浜田宏司の展覧会ナナメ読み No.1「ジョナス・メカス写真展」
綿貫さん
いつもお世話になっております。
原稿依頼のメール拝見しました。
長文ブログを書くのが苦手な私に、ときの忘れものブログの連載メンバーに加われとの事。
身に余る光栄ではありますが、わたしの拙筆な文章を「エッセイ」なる読み物として、ときの忘れもの豪華執筆陣と肩を並べてリリースするのは気が引けるので、ご依頼の件遠慮させていただこうかと……。
ただ、せっかくの機会ですので、ディレクターとして担当させていただいた展示構成や今後の展示の参考になりそうな情報を定期的にレポートさせていただきますので、こちらは新人スタッフの研修資料として情報共有していただくと共に、ブログに掲載していただいても構いません、どうぞご活用ください。
【展覧会ナナメ読み No.01】
展覧会タイトル:ジョナス・メカス写真展
アーティスト:ジョナス・メカス
展示内容:写真展示
展示作業:2月8日
作品展数:13作品+追加4作品/合計17作品
今回の展覧会は、ときの忘れもので開催されるメカスさんの個展の5回目にあたる展示です。
課題は未公開の作品を額裝無しでいかに効果的に展示出来るか、でした。
展示の度に額裝を新調するのは、コスト的にも展示終了後の作品の保管の面でも悩ましい所です。
また、同時期に東京都現代美術館で開催される第4回恵比寿映像祭ではメカスさんの新作も上映されるとの事。
メカスさんが来日された<前々回の個展同様、今回も多くのメカスファンの来場が見込まれるので、展示プランに関しては通常よりも多くのミーティングを重ねました。
そこで、昨年末の展覧会<「磯崎新銅版画展 栖十二」の際に考案した簡易フレーム方式を提案させていただきました。
結果、この判断は大正解でしたね、しかも、意外な効果を生むとは……。
設営初日。まず始めに行った作業は、12枚の作品を3枚一組にして4セットの組み合わせをつくることでした。一言で4セットといいましたが、何パターンあるか想像出来ますか?
順列・組み合わせの公式は記憶の彼方ですが、単純に3枚の作品の抽出方法だけで300パターン以上あるはずです。これを全て試してみるのは膨大な作業になります。効率的に作品の選定を行うには展示作品の様々な要素にあわせたフィルタリングが必要になります。



その、フィルタリング作業を別のことばに置き換えるなら「編集」です。今回の展覧会ほど、この「編集」作業が楽しくもあり興奮した展示は過去にさかのぼっても記憶にありません。
昨年来、ときの忘れものの展示を全面的にディレクションさせていただいてますが、毎回、来場者の導線や視線を考慮しつつ、作品の並びや壁面構成に「ストーリー」を持たせるよう心がけています。
このストーリーを考えるプロセスが、今回の展示の場合映画のフィルム編集と同じ構造である事を発見しました。恐れ多くもメカスさんのフィルムを再編集する。こんな貴重な機会を与えていただいた事を、この場をお借りして御礼申し上げます。
展示されるメカスさんの作品は、彼自身が撮影した16mmフィルムから、3コマ程度の部分を抜粋し、写真として固定された「フローズン・フィルム・フレームズ-静止した映画」と呼ばれる仕事です。
その中の「this side of paradise」シリーズは、1960年代末から70年代始め、ジョン・F・ケネディ米国元大統領の未亡人であったジャックリーン・ケネディの依頼により、メカスさんが子息のジョン・ジュニアやキャロラインといとこたちに映画を教えていた時期に撮影されたフィルムを基にした作品です。
主な撮影場所は、アンディ・ウォーホルが所有するモントークの古い別荘で、週末にはウォーホルやピーター・ビアードが加わり過ごした、約半世紀前の「ある時間、ある断片」が印画紙に焼き付けられています。



