三上豊「今昔画廊巡り」
第3回 秋山画廊(前編)
1963年3月村井正誠展で開廊、案内状にはカマキンの土方定一のコメントがある。そして1970年2月閉廊。この7年間が、今回の前編にあたる旧秋山画廊だ。後編は85年に同所にビルを再建し、後に代々木へ移転する秋山画廊である。
60年代の秋山画廊は、神奈川県民ホール・ギャラリーのディレクターでもあった柳生不二雄さんと画家中川紀元のお嬢さん杏子さんで運営されていた。中川杏子さんは以前に新宿第一画廊で働いていたそうだ。同画廊では中西夏之、赤瀬川原平、田中信太郎、三木富雄らがグループ展を開催している。
脇道に逸れるが、60年代新宿には10軒近くの画廊があった。伝説的な凮月堂ギャラリーをはじめ、一番長い歴史をもった紀伊國屋書店4階の紀伊國屋画廊はすでになく、1962年に開廊し企画力をもつ椿近代画廊は新宿を離れ、10年ほど前に日本橋へ移転している。
秋山画廊へ戻る。オーナーは秋山直太郎さん、日本橋三越前で明治初年から芳年の錦絵などを扱う老舗版元・滑稽堂の継承者だった。日本橋の外れに画廊を開いても観客がくるだろうか、と運営を頼まれた柳生さんは思う。それを察した彫刻家の堀内正和さんは冗談に「場末画廊」といった。秋山さんは、運営は柳生さんと中川さんにまかせ、画廊の2階で趣味の読書にふけり、鍵の管理だけはしていたそうだ。
中川さんが学んだ文化学院の先生だった村井正誠さんの個展でスタートし、その後、彫刻の阿井正典、版画の恩地孝四郎と続く。柳生さんは彫刻が専門、しだいに立体の発表が多くなる。
会場は、当時の図版で見る限り、床はピータイルで所々色が違っている。壁面の造作はそれほど頑丈ではなく、床に対する巾木や天井とは隙間がある。北側上には窓があり、照明は蛍光灯とスポット数個だ。
作家名を少し揚げてみると、篠原有司男、藤田昭子、砂澤ビッキ、渡辺豊重、江口週、山口勝弘、伊藤隆康、土谷武、福岡道雄、若林奮、堀内正和、最上寿之、村岡三郎らが並ぶ。平面では、斉鹿逸郎、渡辺恂三、小野木学、松本陽子らの名前がみえる。おそらく柳生さんが声をかけ、上記の作家たちの間に若手が入ってくるという感じだ。
柳生さんによれば、堀内さんが京都市立美大で教えていたこともあり、京都の教え子たちが、トラックで作品を運び、徹夜で搬入する。3名ずつ3回そうしたグループ展が開催され、66年ごろには京都市立美大出の若手が個展をするようになったとか。この頃、関西の若手が継続的に紹介されているのは特色といえよう。
読売アンデパンダンが63年に終了し、美術館から追い出されエネルギーの集約の場となる貸し画廊の時代がやってくる。そうした時代状況と合ったのが秋山画廊(前編)だったといえよう。
追記をひとつ。室町には、蕎麦屋の名店砂場がある。その斜め前にあるのがアートギャラリー環だ。76年に開廊し、貸し画廊の運営とともに、石井茂雄、鏑木昌弥、尾藤豊らの企画展を開催してきた。90年代後半銀座に移転したが、2001年より再び室町を活動拠点としている。
(みかみ ゆたか)

