 第2回久保貞次郎の会(2019年)
フランク・ロイド・ライト設計の自由学園明日館を見学、細江英公先生と栗田秀法先生(名古屋大学大学院教授)の講演会を行いました。因みに真岡の久保講堂(国登録有形文化財)や久保家の住宅(現存せず)はライトの高弟・遠藤新の設計です。
第3回「クボテーって誰?——希代のパトロン久保貞次郎と芸術家たち」(2022年)
2022年10月15日(土)~10月29日(土)、久保先生と縁の深かった六本木のストライプハウスギャラーにて展覧会を開催します。出品作品(60点)はすべて会員たちが持ち寄ったものです。小コレクター運動を唱導し、オークションで楽しく作品をわかちあうよろこびを教えてくれた久保先生への敬意をこめて、全点を入札方式で頒布します。入札リストをご希望のかたは、メールにてお申込みください。
e-mail: kubosadajironokai@gmail.com
皆さまのご参加をお待ちしています。
教え子たちのエッセイ「久保貞次郎先生の思い出」を5回にわたり掲載します(第1回秀坂令子のエッセイは10月8日のブログに掲載しました。)
栃木県真岡市の久保先生の広大なお屋敷は久保記念観光文化交流館となっていますが、同館の長瀧光子先生が10月17日ブログに「真岡市ゆかりの美術評論家・久保貞次郎 久保記念観光文化交流館(旧久保邸)より」をご寄稿くださいました。久保先生の生涯と業績、記念館の活動について丁寧に解説していただきました。
◆「クボテーって誰? 希代のパトロン久保貞次郎と芸術家たち」は本日最終日です。
会期:10月15日[土]~10月29日[土] *本日は17時に閉館します
会場:ストライプハウスギャラリー STRIPED HOUSE GALLERY
〒106-0032 東京都港区六本木 5-10-33
Tel:03-3405-8108 / Fax:03-3403-6354
主催:久保貞次郎の会


*画廊亭主敬白
オーナーの塚原さんのご厚意で、六本木のストライプハウスギャラリーで開催中の「クボテーって誰? 希代のパトロン久保貞次郎と芸術家たち」展が本日最終日を迎えました(17時まで)。恩師・久保貞次郎先生の跡見短大の教え子たちによる手づくりの展覧会ですが、場所柄もよいのでしょう、連日たくさんのお客様が来場されています。
10月29日は忘れもしない山形県酒田の大火のあった日です。46年前のあの日のことを今でも忘れません。
日本で初めて瑛九の版画をコレクションした本間美術館など、酒田の街のことは近々、書こうと思っているのですが、備えあれば憂いなし、災害は忘れたころにやってくる、心して日々を過ごしたいと思っています。
◆「アンディ・ウォーホル展 史上最強!ウォーホルの元祖オタク栗山豊が蒐めたもの」
会期:2022年11月4日(金)~11月19日(土) *日・月・祝日休廊

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