4組のフレームを選定するにあたって、全体のテーマを「避暑地/週末のある日」と設定しました。
そして、12枚のイメージを4つのシークエンスに振り分けます。シーン設定に関しては言わずもがな的な所もあるので想像にお任せします。
一つの作品の中に3コマのイメージが焼き付けられていますから、3枚を同時にフレームアップする事で9コマのイメージが一つのフレーム(額)の中に出現します。情報量が多くなると作品の見え方も当然変わります。編集作業の中で、静止した映画が動き出すような錯覚に囚われてしまいました。
このフレームアップの作業が3枚の作品に関連性を持たせると共に、“時間”の概念を出現させ、各シークエンスとテーマ設定のリアリティーを強化したのです。冒頭「意外な効果を生むとは…」と記したのはココにあります。
「フローズン・フィルム・フレームズ」がメカスさんの作品のコンセプトであるなら、今回の展示方法は新しいメカスさんの作品の見方を提案出来た展示になったのではないかと自負しております。
ご来場された皆様も、ご自身の想像の中で新たなストーリーを組み立ててみるのも鑑賞の楽しみ方かも知れません。メカスさんの映画同様、十分に時間を取って作品をお楽しみください。
コレクターの方にお願いです。
今回の作品の購入を検討されているのであれば、1枚とは言わず、2枚3枚とお買い上げいただく事で、作品をより深く鑑賞する事が出来ます。どうぞ、ご一考ください。セット購入の場合の価格に関しては、亭主も相談に乗っていただけると思います。(保証はしませんが……)
■浜田宏司(はまだこうじ)
BookGallery CAUTION(ブックギャラリー コーション)ディレクター
Facebook アカウント:http://www.facebook.com/profile.php?id=100001210877534
Twitter アカウント:BOOK GALLERY CAUTION
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
◆ときの忘れものは、2012年2月10日[金]―2月25日[土]「ジョナス・メカス写真展」を開催しています(※会期中無休)。
レセプション:2月18日(土)18時~20時
メカスさんは来日しませんが、昨秋刊行されたジョナス・メカス『メカスの難民日記』(みすず書房)の翻訳者である飯村昭子さんをニューヨークから迎え、同じく飯村訳の『メカスの映画日記』(1974年、フィルムアート社)の装幀者である植田実さん、メカス日本日記の会の木下哲夫さんらを囲みレセプションを開催します。どなたでも参加できますので、ぜひお出かけください。
尚、パーティの始まる前(17時~18時)にギャラリートークを開催しており、18時前には予約者以外は入場できません。

「それは友と共に、生きて今ここにあることの幸せと歓びを、いくたびもくりかえし感ずることのできた夏の日々。楽園の小さなかけらにも譬えられる日々だった」
「this side of paradise」シリーズより日本未発表の大判作品13点を展示します。
1960年代末から70年代始め、暗殺された大統領の未亡人ジャッキー・ケネディがモントークのアンディ・ウォーホルの別荘を借り、メカスに子供たちの家庭教師に頼む。週末にはウォーホルやピーター・ビアードが加わり、皆で過ごした夏の日々、ある時間、ある断片が作品には切り取られています。60~70年代のアメリカを象徴する映像作品(静止した映画フィルム)です。
ジョナス・メカスさんの新作映画《スリープレス・ナイツ・ストーリーズ 眠れぬ夜の物語》が東京都写真美術館他での「第4回 恵比寿映像祭――映像のフィジカル」で上映されます。
綿貫さん
いつもお世話になっております。
原稿依頼のメール拝見しました。
長文ブログを書くのが苦手な私に、ときの忘れものブログの連載メンバーに加われとの事。
身に余る光栄ではありますが、わたしの拙筆な文章を「エッセイ」なる読み物として、ときの忘れもの豪華執筆陣と肩を並べてリリースするのは気が引けるので、ご依頼の件遠慮させていただこうかと……。
ただ、せっかくの機会ですので、ディレクターとして担当させていただいた展示構成や今後の展示の参考になりそうな情報を定期的にレポートさせていただきますので、こちらは新人スタッフの研修資料として情報共有していただくと共に、ブログに掲載していただいても構いません、どうぞご活用ください。
【展覧会ナナメ読み No.01】
展覧会タイトル:ジョナス・メカス写真展
アーティスト:ジョナス・メカス
展示内容:写真展示
展示作業:2月8日
作品展数:13作品+追加4作品/合計17作品
今回の展覧会は、ときの忘れもので開催されるメカスさんの個展の5回目にあたる展示です。
課題は未公開の作品を額裝無しでいかに効果的に展示出来るか、でした。
展示の度に額裝を新調するのは、コスト的にも展示終了後の作品の保管の面でも悩ましい所です。
また、同時期に東京都現代美術館で開催される第4回恵比寿映像祭ではメカスさんの新作も上映されるとの事。
メカスさんが来日された<前々回の個展同様、今回も多くのメカスファンの来場が見込まれるので、展示プランに関しては通常よりも多くのミーティングを重ねました。
そこで、昨年末の展覧会<「磯崎新銅版画展 栖十二」の際に考案した簡易フレーム方式を提案させていただきました。
結果、この判断は大正解でしたね、しかも、意外な効果を生むとは……。
設営初日。まず始めに行った作業は、12枚の作品を3枚一組にして4セットの組み合わせをつくることでした。一言で4セットといいましたが、何パターンあるか想像出来ますか?
順列・組み合わせの公式は記憶の彼方ですが、単純に3枚の作品の抽出方法だけで300パターン以上あるはずです。これを全て試してみるのは膨大な作業になります。効率的に作品の選定を行うには展示作品の様々な要素にあわせたフィルタリングが必要になります。