*画廊正面。塀右側と建物の脇に入り口があった。

*柳生さんによる開廊案内ハガキ。
『秋山画廊 1963-1970』

2001年9月9日発行
700部制作
《非売品》
編集・発行:三上豊
印刷・製本:信毎書籍印刷株式会社
■三上 豊(みかみ ゆたか)
1951年東京都に生まれる。11年間の『美術手帖』編集部勤務をへて、スカイドア、小学館等の美術図書を手掛け、2020年まで和光大学教授。現在フリーの編集者、東京文化財研究所客員研究員。主に日本近現代美術のドキュメンテーションについて研究。『ときわ画廊 1964-1998』、『秋山画廊 1963-1970』、『紙片現代美術史』等を編集・発行。
・三上豊のエッセイ「今昔画廊巡り」は毎月28日の更新です。次回は2023年8月28日です。どうぞお楽しみに。
◆「幻想の建築 ピラネージ展」
会期:2023年8月4日(金)~8月12日(土)*日曜・月曜・祝日休廊
18世紀イタリアの建築家・版画家ジャン=バティスタ・ピラネージ(1720-1778)の《牢獄》シリーズ全16点(1761年ピラネージの原作、1961年Bracons-Duplessisによる復刻)を展示します。
出品作品の詳細、価格については7月27日ブログをお読みください。
●ときの忘れものは「ART OSAKA 2023」に出展します。
会期:2023年7月28日(金)~30日(日)
会場:Osaka City Central Public Hall 3F(大阪市中央公会堂)
出品作家:倉俣史朗、葉栗剛、瑛九、仁添まりな、植田正治、他
詳しくはコチラを参照してください。
●ジョナス・メカスの映像作品27点を収録した8枚組のボックスセット「JONAS MEKAS : DIARIES, NOTES & SKETCHES VOL. 1-8 (Blu-Ray版/DVD版)」を販売しています。
映像フォーマット:Blu-Ray、リージョンフリー/DVD PAL、リージョンフリー
各作品の撮影形式:16mmフィルム、ビデオ
制作年:1963~2014年
合計再生時間:1,262分
価格等については、3月4日ブログをご参照ください。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊
第3回 秋山画廊(前編)
1963年3月村井正誠展で開廊、案内状にはカマキンの土方定一のコメントがある。そして1970年2月閉廊。この7年間が、今回の前編にあたる旧秋山画廊だ。後編は85年に同所にビルを再建し、後に代々木へ移転する秋山画廊である。
60年代の秋山画廊は、神奈川県民ホール・ギャラリーのディレクターでもあった柳生不二雄さんと画家中川紀元のお嬢さん杏子さんで運営されていた。中川杏子さんは以前に新宿第一画廊で働いていたそうだ。同画廊では中西夏之、赤瀬川原平、田中信太郎、三木富雄らがグループ展を開催している。
脇道に逸れるが、60年代新宿には10軒近くの画廊があった。伝説的な凮月堂ギャラリーをはじめ、一番長い歴史をもった紀伊國屋書店4階の紀伊國屋画廊はすでになく、1962年に開廊し企画力をもつ椿近代画廊は新宿を離れ、10年ほど前に日本橋へ移転している。
秋山画廊へ戻る。オーナーは秋山直太郎さん、日本橋三越前で明治初年から芳年の錦絵などを扱う老舗版元・滑稽堂の継承者だった。日本橋の外れに画廊を開いても観客がくるだろうか、と運営を頼まれた柳生さんは思う。それを察した彫刻家の堀内正和さんは冗談に「場末画廊」といった。秋山さんは、運営は柳生さんと中川さんにまかせ、画廊の2階で趣味の読書にふけり、鍵の管理だけはしていたそうだ。
中川さんが学んだ文化学院の先生だった村井正誠さんの個展でスタートし、その後、彫刻の阿井正典、版画の恩地孝四郎と続く。柳生さんは彫刻が専門、しだいに立体の発表が多くなる。
会場は、当時の図版で見る限り、床はピータイルで所々色が違っている。壁面の造作はそれほど頑丈ではなく、床に対する巾木や天井とは隙間がある。北側上には窓があり、照明は蛍光灯とスポット数個だ。
作家名を少し揚げてみると、篠原有司男、藤田昭子、砂澤ビッキ、渡辺豊重、江口週、山口勝弘、伊藤隆康、土谷武、福岡道雄、若林奮、堀内正和、最上寿之、村岡三郎らが並ぶ。平面では、斉鹿逸郎、渡辺恂三、小野木学、松本陽子らの名前がみえる。おそらく柳生さんが声をかけ、上記の作家たちの間に若手が入ってくるという感じだ。
柳生さんによれば、堀内さんが京都市立美大で教えていたこともあり、京都の教え子たちが、トラックで作品を運び、徹夜で搬入する。3名ずつ3回そうしたグループ展が開催され、66年ごろには京都市立美大出の若手が個展をするようになったとか。この頃、関西の若手が継続的に紹介されているのは特色といえよう。
読売アンデパンダンが63年に終了し、美術館から追い出されエネルギーの集約の場となる貸し画廊の時代がやってくる。そうした時代状況と合ったのが秋山画廊(前編)だったといえよう。
追記をひとつ。室町には、蕎麦屋の名店砂場がある。その斜め前にあるのがアートギャラリー環だ。76年に開廊し、貸し画廊の運営とともに、石井茂雄、鏑木昌弥、尾藤豊らの企画展を開催してきた。90年代後半銀座に移転したが、2001年より再び室町を活動拠点としている。
(みかみ ゆたか)

*画廊正面。塀右側と建物の脇に入り口があった。

*柳生さんによる開廊案内ハガキ。
『秋山画廊 1963-1970』

2001年9月9日発行
700部制作
《非売品》
編集・発行:三上豊
印刷・製本:信毎書籍印刷株式会社
■三上 豊(みかみ ゆたか)
1951年東京都に生まれる。11年間の『美術手帖』編集部勤務をへて、スカイドア、小学館等の美術図書を手掛け、2020年まで和光大学教授。現在フリーの編集者、東京文化財研究所客員研究員。主に日本近現代美術のドキュメンテーションについて研究。『ときわ画廊 1964-1998』、『秋山画廊 1963-1970』、『紙片現代美術史』等を編集・発行。
・三上豊のエッセイ「今昔画廊巡り」は毎月28日の更新です。次回は2023年8月28日です。どうぞお楽しみに。
◆「幻想の建築 ピラネージ展」
会期:2023年8月4日(金)~8月12日(土)*日曜・月曜・祝日休廊
18世紀イタリアの建築家・版画家ジャン=バティスタ・ピラネージ(1720-1778)の《牢獄》シリーズ全16点(1761年ピラネージの原作、1961年Bracons-Duplessisによる復刻)を展示します。出品作品の詳細、価格については7月27日ブログをお読みください。
●ときの忘れものは「ART OSAKA 2023」に出展します。
会期:2023年7月28日(金)~30日(日) 会場:Osaka City Central Public Hall 3F(大阪市中央公会堂)
出品作家:倉俣史朗、葉栗剛、瑛九、仁添まりな、植田正治、他
詳しくはコチラを参照してください。
●ジョナス・メカスの映像作品27点を収録した8枚組のボックスセット「JONAS MEKAS : DIARIES, NOTES & SKETCHES VOL. 1-8 (Blu-Ray版/DVD版)」を販売しています。
映像フォーマット:Blu-Ray、リージョンフリー/DVD PAL、リージョンフリー各作品の撮影形式:16mmフィルム、ビデオ
制作年:1963~2014年
合計再生時間:1,262分
価格等については、3月4日ブログをご参照ください。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤が設計した個人住宅だった空間で企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています(WEBマガジン コラージ2017年12月号18~24頁の特集参照)。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊
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