ルリユールの歴史 1「書物と製本・装幀」
製本の歴史は、書物の歴史と分かちがたく結びついています。福音書に記された「初めに言葉があった」ごとく、初めに本があり、製本・装幀は、書かれた言葉を繋ぎ止め、保護し、読むために不可欠な技術として書物とともに生まれました。そして、本自体が信仰と愛の対象であった中世を越え、その美によって近代の個人的なフェティシズムが向かう対象にもなっています。

中世のルリユール(Reliures d'orfèvrerie)
フランス国立図書館所蔵品web展示「カロリング朝」から
http://expositions.bnf.fr/carolingiens/itz/15/03.htm
私たちが馴染んでいるこの本は、はじめから見開きであったわけではありません。古代の本は、アレキサンドリア図書館の伝説が語るように,パピルスの巻物型でした。見開きの本(冊子体)は、4世紀頃に生まれたと言われていますが、形態の変化とともに、本文紙として、パピルスに替わり、より強靱な素材であるパーチメント(羊皮紙)が使われるようになりました。以来、神の言葉を伝えるための媒体として、キリスト教の布教とともに冊子体の本が広まり、基本的な本の形態として定着し、手に取れる大きさと厚みをもつ現在の本の姿となりました。

初期の冊子:ナグ・ハマディ・コデックス
http://www.historyofinformation.com/expanded.php?id=1902
製本方法も、最初期のごく簡易な綴じから、古代ローマ・地中海世界のリンク綴じ、そして北方ヨーロッパで編み出されたより頑丈な綴じへと、テキストの散逸を防ぐ様々な技が模索されてきました。こうして千年の時間を耐えて生き延びた技術は、洗練され「綴じ付け製本」(ルリユール)の基本的な綴じ方として今日に受け継がれます。
15世紀後半に発明された活版印刷は、書物と、それを享受する人の意識双方に決定的な変化をもたらしました。中世を通して修道院で書写されていた本の所有者は、王・貴族・大学人に限られていましたが、世俗の人々にも手の届くものとなり、やがて黙読の習慣が生まれ、読書は個人を前提とするものとなります。
神を讃えることが主たる役割であった装幀も、ルネサンスの時代を迎えると、建築、絵画の隆盛を反映した装幀芸術として発展していきます。これを推進する核となったのは、イスラム世界から伝わった金箔による型押し装飾(ドリュール)です。イタリアからフランスにもたらされたドリュールは、フランスの地で、時代精神を吸収し華麗に花開くことになります。ルネサンス・イタリアの本の文化に魅せられ、「コレクターのプリンス」と呼ばれたジャン・グロリエから、時のフランス国王のコレクションまで、膨大かつ豪華なコレクションの歴史の幕開けとなりました。

ジャン・グロリエのコレクション
Filippo Beroaldo. De Felicitate opusculum. Bologne : Platonis de Benedictis, 1495.
フランス国立図書館所蔵のルリユールweb展示より
Notice dans le Catalogue général de la BnF
(文・市田文子)

●第2回紹介作品~市田文子制作



La Cafarde :Bona de Mandiargues
Mercure de France, Paris-Bezons/1967年
アルシュ紙に印刷 初版
・2004年制作
・204x133mm
・ランゲット製本 総パーチメント装
・17世紀の復元マーブル紙
・夫婦函
・箔押し:近藤理恵
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。
本の名称
(1)天
(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)
額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。
角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。
シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。
スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。
総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。
デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。
二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。
パーチメント
羊皮紙の英語表記。
パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。
半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。
夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。
ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。
両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。
様々な製本形態
両袖装
額縁装
角革装
総革装
ランゲット製本
◆新連載frgmの皆さんによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。
製本の歴史は、書物の歴史と分かちがたく結びついています。福音書に記された「初めに言葉があった」ごとく、初めに本があり、製本・装幀は、書かれた言葉を繋ぎ止め、保護し、読むために不可欠な技術として書物とともに生まれました。そして、本自体が信仰と愛の対象であった中世を越え、その美によって近代の個人的なフェティシズムが向かう対象にもなっています。

中世のルリユール(Reliures d'orfèvrerie)
フランス国立図書館所蔵品web展示「カロリング朝」から
http://expositions.bnf.fr/carolingiens/itz/15/03.htm
私たちが馴染んでいるこの本は、はじめから見開きであったわけではありません。古代の本は、アレキサンドリア図書館の伝説が語るように,パピルスの巻物型でした。見開きの本(冊子体)は、4世紀頃に生まれたと言われていますが、形態の変化とともに、本文紙として、パピルスに替わり、より強靱な素材であるパーチメント(羊皮紙)が使われるようになりました。以来、神の言葉を伝えるための媒体として、キリスト教の布教とともに冊子体の本が広まり、基本的な本の形態として定着し、手に取れる大きさと厚みをもつ現在の本の姿となりました。

初期の冊子:ナグ・ハマディ・コデックス
http://www.historyofinformation.com/expanded.php?id=1902
製本方法も、最初期のごく簡易な綴じから、古代ローマ・地中海世界のリンク綴じ、そして北方ヨーロッパで編み出されたより頑丈な綴じへと、テキストの散逸を防ぐ様々な技が模索されてきました。こうして千年の時間を耐えて生き延びた技術は、洗練され「綴じ付け製本」(ルリユール)の基本的な綴じ方として今日に受け継がれます。
15世紀後半に発明された活版印刷は、書物と、それを享受する人の意識双方に決定的な変化をもたらしました。中世を通して修道院で書写されていた本の所有者は、王・貴族・大学人に限られていましたが、世俗の人々にも手の届くものとなり、やがて黙読の習慣が生まれ、読書は個人を前提とするものとなります。
神を讃えることが主たる役割であった装幀も、ルネサンスの時代を迎えると、建築、絵画の隆盛を反映した装幀芸術として発展していきます。これを推進する核となったのは、イスラム世界から伝わった金箔による型押し装飾(ドリュール)です。イタリアからフランスにもたらされたドリュールは、フランスの地で、時代精神を吸収し華麗に花開くことになります。ルネサンス・イタリアの本の文化に魅せられ、「コレクターのプリンス」と呼ばれたジャン・グロリエから、時のフランス国王のコレクションまで、膨大かつ豪華なコレクションの歴史の幕開けとなりました。

ジャン・グロリエのコレクション
Filippo Beroaldo. De Felicitate opusculum. Bologne : Platonis de Benedictis, 1495.
フランス国立図書館所蔵のルリユールweb展示より
Notice dans le Catalogue général de la BnF
(文・市田文子)

●第2回紹介作品~市田文子制作



La Cafarde :Bona de Mandiargues
Mercure de France, Paris-Bezons/1967年
アルシュ紙に印刷 初版
・2004年制作
・204x133mm
・ランゲット製本 総パーチメント装
・17世紀の復元マーブル紙
・夫婦函
・箔押し:近藤理恵
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。
本の名称
(1)天(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)
額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。
角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。
シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。
スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。
総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。
デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。
二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。
パーチメント
羊皮紙の英語表記。
パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。
半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。
夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。
ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。
両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。
様々な製本形態
両袖装
額縁装
角革装
総革装
ランゲット製本◆新連載frgmの皆さんによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。
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