その、フィルタリング作業を別のことばに置き換えるなら「編集」です。今回の展覧会ほど、この「編集」作業が楽しくもあり興奮した展示は過去にさかのぼっても記憶にありません。
昨年来、ときの忘れものの展示を全面的にディレクションさせていただいてますが、毎回、来場者の導線や視線を考慮しつつ、作品の並びや壁面構成に「ストーリー」を持たせるよう心がけています。
このストーリーを考えるプロセスが、今回の展示の場合映画のフィルム編集と同じ構造である事を発見しました。恐れ多くもメカスさんのフィルムを再編集する。こんな貴重な機会を与えていただいた事を、この場をお借りして御礼申し上げます。
展示されるメカスさんの作品は、彼自身が撮影した16mmフィルムから、3コマ程度の部分を抜粋し、写真として固定された「フローズン・フィルム・フレームズ-静止した映画」と呼ばれる仕事です。
その中の「this side of paradise」シリーズは、1960年代末から70年代始め、ジョン・F・ケネディ米国元大統領の未亡人であったジャックリーン・ケネディの依頼により、メカスさんが子息のジョン・ジュニアやキャロラインといとこたちに映画を教えていた時期に撮影されたフィルムを基にした作品です。
主な撮影場所は、アンディ・ウォーホルが所有するモントークの古い別荘で、週末にはウォーホルやピーター・ビアードが加わり過ごした、約半世紀前の「ある時間、ある断片」が印画紙に焼き付けられています。



4組のフレームを選定するにあたって、全体のテーマを「避暑地/週末のある日」と設定しました。
そして、12枚のイメージを4つのシークエンスに振り分けます。シーン設定に関しては言わずもがな的な所もあるので想像にお任せします。
一つの作品の中に3コマのイメージが焼き付けられていますから、3枚を同時にフレームアップする事で9コマのイメージが一つのフレーム(額)の中に出現します。情報量が多くなると作品の見え方も当然変わります。編集作業の中で、静止した映画が動き出すような錯覚に囚われてしまいました。
このフレームアップの作業が3枚の作品に関連性を持たせると共に、“時間”の概念を出現させ、各シークエンスとテーマ設定のリアリティーを強化したのです。冒頭「意外な効果を生むとは…」と記したのはココにあります。
「フローズン・フィルム・フレームズ」がメカスさんの作品のコンセプトであるなら、今回の展示方法は新しいメカスさんの作品の見方を提案出来た展示になったのではないかと自負しております。
ご来場された皆様も、ご自身の想像の中で新たなストーリーを組み立ててみるのも鑑賞の楽しみ方かも知れません。メカスさんの映画同様、十分に時間を取って作品をお楽しみください。
コレクターの方にお願いです。
今回の作品の購入を検討されているのであれば、1枚とは言わず、2枚3枚とお買い上げいただく事で、作品をより深く鑑賞する事が出来ます。どうぞ、ご一考ください。セット購入の場合の価格に関しては、亭主も相談に乗っていただけると思います。(保証はしませんが……)
■浜田宏司(はまだこうじ)
BookGallery CAUTION(ブックギャラリー コーション)ディレクター
Facebook アカウント:http://www.facebook.com/profile.php?id=100001210877534
Twitter アカウント:BOOK GALLERY CAUTION
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
◆ときの忘れものは、2012年2月10日[金]―2月25日[土]「ジョナス・メカス写真展」を開催しています(※会期中無休)。
レセプション:2月18日(土)18時~20時
メカスさんは来日しませんが、昨秋刊行されたジョナス・メカス『メカスの難民日記』(みすず書房)の翻訳者である飯村昭子さんをニューヨークから迎え、同じく飯村訳の『メカスの映画日記』(1974年、フィルムアート社)の装幀者である植田実さん、メカス日本日記の会の木下哲夫さんらを囲みレセプションを開催します。どなたでも参加できますので、ぜひお出かけください。
尚、パーティの始まる前(17時~18時)にギャラリートークを開催しており、18時前には予約者以外は入場できません。

「それは友と共に、生きて今ここにあることの幸せと歓びを、いくたびもくりかえし感ずることのできた夏の日々。楽園の小さなかけらにも譬えられる日々だった」
「this side of paradise」シリーズより日本未発表の大判作品13点を展示します。
1960年代末から70年代始め、暗殺された大統領の未亡人ジャッキー・ケネディがモントークのアンディ・ウォーホルの別荘を借り、メカスに子供たちの家庭教師に頼む。週末にはウォーホルやピーター・ビアードが加わり、皆で過ごした夏の日々、ある時間、ある断片が作品には切り取られています。60~70年代のアメリカを象徴する映像作品(静止した映画フィルム)です。
ジョナス・メカスさんの新作映画《スリープレス・ナイツ・ストーリーズ 眠れぬ夜の物語》が東京都写真美術館他での「第4回 恵比寿映像祭――映像のフィジカル」で上映されます。
コメント